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28.「断る」

ジャックの学院への入学は紆余曲折ありながらも最終的には不承不承で認められたようだった。


朝、ジャックは当たられた自室で目を覚ます。

正確には部屋ではなかった。学院の端の端にある学院の囲む壁の際にある小屋だった。

もともと旧校舎の庭園を管理する庭師の納屋だったらしい。それが校舎の新築に伴い、使われなくなったようだった。

旧校舎周りには誰も寄り付かないからわざわざ壊す必要もないということでそのまま残ったのだと学院長は言っていた。


急な入学者ということもあり、部屋が空いていないと学院寮の寮長はつっけんどんにジャックをはねのけた。

そのことを学院長に話すと、かなりの長考の末にこの小屋の存在を教えられた。


家具などない。もともと納屋に満載されていた道具類をだれにもばれない場所に運び出し、

どうにかスペースを作り出すと、そこを仮の寝床とした。


ヴァンドーム家の自室から全く考えられないほど質素な場所にたどり着いてしまったが、もともと野宿するつもりだったのだ。

雨風がしのげるだけで儲けものだろう。


他には何もない。渡された制服に着替えてジャックは納屋を出た。


現在の校舎までは道のりはかなり入り組んでいたが、さすがに慣れた。

ちょっとした町を横切るような距離を歩き続けてジャックは校舎にたどり着いた。


教室に入る。瞬間、空気が凍り付いたのが分かった。

もういい加減慣れてくれよ、と内心を思いながら階段状になっている聴講席の最後尾に着く。

この教室では決まった席順はないと聞いており、早い者勝ちでどの席でも座っていいとはずなのだが、

ジャックは気が付くとその場所に座るようになっていた。扉と反対側の最後尾なので、まるで教室の奥底に押し込められているような感覚だった。


席に着くと、生徒たちがちらちらとこちらを見てくるのが分かったが、ジャックは無視した。別に彼らは何も言ってこない。気にすることもない。

最後尾の席は全体を見下ろす形になるので、生徒たちの席にはプリントが配られているのが見えた。それでもジャックにそれが回ってくることはない。

それも慣れたものだった。


学院には何人か平民がいるそうだが、そのいずれも正式な生徒として通っているわけではないと聞いている。そのすべてがもともとは有力な生徒の小間使いとして

入学し、授業を受けることもなく何の成績もつけられることなく主の卒業とともに退学するらしい。一応生徒に小間使いをつけることはできない決まりらしいが、

親の権力を使ってそのあたりのあやふやしているだった。


要するに自分は目の上のたんこぶなのだ、とジャックは思った。仮に平民である自分が良い成績をとろうものなら自分たちの立場がない。

そのためにできることはなんでもするというわけだ。


ただそれは完全に無駄だった。目の前で繰り広げられている授業は完全にグレイヘイブンの屋敷で聞いたものと同じだった。

これなら別に熱心に聞く必要もない。

一応メモ程度に内容を書き取っておきながらジャックは思った。


一日の授業が終わればジャックはそのまま納屋に戻る。どこにもよるところなどない。

そのまま魔法と剣の就業に明け暮れる。


情報収集には着手できていなかった。なにより自分を警戒する目が強すぎてそれどころではない。

どうにかしてある程度学院になじむ必要があった。


「本当にここで情報が集まるのか」


いつものように木剣を振り、滴る汗をぬぐってジャックは独りごちた。


日没になった。自らの指先に炎をともし明かりとしたところで暗闇から声がした。


「おい。平民」


見れば、現校舎の方から数人の生徒が歩いてきていた。

声をかけてきた男子生徒は見るからに貴族という風体で校則を破り、着崩していた。


「なんのようだ」


ジャックが言うと、取り巻きの生徒が叫んだ。


「現副宰相のご子息であるギヨーム様だぞ。その口の利き方は何だ」

「この夜分に何のアポもなく大人数で押し寄せてくるほうが失礼だろう」


情報源はやってきた。ここは丁寧に接して取り入るべきなのだろうが、なんとなく気に入らなかった。


「まあいい。口の利き方もわからんとは。やはり平民は平民ということか」

「相手を選んでいるだけだよ」

「おい!」

「学院長は生徒である限り、平民も貴族も平等だと言っていた」

「そんなわけあるか! あの学院長は頭がおかしいのだ。皇太子様もそうおっしゃっていた」


ギヨームという生徒がそういった。

結局何の用だと思っていると、ギヨームが続けた。


「平民。喜べ」

「何を」


今のところこの学院での生活でよかったところなど一つもない。


「お前を僕の小間使いしてやる」


取り巻きが口々に言った。


「光栄なことだぞ」

「そうだそうだ」


なんだこれは。ジャックはだんだん面倒くさくなっていた。

しかし、これはいい話かもしれない。この集団に取り入ることができれば、何か情報を得ることができるかもしれない。

ある程度分かったところで適当にボコボコにして退学になればいいのだ。

そうすれば、情報を得たままこの学院ともおさらばできる。


分かりました、と口にしようとしたところでジャックはあることに気付いた。


取り巻きたちのさらに後ろ、一人の女の子がいる。

他の生徒たちに比べて一段とみすぼらしい格好をしており、何も言わずずっと俯いている。


「断る」


口が知らずそう動いていた。

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