36 山奥の戦い
アカネとラディムの戦っていた襲撃者は全員かたをつけた。2人は先程話したように倒れた襲撃者から細胞を採取する。その襲撃者たちのうち1人はまだ息がある。
「へえ。アンタに興味ある人いるから、ちょっと実験体になってよ」
アカネは息のある襲撃者に言った。意識のない彼には聞こえているはずもないが。
アカネはラディムにアイコンタクトをとる。
「助かるが、お前は前線にいた方がいいだろう。そいつは俺が実験室に運んでおく」
アカネの意図をくみ取ったのか、ラディムは答え。意識のない襲撃者のそばに移動すると襲撃者を持ち上げた。
「少し抜ける。この戦況なら、裏切り者がいない限りどうってことはないだろう」
と、ラディムは答えた。
そうしてラディムは襲撃者を担いで家へ――実験室へと戻る。
アカネやラディムが襲撃者について考察している頃、ミッシェルは目当ての敵を前にして邪悪な笑みを浮かべていた。
「食えるかよ、てめーの肉なんて。祠壊しといて、下品な男だな?」
ミッシェルがそう言った後、2人のCANNONSがぶつかり合う。
ローベルトのサーベル。ミッシェルのブーツに仕込まれた刃。火花が散り、金属音が響いた。
「わかってんだよ! CANNONSに同じ手は通用しねえ!」
と言うと、ローベルトはミッシェルを空中に弾き飛ばし、ミッシェルのものとは違う謎のエネルギーの塊を放つ。
エネルギーの塊はミッシェルにとっても予想外。だが、ミッシェルはとっさに体内の『ROSE』のエネルギーを循環させ。
「ふっ!」
避けることはできない。だが、攻撃そのものは防ぎきり。半ば強引に着地したと思えばその衝撃さえも利用する。衝撃で勢いをつけてローベルトに突進し、『ROSE』のエネルギーを纏った蹴りを放つ。
ローベルトもミッシェルの攻撃を再び受け止めるが。
「おい、押し負けてんぞ」
ミッシェルは言った。
平然とした顔をしていても戦況は嘘をつかない。『ROSE』のエネルギーを利用したミッシェルのパワーはローベルトの予想以上だ。
「何を――」
ローベルトが意地を張ろうとしたとき。ミッシェルはすでに次の攻撃に入っていた。
押し負けてよろめいて。そうしてできた隙をつくように、攻撃。だが、ローベルトも今のミッシェルに順応したらしく。攻撃を受け流して少しずつ後ろに下がっているのだ。それにミッシェルはまだ気づいていない。
のけぞるローベルトに、ミッシェルは攻撃を当てた。ブーツの刃がローベルトの肌を切り裂いた。
「ふははは! 次はてめえの首だ! 生首と胴体を解析してやるよ! タケルが!」
ミッシェルは勝ち誇ったかのように言うと、攻撃に入ろうとする。だが。
「周り、見てみろよ。お前は誘い込まれたんだよ。俺や相棒が得意な森の中に!」
ローベルトは言った。
このときになり、やっとミッシェルは気づいた。ここは開けた草地ではなく、森。知らないうちにラディムたちの家からは離れていたようだった。
「ああ、ローベルト!」
聞いたことのない声。上だ。ミッシェルが見上げると、そこにはまだ見ぬ襲撃者がいた。得物は通常のものより大きなジャックナイフ。
「こんなやつ!」
ミッシェルは応戦しようとした。が、敵はローベルとを含めて2人。注意が上に向いたとき、ローベルトが背後に回り込み、切り込んだ。
「こっちだよ!」
ミッシェルはその身を翻して攻撃を受け止めるが、直後に上から。
やられる。ミッシェルは絶望感を覚えた。
「まずい――」
樹上にいた襲撃もおそらくCANNONS。ローベルトひとりが相手であればどうにかなったのだろうが、もうひとりいるのならば――
だが、次の瞬間。
屈強な男――スティーグがもうひとりのCANNONSとミッシェルの間に割って入り。ジャックナイフを鉈での一閃で弾き飛ばし。
「大丈夫か、ミッシェル!」
響くスティーグの声。この上なく頼もしい助太刀だった。
スティーグは山や森での戦闘に慣れている。当然、樹木や地形を利用した戦い方にも対処できる。
「助かったぜ。アンタがいなきゃ、あたしは……」
ミッシェルは言った。
スティーグは無言で頷き、もうひとりのCANNONS――桃園勇二の方へ向き直る。
「その様子から見るとこういう場所での戦いが得意なようだな。俺もだ」
と、スティーグは言った。
「いやあ、驚いた。気配さえ感知させずに割って入るとは。天晴れだ」
苦笑いしつつ桃園は言う。そうしながらも目は笑っていないし、はじかれたジャックナイフの代わりに上着の中から苦無を取り。
先に動いたのは桃園。そのステップで一瞬にしてスティーグの視界から消える。反応するようにスティーグは衝撃波を飛ばす。
だが、その攻撃範囲内に桃園はいない。上だ。スティーグの隙を突くようにして上から斬りかかる。スティーグも鉈で受け止め、鍔競り合いとなる。それも勝敗は明らかだった。力で負けていた桃園はたやすくはじかれ、苦無は折れる。
桃園の表情は一変し。
「化物め……」
形勢はスティーグの方に傾いていた。圧倒的に強いスティーグを前にし、桃園は半ばパニックに陥り。
桃園は、次はベルトに差していた短刀を抜いてスティーグに斬りかかる。その剣幕は刃物を持った殺人鬼のようだが――たかが殺人鬼の気迫などでスティーグがひるむはずもない。桃園の刃はスティーグに届かない。
その鉈で、スティーグは桃園を一蹴した。
桃園の四肢が跳ぶ。近くの木に鮮血がかかる。
「君はキツネか猫のようだ。戦術さえ間違えなければ俺も危なかっただろうが……キツネや猫が正面から熊に向かっていったところでかなうわけがないのだ」
スティーグは血に染まった鉈を片手にそう言った。




