37 破門された者
スティーグが桃園と戦う傍ら。ミッシェルはローベルトとの戦いの途中だった。
桃園から引き剥がされた後、ミッシェルは再びローベルトに蹴りを入れる。対するローベルトはサーベルで受け止め。力を入れず、受け流すように攻撃をはじいた。
「二度は通用しねえって言ったよな?」
と、ローベルト。
今度はローベルトが攻撃に入る。はじかれたことで隙ができたミッシェルに、切り込む。
その攻撃を、ミッシェルは足で捌く。
「その通り……!」
ミッシェルは言うが、ほんの少し焦りを覚えていた。
戦っていた場所が開けた場所ならばよかったが、ここは違う。ここは森。加えて傾斜もある。ラディムたちの家の前で戦っていたときとは求められる能力が少し違う。
どうすべきか。
考えている間にもローベルトの鋭い攻撃がミッシェルに襲いかかる。その攻撃をそらし、はじき。
だが、足で攻撃を捌く動きにローベルトは隙を見つけた。
ローベルトはできた一瞬の隙を見て、一閃。
「そうは言うが、目に見えて焦ってるだろ。やっぱ『ROSE』にCANNONSの相手は荷が重いか?」
サーベルでミッシェルを切りつけ、それなりの傷を負わせたローベルトは薄ら笑いを浮かべながら言った。
「役不足だよ、バーカ」
ミッシェルは虚勢を張るような口調で言った。
ミッシェルはローベルトを格上だとは思っていないし、同格だとも思っていない。一方で、この山という場所を利用されてはかなり不利になることも、今は理解していた。
傷は体内の『ROSE』のエネルギーでごまかすことはできる。エネルギーを回復に適した形で循環させればいい。
攻撃は『ROSE』のエネルギーを一点に集中させるか、外に放つことでできる。これは他のCANNONSにはできない芸当だ。
この状況の切り開き方を考えていたミッシェルだが、当然ローベルトは待ってくれるはずもない。
ローベルトはたたみかけるようにまた切り込んできた。ミッシェルは彼の刃をまた足で受け止めた。
ここでミッシェルは思いついた。格上でも同格でもない相手だが、こうも面倒な場所で戦わされるのなら一撃で決めてしまいたい。あるじゃないか、その方法。やったことはなくとも。
足で受け止めて、蹴り飛ばす。
だが、ローベルトはその勢いを利用し、木に着地するかのように足をつき。蹴って勢いをつけ。
「役不足? 力不足の間違いだな!」
と言って、ローベルトはミッシェルを翻弄するような動きで彼女に肉薄し。一閃。
ローベルトはミッシェルに動きを捕捉されていないつもりでいた。だが。
「おらあ!」
小手先で森という地形を利用したローベルトの動きなど、簡単に読めていた。
ミッシェルは足にエネルギーを纏い、ローベルトの攻撃に合わせて蹴りを放った。そこでエネルギーの循環を変え、ローベルトをそのまま吹っ飛ばす。
ローベルトは近くの木に背中からぶつかり、倒れる木に巻き込まれて気を失った。
ミッシェルは倒れた木のそばに寄り、ローベルトの様子を見た。
まだ息はある。
「よかった。死体を引き渡すことにならなくてさ」
ミッシェルはそう言うと、ローベルトの服を破って止血する。処置が終わると担ぎ上げ、来た道を戻ろうとした。が、道がわからない。
「ミッシェル、そっちじゃないぞ」
背後から声をかけるスティーグ。
「え……なんでわかるんだよ……」
「こっちに来るとき、木に鉈で印をつけておいた。これで戻れるだろう」
スティーグは答えた。
こうして2人は戦いを終えて戻っていった。
もちろん、上で――ラディムたちの家近くで起きていることなど知るよしもなかった。
それはラディムの本拠、実験体収容所への道でのことだった。
息のあった襲撃者を捕え、運んでいるとき。ラディムは明らかに戦闘中のものではない足音と謎の気配に気づく。
「誰だ。連絡もなしにこんな辺鄙なところに来て、何のつもりだ」
ラディムは言った。
「すまない、どう連絡したら良いかわからなかったものでね。こうして直接来させてもらった」
という、ラディムにとって聞き覚えのない声。
数秒後、ラディムの前に銀髪で反転目の、スーツ姿の男が現れた。
「やあ、兄弟子。私だ。カノン・ジョスパンだ」
その男は言った。
年齢はラディムと同じくらいか少し年下くらい。物腰は柔らかいが、どこか胡散臭い。さらに、ラディムはカノンの中に、ある人に似た雰囲気を見いだした。
「アノニマスの弟子か。破門された俺に何の用だ。まあ、用があってもお帰り頂くが」
ラディムは棘のある口調で言った。
「怖いな。いや……先生がね、人体生成を成し遂げた君を求めていたんだ。我々に協力しないか? 対価はいくらでも用意する」
と言って、カノンはラディムに手を差し出した。
すると、ラディムは答える。
「なるほど。Ω計画だろう? 断る。先に接触した連中を優先しているし、俺を破門した一派に今さら協力するつもりもない。破門しておいて都合良く俺を連れ戻そうとするお前たちなど、泥水でも啜っていろ」
「そうか、残念だ。せっかく良いポストを用意するつもりだったが、こうなっては仕方がない。まだこちらにも手はある」
カノンが取り出したのは注射器とナイフが合わさったような代物。
ラディムもカノンが何をするつもりか気づき。
「やるのか」
そう言って臨戦態勢に入る。
そんなときだ。この場にいるはずのなかったタケルが2人の間に割って入ったのは。
タケルはカノンの得物を錬金術で無力化し、さらにカノンに蹴りを入れた。
「だめだ、ラディムさん! こいつの言葉に耳を貸しては!」
と、タケル。
ラディム、カノンの両方がタケルを見た。
「なるほど。まさか君まで来てくれるとは。病棟幹部を殺したとはいえ、君もΩ計画にいるべき人間だ。そうだな、次こそ――」
と、カノンが言うときだ。カノンはナノースを発動させ、もう一度この場をやり直そうとしていた。
タケルはそれに気づき。
「やらせない!」
タケルはカノンに突っ込み、ナノースの発動――時間逆行を妨害し。
空間、時間に歪みが生じた。
それはタケルとカノンの手が触れた場所を基点とし、大陸中に広がり。
辺りをとんでもない衝撃波が襲う。
タケルもラディムもカノンも吹っ飛ばされた。特にカノンは吹っ飛ばされて崖から滑落した。




