6 発電設備とロゼ
兵器が保管されていたコンテナを出た2人は、倉庫内の探索を再開した。
コンテナに穴を空け、中を見て回る。その繰り返しだし、中身も薬品や兵器など見慣れたものばかり。
だが、「開けるな」と書かれたコンテナを開けた後に事情は変わる。
コンテナの中にあったのは、地下に続く階段だった。どうやら、コンテナに見えただけで実際は偽装された何からしい。
「地下……だと?」
コンテナの中、地下への階段を見て零は言った。
にわかに信じがたいことだが、目の前にこうして存在している以上、事実だ。
そんな零をよそに、パーシヴァルは階段を調べていた。
本当に地下へと続いているのか。錬金術で細工されていないか。はたまた別の方法で仕掛けられた罠ではないか。
できる限りの手段で調べてゆくのだが。
「地下だな。別に罠でもなんでもない」
パーシヴァルは答えた。
「知らないぞ、そんなことは。そもそも潜入したときに地下なんて行った覚えはない……行こう。俺は情報が欲しい」
と、零。
「そのつもりだ」
2人はコンテナの中の階段を降りて、倉庫の地下へ。
コンテナの中というだけあって、階段は暗い。パーシヴァルがナノースで辺りを無理矢理照らし、その光を頼りに進む。
そうして進んだ突き当たりに厳重に施錠された鉄扉があった。
見ただけで重々しい雰囲気。加えて「何か」がこの先にあることを、2人は確信していた。
パーシヴァルが鉄扉に触れる。
頭が割れるような情報量だ。
この先にある「何か」を守るため、何者かが細工したのだろう。術式に術式が代入され、錬金術による細工としては規格外なほどに難解で堅牢だ。パーシヴァルが術式を解析し、その穴を突いて扉を破壊しようにも、それはかなわない。鉄扉がパーシヴァルを拒絶しているようなのだ。
「っ……」
声にならない声を漏らし、パーシヴァルは手を引っ込める。
「どうした?」
「……俺が扉を開けるか壊すことを、扉が拒んでいる。こんなのは初めてだ」
零が尋ねると、パーシヴァルは答えた。
零はパーシヴァルを拒んでいるらしい扉をまじまじと見る。
確かに雰囲気は物々しいが、人を拒んでいることは零にはいまいちわからない。
「俺はよくわからねえが、まあそういうことだろう。俺の理解の及ばないことなんて、いくらでもある」
と、零。
「ああ、そうだ。俺も同じだ」
パーシヴァルも同意する。
「そんなものなんてな、ぶっ壊せば良い。ちょうどここに良い感じの武器があるだろ?」
と言って、零はさっきコンテナから持ち出した外付けの術式兵器をパーシヴァルに見せた。
「まさか……」
「いいか、パーシヴァル。俺は職業柄こういう荒っぽいことも結構できる。離れてろよ!」
零は左手に装着した兵器にエネルギーをためる。
仕組みがどうなのかは、知らない。だが、説明書らしきメモにはイデアか何かしらのエネルギーを入れれば良いと書いてあった。だから零はイデアを展開する。
左腕を中心として展開される冷気のイデア。
それは外付けの術式兵器に確実にエネルギーを与え。
「おらあ!」
兵器は青白く光り輝く。
瞬間、パイルバンカーが起動して鉄扉を穿つ。
とんでもない破壊力だった。
扉には穴が空き、兵器にこめられた術式が発動してさらに穴は広がり。
その穴は人が通れる程度の大きさだった。
2人は穴を通って地下のスペースへと侵入する。
そこにあったものは3つの円柱状の培養槽らしきもの。だが、中で人などの生物培養されているわけではない。
その光景に近いものは、パーシヴァルも見たことがあった。
「……そういうことか。いや、この倉庫にはあって当然か。Ω計画の施設だからな」
パーシヴァルはそれを見て言った。
地下室にあったものは燃料用の『ROSE』を使った発電装置。培養槽の中にはロゼと同じ赤髪の少女が入っており、彼女はときおり身体をぴくつかせていた。
Ω計画の発電設備と『ROSE』を初めて見る零は表情をこわばらせつつ尋ねる。
「なあ、あれは何だ……人が培養槽の中にいるが、明らかに様子がおかしい」
「そうだろうな。用途を考えれば様子がおかしいのは当然だ。あれはな、Ω計画の発電装置だ」
と、パーシヴァルは答えた。
声色には出ていなくとも、思わず両手をぐっと握りしめている。
「発電装置!? 中に人がいるぞ!?」
「そういう装置なんだ。俺だって知ったのは最近だ。Ω計画は、そういうことを平気でやる連中なんだよ」
零が突っかかるとパーシヴァルは答える。
「……そうだな。まだ全貌はわからないが、そういうことをする連中なのか。で、彼女を出してやることは?」
零が尋ねるとパーシヴァルは首を横に振る。
「俺には出し方がわからない。培養槽を破壊すれば中にいるロゼは死ぬ。入れられた時点で終わりなんだ、ロゼは……」
パーシヴァルは補足するように言って、培養槽に近寄る。
もしパーシヴァルがともに旅を続けていたロゼが中にいるのであれば、もはや助ける手立てなどない。
祈るようなまなざしをそれぞれの培養槽に向ける。
ロゼではない。中にいるのは別のロゼだ。中に入れられたのも、すべてパーシヴァルが倉庫に来るよりも前。
「よかった……この中にはいない。探そう」
パーシヴァルは呟いた。
すると、零は言う。
「お前ならそのロゼはどこにいると思う?」
「ロゼをこいつの中に入れるまでの手間を考えると……さらに下層か。転生病棟なら発電設備の下で入れ替えていた。それと同等の設備なら……」
と言って、パーシヴァルは辺りを見回す。
ロゼを使った発電は培養槽だけでは完結しない。他のエネルギーと同じく、無限ではないのだ。
「探すか。俺にはその辺よくわからねえ」
と、零。
パーシヴァルは辺りを片っ端から調べていく。
扉は3人が入ってきた場所だけだ。ならば階段はどうか。パーシヴァルは視線を下に移し、階段を探す。床をこつこつと叩く。下に空洞があることは確かだが。
「ないな……」
パーシヴァルは呟いた。
「いや、多分あるぞ。このマンホールがそうじゃないか? 開けてみるぞ」
と、零は言ってマンホールを開けた。




