8.「いやあ。しかし、びっくりしたな。息子よ、父はてっきり」
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「領主様、頼みがあるんだが、いいか」
マスケット銃をシャルルに献上した後、レイは言った。
「なんだ。今なら何でも聞いてしまいそうだが」
「そりゃあいい」
ジャックはレイが次に言う言葉を予想できた。
「領主様、あんたのところの息子をウチのパーティーに入れていいか」
「・・・・・・」
しばしの沈黙が流れた。
はじめに口を開いたのはシャルルだった。
「レイ。自分が何を言っているのかわかっているのか」
「ああ。今日の決闘で確信した。ジャックは冒険者として生きるべきだ」
「お前ほどのものから見てもか」
「間違いねえ。数年あたしのところ預けてくれれば一流の剣士にしてやる」
「貴種たる我が息子の将来を、平民ですらない貴様が決めるのか」
静かな、しかし確実なプレッシャーが空間を包んでいくのが分かった。
「ああ」
「ほう」
お互いの体から染み出す、魔力同士のぶつかり。
その濃密さにジャックは気を失いかけていた。
「不敬であるぞ」
「不敬で結構。こちとらわざわざお伺い立ててやってるんだ。ありがたいと思え」
またお互い黙ってしまった。
「父上、レイ」
溜息を吐くシャルル。
「まあ、お前にこういうのは通じんか」
「そりゃあそうだろ。こちとら竜を狩ってきたばかりだ。今更人間一人怖くねえ」
「お前が息子のことを思って言っているのはよくわかる。日々世話になっているしな」
「じゃあ」
「しかし、だ。大事なのはジャックの意思だ。そうは思わんか」
「・・・・・・」
今度はレイが黙る番だった。
「お前がこんな風に段階を踏んでやってくるタイプとはこっちも思ってはおらん。大方、ジャックを先に誘って断られたのだろう。どうだ、ジャック」
「おっしゃる通りです。父上。私は冒険者ではなく、この街の領主となりたい」
「でもよ、この街の連中はジャックのことを侮ってやがる。単に魔法が使えないからってこの街の未来が暗いだのなんだのよ。あたしは許せねえ」
「魔法は貴種の証だ。そこは複雑なところだが、ま、私とて手をこまねいているわけではない。約束しよう。ジャックの魔法は必ず覚醒する」
「本当だろうな。嘘ならただじゃ置かねえからな」
「どうしてレイがそこまで怒るのさ・・・・・・父上。何か手立てがあるのですか」
ジャックにとっても寝耳に水であった。
「まあな」
「どうして今まで黙っていたのですか。そんな手があるのなら早く教えてくださらないと」
「父としても最後の手段と考えておってな。ただレイの言う通りの風評被害が出てしまっては致し方あるまいて」
「・・・・・・」
「悔しいか。自分の手で魔法を手に入れらないことが」
「ええ。まあ」
ジャックは目を伏せて言った。
シャルルがジャックの頭に手を置いて言った。
「案ずるな。私の予想では必ず覚醒するといってももおそらくそう簡単ではない」
「・・・・・・そうですか」
魔法を絶対に手に入れるための方策。その道のりを想像してジャックは今から寒気がしていた。
「なら、今回の話はいったんなしにしておいてやるよ。もしダメだったらわかってるよな」
ソファにふんぞり返ったレイが言った。
「そのときは冒険者でも何でも好きにするといい」
「どうしてレイが上から目線なのさ。父上も勝手に決めないでください」
シャルルが大きく笑って言った。
「いやあ。しかし、びっくりしたな。息子よ、父はてっきり」
「てっきり?」
「てっきりレイが婿取りのあいさつでもするのかと思っておったわ。いやあつい自分の時のことを思い出してしまった。あれは今と思い出しても大変だった」
「はあああああああああああ?」
レイが顔を真っ赤にしながら立ち上がった。
「・・・・・・父上」
父の良くないところが出てきたとジャックは思った。
「いやだってジャックがレイの横に神妙に座りながら、領主様頼みがあるんだが、であるぞ」
「レイにそんなつもりはありませんよ。ねえ、レイ」
「あ、あ、当たり前だろ」
レイがゆっくりと座り、俯く。
「ほら。父上のただの思い過ごしですよ」
シャルルが再び大きく笑った。
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