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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
反逆者の旅【大陸放浪編前編】
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32 リルト・フサール

 その建物は山小屋といえる規模ではなかった。寂れているというわけではなく、むしろその逆。資材を運び込むことも大変なこの山奥に、よくこのような建物がある、と言えてしまう。

 ここに住むリルトとは一体どのような人物だろうか。


 山道の一部から伸びる道は建物へと続いていた。


「ここが件の人物、リルト・フサールの家だな」


 スティーグは言った。

 ついにたどり着いたのだ。


 リルトの家は同居人のとある事情で人里離れた山奥にある。だからこうして一行はやってきたのだが。


「どうやって暮らしているのか想像がつかなかったが……タケルやアカネのやることを見ればなんとなくわかる。確かに錬金術師じゃなければここに住むことは困難だろうな」


 エステルが言う。


 一行は家のドアをノックする。来客が想定されていなかったであろうリルトの家にはインターホンなどなかったのだ。


「はーい!」


 すぐにドアは開き、1人の女が出てきた。

 その女の髪と肌はびっくりするほど白かった。瞳は血のように赤い。白と赤以外の色が存在しない彼女は、実験動物の白ネズミを思わせる。


挿絵(By みてみん)


 そんな彼女の姿を見たミッシェルは懐かしさを覚え。


「リルト……?」


 ミッシェルは思わず口にした。


「ええと……私あなたのこと知らないんだけどねえ? 確かに私がリルトだけど、招待した人とも違うし」


 と、リルトは煮え切らない様子。

 リルトミッシェルのことを知っているのは、あくまでも未来。今懐かしさを覚えたところでリルトも同じであるわけがない。


 だが、タケルとマリウスの姿を見るなりリルトは表情を一変させ。


「待ってた。タケルくんに会いたくて本部に連絡したんだよ」


 リルトは言った。


「初めまして。僕がタケル。会いたいってことはシオン会長から聞きました。でも、どうして僕に?」


 タケルは聞き返す。


「一番将来が楽しみな錬金術師だから……かな」


 と、リルトは答えた。


「とにかく上がって! ラディムたちが歓迎してくれるかわかんないけど!」


 リルトにそう言われ、タケル一行はリルトたちの家に入る。

 案内されてたどり着いたのは、客間だろうか。いや、そもそもリルトの住む家は来客があることなど想定されていないようだ。タケルたちを合わせた人数分に足りないソファには、すでに誰かが座っていた。


 ひとりは黒髪の、愛想の悪そうな長身の男。もうひとりは褐色肌の妖艶な男。


「ラディムー! 座ってたらタケルくんたちが座れなくなっちゃう! ザグルールも!」


 リルトは座っているふたりを見るなりそう言った。


「あはは。ごめんね、リルト。僕もラディムも来客には慣れていないんだ。あ、僕はザグルール。ラディムの人生のパートナーってやつ」


 と、褐色肌の男――ザグルールは言った。さらにザグルールは肘でつんとラディムをつつく。


「……ラディム・フサールだ。錬金術師。別に俺がお前達を招待したわけじゃない。会いたがっていたのはあくまでリルトだ」


 ラディムは言う。

 言葉の端々にも愛想の無さが現れていたが、彼がリルトやザグルールに向ける視線はどこか優しげだった。


「で、改めて私がリルト・フサール。ラディムに色々教えてもらった天才錬金術師ってわけ」


 最後に名乗るリルト。

 その後にタケルたちも名乗り、話は進む。わざわざ山奥までタケルたちを呼んだ理由。レムリア大陸がきな臭いこと。ここからそう離れていない場所にΩ計画の施設があること、など。

 そうやって話を進める中で、リルトはあるものを見て目を丸くした。


「これは……」


 冊子の中身を見てリルトは呟いた。


「カノンの日記……Ω計画の首謀者が書いたものだよ」


 タケルは答える。


「内容がわかるばかりにぞっとするね……いくらでも解釈のしようがあるから、いったんコピーを預かってもいいかな?」


 と、リルト。

 タケルは彼女の言葉に驚いた。これまでの旅でカノンの日記を理解できるのはごく限られた人物だった。その限られた人物の中でもタケルのようにほぼすべてを理解できる者はおらず。


「わかった。理解できるんだね」


 タケルは言った。


 間違いなくリルトは天才だった。彼女は世界というものを理解しているようにも見えた。

 だからこそ、タケルにとってリルトは恐ろしくみえた。何かの間違いでリルトがΩ計画側に落ちてしまえば勝ち目はない。


「もちろん。そこでなんだけど、私の研究室、見てほしいな。せっかく面白いものを見せてくれたから」


 と、リルトは言う。


 彼女は良くも悪くもずれているし、あくまでもタケルやΩ計画からすれば部外者。そうであり続けよう、観察者でいようとしているようだ。

 リルトは一体何を考えている――?


「見せてくれるの? 天才錬金術師の研究室を!?」


 妙な空気を破るように、リルトの話に食いついたのはアカネ。


「世の中はギブアンドテイクってラディムが言ってたから。山奥まで呼んでおいて何もなしというのはね」


 リルトは言った。


「じゃ、錬金術師だけ来ちゃって。よくわかる方がきっと面白いから」


 そう続けてリルトはにこりと笑った。

 だが、その裏にもきっと何かある。

【登場人物紹介】

リルト・フサール

タケルを山奥に呼んだ天才錬金術師。


ラディム・フサール

リルトの父で凄腕の錬金術師。人間不信でほぼ世捨て人のよう。


ザグルール

ラディムの人生のパートナーを名乗る。

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