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10 最悪な決着

 タケルの前に現れた4人が何者か。タケルもそれとなく察し、戦うか逃げるかを選ばなくてはならないことはわかっていた。

 先頭に立つハリスはタケルの全身を舐め回すように見てこう言った。


「顔色悪ィしさっさと済ませんぞ。息も上がってやがる」


「そうね。悪いけどドクターたちの出る幕はないわよ。地下に放り込んでから色々やってちょうだい」


 ハリスが言うと、彼の隣にいた美しい青年――蘇芳蘭丸も言う。蘭丸はこのときハリスの肩に手を置いており、ハリスも嫌がることはなかった。


 強敵たちに睨まれ、タケルは自身の反逆がここで終わることを予感した。1対4、フィト相手に勝つことができたとはいえ、彼と同格かそれ以上の相手に勝ち目はない。

 タケルは歯を食いしばる。どうせ負けるなら少しでも傷跡を残すしかない――

 だからタケルはハリスと蘭丸に突進する。断片的にしかわからず使いこなせているとはいえないナノースで打撃を与えることを試みる。


「あああああああっ!!!」


 言葉にならない叫び声を上げながら、ハリスに触れようとする。が、蘭丸が身に着けていたレンズのアクセサリーをかざせばタケルの皮膚に術式が現れ。


「悪いけど、アタシたちはアンタよりナノースに詳しいの。それが『Vaccine(予防接種)』であってもね」


 蘭丸がそう言った直後だ。

 タケルの全身の骨が死なない程度に折られる。蘭丸のナノース『Lens(レンズ)』。それは光を操り、自身の術式やナノースを投影して遠隔で発動させる代物だった。


 全身の骨を折られたタケルは当然床に崩れ落ちる。激痛を超える痛みを覚え、タケルは声を出すこともかなわなかった。動くこともできず、あるのは痛みだけ。たちの悪いことに、タケルの身体には未だ蘭丸のナノースが投影されている。

 タケルは激しい痛みに意識が遠のき、そのまま意識を手放した。


「身体を再生させようものなら次は全身の筋肉をズタズタにしてやるわ」


 と、蘭丸。


「ヒュウ! 容赦ねえぜ、蘭丸も。で、クロルってやつ含めて地下牢行きでいいんだよな?」


「もちろん。さ、運ぶわよ」


 蘭丸、ハリス、ヴァンサンはタケルたちを担ぎ上げ、閉ざされた扉を開ける。そこは、蘭丸をはじめとするアイン・ソフ・オウルクラスの職員でなければ開けることが許されない場所。閉ざされた扉を抜け、エレベーターで最下層へ――


「にしても、まさに初見殺しでしたねえ」


 エレベーターの中でラオディケは言った。


「アンタに爆破されたくないからなるはやで制圧したのよ。特に『11』は殺さない方がいいでしょ? 貴重な成功例なんだから」


 蘭丸は答えた。


 やがてエレベーターは最下層――地下3階に到着した。

 職員用のエレベーターからたどり着いた地下3階には、病院の一角であるとは思えない景色が広がっていた。

 それはまるでSF映画に出てくる刑務所のよう。セキュリティで守られた堅牢な地下牢。ここは反逆を試みた職員や被検体が一時的に収容される場所。ここでひととおりの検査を受け、施設の準備が整えば収容された者は再教育施設へと送られるのだ。


「再教育前提ならひとまず治療か。ラオディケ、手伝ってくれる?」


 と、ヴァンサン。


「ええ、もちろんです」




 ここは地下1階、霊安室付近の検査室。

 タケルとマリウスを相手に戦い、不覚を取ったパーシヴァルは目を覚ました。意識を取り戻したパーシヴァルは、すぐに違和感に気づいた。

 服ははだけ、何か軽い。カードキーもノートも、大切なものはタケルたちに持ち去られたらしい。


「……まずい」


 パーシヴァルは呟いた。

 病棟職員、それも幹部であるアイン・ソフ・オウルとなればほぼすべての権限を持つカードキーをなくすことなどあってはならないことだ。が、パーシヴァルはそれをしてしまったのだ。


 パーシヴァルは焦りを露わにし、検査室に備え付けられている内線用の電話の受話器を手にする。かける相手は院長カノン・ジョスパン。パーシヴァルはカノンの端末に電話をかける。


『私だ。いや、なぜ内線電話からだ? 幹部でなくとも……』


 相手を疑うような口調のカノンだったが、すぐに状況を察する。


『地下1階検査室か。実験体25-666-11絡みだな。お前が誰か、何があったか伝えるんだ』


「パーシヴァル・スチュワート。単刀直入に言います。実験体25-666-11と検査技師に不覚を取り……おそらくカードキーとノートを奪われました」


 パーシヴァルが正直にそう伝えた後、しばしの沈黙が彼とカノンを包み込む。パーシヴァルが敬語で話すあたり、相当な事態である。

 その沈黙を打ち破ったのはカノンだった。


『何ということだ……始末書どころではないぞ。下手すれば謹慎だ。カードキーを奪われるということは、外に出せないものを流出させるということだ……まあいい。お前のことは後で詰めるとする。ひとまず、5階のナースステーションから電話をしてくれれば私がそこまで迎えに行く。話はそこからだ』


「はい、院長」


 パーシヴァルが言うと、カノンは電話を切った。


「……『ロゼ』たちに会うのはあと何年先になるのやら。俺は反逆者と戦うためにここで働いているんじゃない」


 パーシヴァルは呟き、検査室の扉をパスワードで開錠した。


登場人物紹介

蘇芳蘭丸

『転生病棟』幹部のアイン・ソフ・オウルの一員。長髪の美しい青年で、女性的な話し方が特徴。レンズのナノースを扱う。武装看護師の統括のひとり。

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