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4.そのパーティに加入すること。それは冒険者のキャリアの絶頂を意味する

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春の暖かな日差しのもとに灰色の城壁に囲まれた街があった。国境沿いの平野に存在するその街はシャトーロワールの動脈である王都街道をちょうどふさぐように存在しており、その道を通るすべての富を吸収し、その道を通るすべての悪から王都を守った。


グレイヘイブン。シャトーロワール随一の豊かさと強さを誇る要塞都市である。


すべてがあるこの土地を治めることはシャトーロワール国にとっての悲願であった。いくら民を送り街を作っても盗賊やモンスターに破壊される。隣国が土地欲しさに侵攻を繰り返し、ことあるごとにいちゃもんをつけてくる。


最後の望みとして封じたヴァンドーム家がその状況を一変させた。卓越した政治力と膨大な魔力がとうとうこの土地に治安というものを存在せしめた。かねてよりまとまった集落が落在せず、散り散りになっていたこの土地の人々をシャルルは一挙に引き受けた。


その勢いはとどまることを知らず、ついには隣国の脅威も徘徊するモンスターもおいそれとは手の出せない強さを手に入れた。


ジャックが屋敷の門から一歩外に出ると、すでにそのむんむんとした熱気を全身に浴びることができた。領主の屋敷はグレイヘイブン全体を見渡すことのできる丘の上にあるというのにそこですでに感じることができる


その感じがどんどん濃くなっていく。ジャックは街へ続く坂を駆け下りるそのときが一番好きだった。


街は春にふさわしい華やかな雰囲気に包まれていた。人の往来が多いため、多種多様な人々が流れ込み、様々なものを必要とする。そのためにさらに多くのものが集まり、一つの場所で売り買いされる。


ジャックが降り立ったのはそんなグレイヘイブンの中央市場ともいうべき場所だった。見たこともない髪や目の色が街を歩き、見たこともないようなものを売り買いしている。月に一度はこの市場を訪れるジャックだったが、来るたびにここは別の場所なのではないかと錯覚させられる。


「ぼっちゃん。今日も来たのかい」


声をかけてきたのは八百屋を営む女主人であった。恰幅の良い溌溂とした印象を与える。


「うん。今日は父上が休みにしてくれたんだ」


「あらまあ、それはよかったねえ。あ、そうだ。昨日納めた野菜はどうだった。領内の畑でとれた一等うまいやつだったんだよ」


「とてもおいしかったよ」


「そうでしょう。本当に領主様には感謝しているわ。このグレイヘイブンの地を治めてくださる。私たちのような流れ者にもこうして店を開かせてくださる」


「父上はそういう方だから」


「世の貴族様がみな領主様のような方ならもっと平和になるんだろうけどねえ」


「あはは。父上も喜ぶと思うよ」


「そうだ。もう聞いてるかもしれないけど、最近この辺りに怪しいやつらがいるみたいなんだよ。はやくどうにかしておくれよ」


「怪しいやつら? どんなやつらなんですか」


「あたしも聞いただけだからねえ。なんとも言えないんだけど」


市場のさらに向こう、城門に続く方向からひときわ大きな歓声が聞こえてきた。


「帰ってきたみたいねえ。レイのパーティが。ほら、行きな。ぼっちゃんもレイに会いに来たんでしょ」


「なんかごめんね」


「いいのよお。ここらで暮らしててレイに助けられたことのない人なんていないんだから。レイによろしくね」


「うん!」


市場の中央通りを一気に駆け抜けていくジャック。道行く人に返す挨拶もなおざりに城門の前の広場に向かう。


広間の前にはすでに人だかりができていた。人々はジャックの存在に気付くと、ゆっくりと道を開いた。


その奥に2つの影があった。


ひとつは竜であった。正確には竜の死体であった。その前身は胴と頭に豪快に切り分けられており、もともと真っ青だったうろこが赤黒いに塗料で染められているように見える。


そのすべてが血であった。それに気づいた瞬間、いっきに鼻孔の奥を血生臭さが貫いた。ジャックは思わずむせ返る。


「おい。ずいぶんなあいさつだな。ぼっちゃん」


分厚い鎧に身を固めた赤い髪の女が竜の横に立っている。その後ろには数名の男たちが控えており、そのいずれも平民のはずであったが、身分に似合わない威圧感があった。


「いや、そんなのしょうがないでしょ。こんなのがあるんだよ」


竜を指さすジャック


「今回はこれを倒したの、レイ」


レイのパーティー。グレイヘイブンの主役がジャックの父、シャルルであれば裏の主役は間違いなくレイであった。


平民の出身でありながらその剣の腕一本でグレイヘイブンとその周辺地域に絶大な影響力を及ぼす。


「そうだ。ま、あたしだけの力じゃねえけどな」


「いや、姉さん一人でばっこり言ってたっすよ。ぼっちゃん、竜の首切ったのは姉さんっす」


パーティーの一人がぼそりといった。


「うおお」


ジャックは開いた口がふさがらない。


「お前、報酬半額な」


「えええええ」


冒険者。土地を追われ、街と街の間に隠れ住む彼らは街の領主から一時的に雇われ、モンスターや盗賊団を討伐することを生業としていた。


平均して一年にも満たないその寿命。レイは5年も生き延びている。レイのパーティーというそのそっけない名前はリーダーであるレイ本人が照れくささからそのままにしていることもあるが、


第一にそれが冒険者の中で最も名誉ある名前になってしまったからだった。そのパーティとともに仕事をすること、ましてそのパーティに加入すること。それは彼らのキャリアの絶頂を意味する。


「じゃ、いつも通りやるか。ほら」


レイから投げ渡された木剣。


「そうだね」


木剣をつかんだジャックは慣れた手つきで振り回し感触を確かめると、正中に構える。


レイもまたすでに目つきが変わっている。

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