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30.「か、金がない」

シャトーロワール魔法学院、旧校舎近くの古ぼけた納屋。

そこを住みかとしているジャックは己の実情に直面してため息をついた。


「か、金がない」


財布としていた小袋の中にはもうほとんどお金が入っていなかった。

一人旅であれば半年くらいは持つ金額であったのだが、学院生活は何かと物入りであっという間になくなってしまったのだった。

何より


「学費が高すぎるんだよなあ」


王立学院だというのに全く信じられないことだった。

通っている生徒たちはみな魔法に目覚めた貴族の子女たちだから気にならないのだろう。

イザベルに事情を話し多少融通してもらったが、それでも当初の計画は完全に破綻してしまった。


「どうにかして金を稼ぐ必要があるな,,,,,,」


グレイヘイブンの領地で貴族として生きてきた自分も他の彼らと同じように金を稼いだことはない。

それでも直近の学費を払うためにもどうにかしなくては。


悶々としていると、今度は腹が鳴った。


「今日は休みだし、買い出しに行くかあ」


腹をさすりながらジャックはしぶしぶ納屋を出た。


学院の門までの道を歩く。

生徒たちは寮生活をしているから、、学院には当然食堂があって、三食提供している。

だが平民ということになっているジャックにはそこに入る資格がなかった。

どうやらジャックの話は生徒だけではなく、職員一同にも伝わっているようで、明らかに冷たかった。


「せめて食費が浮けばもうちょっと暮らしやすくなるんだけどなあ」


しばらく歩いてグラントモントの街に着いた。

学院は外界から隔絶されており、ここまで来るのにジャックの足で数時間はかかる。

正直勘弁してほしいところではあるが、ほかに方法はないので仕方ない。


グラントモントの中央市場に着いた。グレイヘイブンには劣るものの、買い物するには困らない程度には栄えていた。

日持ちのする干し肉やチーズなどを買い込むなどひとしきり用事を済ませると、ジャックは偶然見かけた食堂に入った。


食堂内は昼時ということもあって客でごった返していた。

なんとか席を見つけると注文する。


その間に周囲を見回しているとあるものを見つけた。


「バイト募集?」


悪くない、とジャックは思った。まずバイトで金が稼げる。現状金を稼ぐ手段がないし、自分自身腕っぷし以外では何もできないのだからしょうがない。

一番の魅力は学院以外の情報源ができることだ。

グレイヘイブンにいたときも領民の噂話というのは馬鹿にできなかった。

事実屋敷の襲撃に関する情報を最初に得たのは領主である父ではなく、平民たる彼らだったではないか。

ここで休日の間でも働くことができれば何らかの情報が得られるのではないか。


店内では店員がせわしなく走り回っている。見ず知らずの男でも雇ってくれる可能性はありそうだった。

ウェイトレスが料理を運んできたので、ジャックは言った。


「あのバイトの募集ってまだやってますか」

「え! もちろん! さあ、こっち来て」

「まだ料理食べてないんですけど」


腕をつかまれ、ずるずると裏に運ばれていく。


調理場はもはや戦場だった。怒号飛び交う狭い場所でみんな鬼気迫る表情で仕事に励んでいる。


「店長! 新人来ました」

「でかした。おい! 新人。ホールと皿洗い、どっちがいい」


おいおいおいおい。あまりの急展開に何も言えない。

今から何かを言ってもそのまま流されてしまいそうだった。


ここは腹括って立ち向かうべきだろう。


「ホール行きます!」

「よし。いってこい」


それからの記憶はあまりなかった。ただ忙しくホール内を駆け回り、料理を運び続けた。

客同士がけんかを始めると、それとなく転ばせて恥をかかせたり、食材が足りなくなるとなぜか急遽買いに行った。


夕方に近い時間帯になるとさすがに客足が落ち着いた。

大柄な店長がジャックのもとへやってくる。


「おう。新人。いきなりだったがよかったな。これからも頼むよ」

「え、ええ。ありがとうございます」


正直情報収集どころではなかったが、慣れればもう少しましになるだろう。


「お前、名前は」

「あー、ジャックです」


しまった。偽名を用意しておけばよかった。あまりの出来事にそこまで頭が回らなかった。


「ジャック、、?」


よくある名前だ。別に怪しまれることもない。


「金の髪、赤い目、ジャック・・・・・・」


みるみる店長の顔が曇っていく。


「悪い。今回の話は忘れてくれ」

「どうしてですか」

「すまん、言えない」


いかんともしがたい何かがある。ジャックはそう感じた。


「わかりました。事情が変わったらまた言ってください」

「・・・・・・そうだな」


そのあとも方々の店を回ってみたが、反応は同じだった。

何かが起きている。


予感は的中した、とジャックは学院前の門で確信した。

ギヨームのそばにした平民の少女が立っていた。


「あの。私、アンヌって言います。ジャック、さんですよね」

「やっぱりか。あいつが何かしているんだろう」


アンヌは続けた。


「グラントモントのあらゆるお店にはギヨーム様の息がかかっています」

「あーあ」

「だからあなたがあの街でお金を稼ぐ方法はありません。ギヨーム様はあなたを学費未払いで退学させようとしています」


全く貴族の考えそうなことだった。


「魔法で勝てないのなら権力で、か」

「私はギヨーム様から伝言を預かってきました」

「伝言」

「金が欲しければ、二つに一つ。恭順かクエストか」

「つまり奴の配下になれば学費を肩代わりしてくれるってことね」

「そういうことです。クエストは」

「わかってるよ」


つまり、レイと同じように冒険者になれということだ。


「僕がそれ以外の選択肢をとった場合は? 別に僕はこの学院を退学になったっていいと思っている」

「それは・・・・・・」


アンヌはなぜか言いよどんだ。


「大丈夫、言ってくれ」

「私を殺す、とそうおっしゃいました」

「は?」

「ギヨーム様は本気です。これまで何度も同じような目に遭ってきた子を見てきました」


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