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29.「ジャック。私の騎士なら敵にも恥をかかせないでください」

ギヨームとその取り巻きたちのまなざしといったらなかった。

まさか断られるわけがないと本当に思っていたようだった。まずは驚きが全身を駆け巡り、それが一周した後、

ようやく出来事を飲み込んだらしい。次第に怒りが沸騰したお湯のよう急速に膨れ上がったのだった。


「おい。俺たちでこの間の続きだ。実技試験の続きだよ。あのとき学院長に止められたがそうはいかない」

ギヨームがひときわ大きな声で言った。全身が強く震えている。


「そうか」


ジャックはそれだけ言った。


「あの時はあの教師がミスしただけだ」

「もう奴の手の内もわかってる」

「この人数でたたけば確実にやれる」


群れている人間特有の集団心理が徐々に彼らをむしばんでいくのが分かる。

あれを見ていればどうにかなる相手ではないのに、考えてしまうのだ。

あれは何かの間違いだ。

今なら間違いなく倒せる。


「今のお前らよりこの前倒したゴブリンたちのほうがまだ迫力はあったけどな」


それが合図だった。十人は超える生徒たちが一斉に魔法を放つ。


「これが魔法、ね」


シャボン玉でも見ているようだった。触れるほうが難しいではないか。

そもそも命中精度すら怪しく、納屋にぶつかりそうな魔法以外確実に躱す。


「お前ら何してんだ。囲め!」


ギヨームの叫びに呼応として子分たちがジャックを取り囲む。


「真後ろからぶつけてやれ!」


真後ろで魔力が顕現するのを感じる。

見る必要もない。


タイミングでステップする。わき腹をすぐ横を火の粉が通り抜けていく。


「ぐわっ!」


それが囲んでいた別の生徒に思い切りぶつかった。


「おい何やってんだ」

「ギヨーム様! こいつおかしいです!」

「うるせえ!いいから撃ち続けろ」


それからは単調な作業が続いた。月夜の下、ジャックは踊るにも似た動きで取り囲まれた中、放たれる

色とりどりの魔法を躱し続ける。取り巻きたちはそれについていけず、どんどん魔法をぶつけられ続ける。


この間、ジャックは一度も魔法を撃たなかった。


30分もしない間に取り巻きたちは動けなくなった。


「立てよ!」

「もう無理です。みんな魔力が切れました」


舌打ちするギヨーム。傍らにいた少女を強引に引き寄せた。


「動くな。それ以上舐めた真似すると、こいつがどうなっても知らないぞ」

「その子はお前の小間使いなんだろ。それを殺してどうする」

「はん。平民の命なんか知るものか。またその辺から連れてくればいい」


足が勝手に踏み込む。


「おおっと。そこで止まれ」


ジャックが立ち止まったのを見てギヨームが邪悪な笑みを浮かべた。


「ははは。しょうもない。こんな奴の命が大事かよ」

「・・・・・・」


ギヨームが魔法を顕現させる。先ほどの生徒たちが放つそれをも格段に大きい。


「動くなよ?」


それが思い切りぶつけられる。

ダメージはない。魔力を温存で来たので、確実に相殺できる。


「ふうん。無傷か。ただその魔力がいつまで持つかな」

「やれるだけやってみればいい」


ギヨームは何のためらいもなく魔法をぶつけ続ける。常人であればその一撃で内臓が破裂するほどのそれを。

その顔は愉悦に染まっている。


魔法をぶつけ続ける。

魔法を受け続ける。


「で? これはいつまで続くんだ?」


飽き飽きしてきたところでジャックが問いかけた。


「うるさいっ! いいからお前は動くな」


ギヨームの方は息も絶え絶えになっていた。後半の魔法は明らかに威力が弱くなっており、別に魔力で相殺する必要性すらなかった。


「わかった。動かないよ」

「そうだ。そ、そのままにしてろ」

「ああとも。僕は動かない」

「そうだ。そうしてろ」

「だからそうしてるって。早く僕に魔法を撃てよ」


言い合っているうちに別の足音がした。

これはギヨームたちの応援かと思ったが、彼らも状況が呑み込めていないようだった。


「これはどういうことですか!」


アンジェリークだった。


「アンジェ様」


これは説明が面倒臭くなってきたぞ、とジャックは内心で頭を抱えた。

言ったジャックにアンジェリークはキッとにらみつける。


「どういうことですか。みんな寄ってたかってジャックをいじめて。貴族として恥ずかしくないのですか」

「いじめ、ねえ」


ギヨームたちの様子といえば散々だった。十人いた取り巻きは全員自分たちの魔法でダウンしている。

そのうえ首魁のギヨームはジャックに傷ひとつつけることすらできず、魔力切れで動けない。


「もしかして、逆?」

「いや、おっしゃる通りのことが起きたんですよ。こちらは集団リンチされかけたんですが」

「ジャック。私の騎士なら敵にも恥をかかせないでください」

「違いますけど」

「こら。学院に入学したのですから、あなたは私の騎士でしょう」

「違いますけど」

「ほら、ここにいる方々が証人です。ねえ、みなさん」


見ると、ギヨームたちはすでに逃亡した後だった。

あの少女も一緒にいなくなっている。


ジャックはため息をついた。

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