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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
反逆者の旅【大陸放浪編前編】
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31 山奥の研究所への道

「おい、銃声がしたが大丈夫か!?」


 タケルがテントに戻るなり、マリウスは言った。同じテントにいるスティーグもタケルの身を案じていたようだった。


「何もされなかったよ。人が撃たれるところは見たけど。ううん、今は何もされなくても、これから何かされるかも」


 タケルが言うと、マリウスとスティーグは顔色を変える。


「どういうことだ。ちょっとしたことでもいい。話せることは全部話せ」


 と、マリウス。


 タケルは少しばかり黙り、話せることを整理する。

 さっき、望月史郎から聞いたことすべてを話せるわけではない。彼の言葉は今のレムリア大陸の主流――天動説からすると邪道もいいところ。たとえ信頼する仲間であっても信じてもらうことはできないはずだ。


 それを察したかのように、スティーグも言う。


「言いづらいことは言わなくていいぞ。俺たちはお前を拷問したやつとは違う」


 タケルは覚悟を決めたように口を開く。


「監視されているんだ。誰からかはわからないけど」


 タケルの立場からすればありえなくもない言葉だった。

 転生病棟と再教育施設から脱走し、Ω計画の情報を集めるタケル。本来ならば殺されてもおかしくないが、彼はΩ計画側の人間からも必要とされていた。


「僕はもともとも転生病棟にいて、脱走までしても殺されなかった。殺されない理由だってすごく心当たりがある。だったら、僕が監視されていてもおかしくないし、マリウスとスティーグも気をつけないといけない。2人には生かされる理由がないから」


 タケルは続ける。すると、マリウスは言った。


「だろうな。セーフハウスの時も、もし俺が外にいれば殺されていただろうな。それだけじゃねえ、連中はいつでも俺を殺すチャンスをうかがっている。チャンスがあれば、いつ殺されてもおかしくねえ」


 顔だけを見てもわかる。マリウスは覚悟してここに来ていた。いや、転生病棟に検査技師として潜入していたときから覚悟は決まっていただろう。

 だが、マリウスは自身の命を擲つつもりでいるようにも見えた。


「で、他に話せそうなことは?」


 と、マリウスは表に出そうな自身の感情を誤魔化すように続けた。


「銃声がする少し前だけど、謎の人に会ったんだ。撃たれたのはその人、確か望月史郎って人。どうやらΩ計画を止めたいみたいで……頼まれたんだ。Ω計画の完遂を阻止してくれって」


 タケルは答える。

 これが今、タケルが話せるすべてだ。間違ってもタケルと望月史郎の持つ世界観など話せない。


「なるほど……」


 マリウスはどこか含みがあるようだった。


「Ω計画を止めることは俺たちのやることとだいたい同じだ。今は特に考えることはないかもな」


 と、スティーグ。


「俺もそう思うんだよ。でも何か引っかかる気がする。監視についてもΩ計画ならやりかねねえ。連中は、何を考えている?」


 マリウスは言った。

 が、今ここで掘り下げたところでろくな答えは得られない。

 3人の眠気はしだいに強くなり、月がのぼる頃には3人とも眠りに落ちていた。




「というわけなんだ」


 翌日の朝。テントなどをすべて片付けて山道を行く中で。タケルは昨日のことを話す。もちろん自身の世界観は語らない。


「へー、よくわかんねえな。あたしだったら監視とか関係なしに突っ込んでぶっ殺すけど」


 タケルの話を聞いたミッシェルは歩きながら言った。


「そこはブレないんだね。さすがミッシェル」


 と、アカネも言う。


「これがタケルの話だ。次に俺の話もしていいか?」


 そう言ったのはマリウス。

 他の5人の視線が一気にマリウスへと向いた。


「お願い」


 タケルは言う。

 すると、マリウスは口を開き。


「テントで伝えようか迷ったが、全員がいるときに話すべきだと判断した。まず、知っているかもしれねえが、パーシヴァルはΩ計画を本当に裏切ったらしい」


「だろうな。再教育施設で戦ったとき、あいつはもうΩ計画を見限ってたよ」


 そう口を挟んだのはミッシェルだった。彼女は知っている側の人間だ。


「ああ。ミッシェルの言うとおり。残りの病棟幹部についてだが、ラオディケは暁城塞で見た通り、爆破するナノースを使ってくる。周りのことを考えないうえに引き際はわきまえている、やっかいな相手だ。加えて底が見えねえってところも面倒くさいな。

 ガネットは好戦的だが冷静だ。そのあたり、うまくバランスを取っているからここまで生き残っている。もし彼女にとって有利な状況になればすぐに仕掛けてくるだろうな」


 次にマリウスが話したのはラオディケとガネットのこと。

 ラオディケはともかく、ガネットについての情報がなかった一行にとっては予期せぬ情報だった。


「ヴァンサンは自分から仕掛けてくるとは思わないが、タケル相手なら話は別だ。ただし目的は殺すことじゃない。あいつはタケルにご執心だ。間違いなく俺含めた取り巻きを排除して、タケルだけを確保しに動く。

 それで、一番わからないのは(ムゥ)だ。俺を襲撃したあたり、何か考えがあったことに間違いない。ただ、秘密主義なうえに自分から動くことがない。ナノースの詳細もよくわからない。現状で一番危険になりうるだろうってのが、俺の見解だ」


 一歩一歩、歩みを進めながらマリウスは語る。

 転生病棟幹部――アイン・ソフ・オウルはもう半分ほどしか残っていない。だが、残った面々は間違いなく強敵だ。


「誰であろうと蹴散らすまでだ。そうだろう、マリウス」


 エステルは言った。


「そうだな」


 マリウスは答える。


 途中で休憩を挟みつつ、数時間歩いた頃だ。

 一行の視界には、おおよそ山には似つかわしくない建物が目に入る。

 あれが例の人物のいる研究所だ。


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