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7.その名前の響き。ジャックは身震いした

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シャルルの執務室は、グレイヘイブンの屋敷一階の最奥にあった。


豪華な2脚の応接ソファにはシャルルとレイが腰かけていた。ジャックはなぜかレイの隣にいた。


広間でのジャックの言葉でにわかに冷静さを取り戻したレイはそのままの足でシャルルの待つ丘の上の屋敷に向かったのだった。


応接室でシャルルとレイが竜の討伐報告をしている。


シャルルが深刻そうな顔で言った。

「そうか。竜がそんな人里の近くに現れたのか」


「ああ。こっちも見つけるのに手間どって何人か食われたあとだった。面目ねえ」

レイが顔を伏せた。


「そう気を落とすな。よくぞ討伐してくれた。お前でなければもっと多くの犠牲が出ただろう。さて、これが報酬だ」


言ってシャルルは金貨が詰まった袋をレイに渡す。


「ああ」


受け取るレイの複雑な表情。


「ま、暗い話はこれくらいにしよう。レイ、今回何か面白い話はないのか」


シャルルの決まり文句だった。グレイヘイブンは国境という立地ゆえに常に取り入れ備える必要がある。

が、それ以上にシャルルの新しい物好きの性格がこの街に新たな情報、文物を呼び込むのだった。


レイがパーティーメンバーの一人に目配せする。レイに布に包まれた棒状の何かを手渡す。


「今回はこれだ」


包みを解いて、テーブルの上にそれを置く。

棒はジャックの腰元ほどの長さがあって、ただの棒というには様々な装飾や仕掛けが施されているようだった。


これは。


「なんだ、これは」


シャルルが棒を持ち上げて、いろいろな角度から眺めている。


「武器だそうだ」


「武器? これが」


武器を机の上に置くシャルル。


「ああ。ただあたしにも使い方がわからねえ。それでも正しく使えば魔法よりもつええって触れ込みだ」


「レイ、貴族相手にそれは禁句だよ」

それは魔法を最上の手段とする貴族を簡単に怒らせることができる。

このような言葉をはけるのも長年の信頼関係のなせる業だった。


ジャックが窘めるとレイはバツの悪そうな顔をした。


「息子よ。あんまりつまらないを言うな。もし本当にそうなら大変なことだ。確かめる必要がある。しかしすばらしい細工だな。少なくともこの国の細工師にはできない」


「鍛冶師にも見せたが、かなり高等な技術が使われているようだ」


「しかし使い方がわからないではな。今のところ装飾品としての価値しかない」


「・・・・・・」

ジャックにはその武器に既視感があった。

思わず手に取る。棒はよく見ると、まっすぐ伸びた筒と湾曲した木製の部品に分かれていた。

なんとなく木製の部品を脇に挟む。すると、右手の人差し指にひっかかるものがあった。

いかにも押してくださいと言わんばかりの形状をしている。


「ジャック、あんた。これが何か知っているのか」


「窓を開けて」


パーティーの一人が窓を開け放つ。春の空気が部屋に充満する。


筒の先を窓の外に向ける。ひっかかりを人差し指で思い切り押しこむ。


何かが破裂した。爆発音。


その場にいた全員がひっくり返った。


「な、なんだ今のは。魔法か」

起き上がりながらシャルルは言った。


「そうとは思えねえ。ジャックに魔法は使えねえ。それになんだこの妙なにおい」


卵の腐ったような刺激的なにおいが穏やかな空間を一掃した。


「旦那様! 大丈夫ですか」

レオンを連れ立って、ソフィアが部屋に飛び込んできた。


「あ、ああ。心配ない。ちょっと転んだだけだ」


「それにしては音が大変大きゅうございましたが」


「いや、本当なのだ。ここにいた全員が同時に、な。なあ、息子よ」


「ええ。まったくその通りです」


「だから案ずるな。下がってよい」


不服そうな顔でレオンとソフィアが部屋を去っていく。


「さて」

向き直るシャルル。


「こいつはやべえな。音でごまかされちまったが、あれ見ろよ」


全員が窓の外を見る。少し離れたに大木を植えられていて、


その幹に穴が開いていた。


「これがその武器の力、というわけか」


「魔法よりつええかってはどうだ。領主様」


「・・・・・・これくらいの威力なら別に私の魔法でも出せないわけではない。しかも魔法ならこれほど大きな音はしない」


「なら魔法のほうがいいじゃねえか」


「レイ、違うよ。父上が言いたいのは」


シャルルが神妙な面持ちで言った。

「そう。使い方さえ覚えればこの威力をだれでも出せるということだ」


それはつまり


「平民が貴族を倒せる、と?」


貴族が平民を虐げ、支配できる理由は単に神に選ばれたというだけではない。魔法の力。それそのものが平民の反乱の抑止力になっていた。


「それにはひとつ条件があるな。この筒を大量に生産できることだ」


「さすがにこれ一つでは何もできませんからね」


「そんなことできる国がこの世界にあるのかねえ。あんまり気にする必要ないんじゃねえか。戦場でこんなの抱えてたらすぐにばれるしよお」


「しかし、この筒は実際に我々のもとまでやってきた。もしこれが秘密兵器であるならこんなに簡単に拝めないであろう。レイ、これはどこで」


「さあ。流れの商人から適当に買っただけだからな。なんでも珍品とか言ってよ」


「名前は?」


「確か、マスケット銃だったけな」

その名前の響き。ジャックは身震いした。


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