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24.「これから筆記試験を行います」

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ジャックは再び無限にも続くように思える道を歩き始めることになった。

しかし、先頭を歩くのはイザベルではなかった。


目の前の男は後ろのジャックには一瞥もくれることなく、ずんずんと前に進んでいく。


「全く学院長はどういうお考えなのだ。こんな平民に入学の機会を与えるなど」


聞こえているけどね、と思いながらジャックは男の態度に辟易とした。


この学院では平民のふりをしようというのは学院長の提案だった。

ヴァンドーム家の息子ということが分かれば、襲撃者の家の子供を通じてジャックが学院にいるということがばれてまた襲われてしまう。

かといって別の貴族の子ということしてしまうと、家族まで身元の確認がされてしまい、身分の偽造がばれる。

平民であればいちいち身分の確認などしないのだ、とイザベルはあきれた顔で言った。


「まったくこの神聖な学院に平民を入れるなんて。ああ、寒気がする」


本当に独り言の多い男だ。馬の尾のようにゆれる男の後ろ髪を見て、ジャックは思った。


男は階段を慣れた足取りで下りていく。石造りの暗い階段。

あまりの暗さに次の段差がどこにあるかわからない。


「早くしてください」


男が振り返って言ったが、その顔がどうなっているかわからないくらい。


「はい」


ジャックへは平静を装って言った。


階段を下りた先でジャックは部屋に通された。

部屋というよりは独房に近いとジャックは思った。

地下室なので当然窓はないし、机と椅子以外の家具は何もなかった。


「座ってください」


ジャックは促されるままに腰かけた。

目の前の机に乱雑に紙が置かれた。


「これから筆記試験を行います」


苦虫を嚙み潰したようなその顔にこの男は本当に自分といるのが嫌なのだということを思った。

自分の本当の身分を伝えたらどうなるかちょっと考えてやめた。


「筆記用具をください。突然のことで持ってないんです」


ジャックがそういうと試験管は露骨に舌打ちをして、胸ポケットのペンを床に放り投げた。

試験管がじっとそれを見ているので、ジャックは仕方なくペンを拾おうとかがんだ。

かがんだジャックを見下ろして試験管は言った。


「返さなくていいですよ」

「それはどうも」


再び席に着いたジャックに試験官は言った。


「制限時間は私がふたたびこの部屋に戻ってくるまで。その場で採点を行い、次の試験に進むか決めます」

「わかりました」

「それではせいぜいがんばってください」


試験官は部屋を出ていく。とうとう本性を出したな、と舌を出して見送った。


さて、とジャックはテスト用紙を見る。


「なるほど」


どうやら試験官は全くこのテストで自分を通過させる気はないらしいと思った。

問題は元の世界でいうと、国語、数学、社会のような教科がごっちゃになっていた。


問題の内容も順番もめちゃくちゃ。まるで出題者の意図を読めないようになっている。


極めつけは難易度だ。ジャックはこの世界で14歳になるまでレオンから教育を受けていた。

確かにレオンは執事であり、専門の家庭教師ではなかったが、それでも教育内容自体は遜色ないものであると他でもない父上が話していた。

その教育をもってして、ギリギリ回答できるほどだ。平民の子どもであれば間違いなく答えることができない。


残念でした、とジャックは心の中で再び舌を出した。順調に回答を進めていく。

中にはこれまで教育を受けたことのない内容が混じっていたが、それにも回答することができた。


元の世界の知識を使ったからだ。特に数学の問題は顕著で、この世界では難問扱いされている問題も知っている公式を使えば簡単に解くことができた。

ジャックは前世の自分に感謝した。そして数学が得意だったのだということを知り、また少しパズルのピースがはまったような思いだった。


問題をすべて解き終えて見直しているころ、扉が開いた。

試験官がけだるげに部屋に入ってきた。


「試験終了です。今すぐ解答用紙を渡してください」


よく考えると、試験時間は試験官が戻ってくるまでだったので、目の前のこいつの塩梅じゃないかとジャックは小さく憤った。

それでも問題自体は解けたのでとうでもよかったが。


ジャックは回答用紙を渡した。試験官は怪訝な顔で受け取る。


「それでは採点します。採点結果は絶対です。言い訳は聞きませんからね」

「わかりました」


別の席に着いた試験官が採点を進めていく。

はじめは無表情だった試験管の顔が次第に驚きに変わっていく。

さらに露骨に態度が変わっていった。足を鳴らし、長い髪をかきむしるようになってきた。


ダン、と勢いよく試験管が立ち上がった。


「あなた、どうやってこの問題を解いたのです」

「結果はどうでしたか」

「何か不正をしたのでしょう。そうでなければおかしい」

「普通に解いただけですよ。それで、結果はどうでしたか」

「平民にこんな問題が解けるわけない。絶対に誰かがこの部屋に入ってきて別のものが回答したのだ」


部屋にあるあらゆるものをひっくり返し始める試験官。

その様子を見てジャックが言った。


「その人が今も室内に隠れているとでも? この何もない部屋で?」

「静かにしてください」

「隠れることなんてできない。仮にそんな人がいたとしてもう出ていったんじゃないですか」

「そうだ。それだ。今すぐ学院内を捜索しないと。誰かが回答を盗んだんだ」

「その扉、最後に締めたのは誰でしたっけ。そんなに不正が嫌なら鍵でも閉めればいい。もっといえば、あなたがここにいればよかった」

「そんなこと」

「するはずない、ですよね。あなたは平民の自分と同じ部屋にいることは一秒だって耐えられない」

「うるさい」

「ここにあるのは、解答用紙だけ。そしてあなたは言った」

「・・・・・・」

「採点結果は絶対、だと」


試験官は持っていた解答用紙をびりびりに破り捨てた。

それから言った。


「二次試験は実技試験です。今すぐ中庭に来てください」


壊しそうな勢いで扉を閉めて試験官は部屋を出ていく。

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