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23.「魔法を使うものとして今の君はあまりにも未熟だ」

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ジャックはひたすら女性についていくことになった。

門から始まってその道のりは気が遠くなるほどに遠かった。

何度も角を曲がり、何度階段を上ったのだろう。

はじめは一人でも帰れるようにと道順を覚えていたのだが、途中からそれもあきらめてしまった。


女性はずんずん進んでいき、ようやく止まった。


「入りたまえ」


通されたのは豪奢な執務室だった。応接セットとして、セットのソファとテーブルが手前の空間においてあった。

女性はジャックにソファに腰かけるようにジャックに勧める。

それに従ってジャックは室内を眺めた。


物にはあふれているが、確実に整理整頓されており、部屋の主の性格を伺わせた。

扉のある壁以外はすべて本棚となっており、上から下まで本で埋め尽くされていた。


ジャックの向かいに女性が座った。


「私のことはイザベルと呼んでくれ。ここの学院長をしている。君は」

「ジャックです」


それから少しためらってジャックは言った。


「ジャック・ド・ヴァンドールです」

「ヴァンドール、か」


イザベルは顎に手を当てた。


「なるほど。起きたことは大体聞いているよ。事件が起きた後は一人で旅を?」

「ええ。まだ一週間くらいですが」


刹那、イザベルの目が一段と鋭くなるのを感じた。

己の内奥がすべて見透かされるような気がした。


「一週間の旅にしてはあまりにも色々起きすぎていると思うがね。例えばその精霊とか」


本棚の周りを好き勝手に浮遊していた精霊がいたずらをとがめられたように上下に激しく揺れた。


「見えるのですか」

「ああ。君のように正規の方法ではないがね。だから正確には見えるようにした、というのが正しい。ときにルシアンという名に覚えは?」

「会ったことがあります。父の魔法の師匠とかで」

「やはりか。その精霊、あの人についていたものだろう。それが君についてくるのか。どうやら君はかなり難儀な運命らしいな」

「みんなそう言います」


イザベルは大きく笑った。


「すまない。あまりにもおもしろくて、つい。さて、本題に入ろう」


イザベルが前かがみになって言った。見たところ、母のソフィアと同じくらいの年齢だが、それだけで妙な色気があった。

知らずドキリとする。


「グラントモント近くの森で爆発的な魔力反応があった。それを引き起こしたのは君か」

「......」

「なに。ただの事実確認だ。別に取って食ったりしない」

「ルシアンさんも同じ聞き方をしました」

「あの人と同じというのは、誉め言葉かどうか。かなり微妙なところだな。それで?」

「そうです」


別に隠すようなこともない。


「どうやったのだ。今の君からはそれほどの魔力を感じない」

「それはそうでしょうね。今の僕に魔力はほぼ残っていない」


証として聖剣を抜こうとして気づいた。今あれを抜けば、自分は間違いなく気を失う。


「聖剣です。森にいた泉の精霊から託されました。今は魔力切れで抜けませんが」


押し付けられたというのが正直なところだが、今は彼女を立てることにしよう。

いなくなってしまった相手を責める趣味もない。

イザベルが言った。


「聖剣。久しぶりに聞いたな。そして嘘ではなさそうだ。わずかだが、私にも見える。君の内に眠るそれが」

「僕は聖剣の鞘、だそうです」

「ははあ。そうなると君は厳密には人間ではないな」

「やっぱりそうなのですか」

「別に気に病む必要はない。存在の仕方が少し変わるだけだ。見た目や機能に一切の変化はない。知っている限りではあるが」

「なんか安心できないですね」

「分からないことばかりだ。風邪を治すようにはいかんよ。それで聖剣を抜いた相手は」

「ゴブリンですよ。聖剣を狙ってたみたいです」

「ふうん。数は」

「覚えていないです。全部消し飛ばしたから数えられなかった」


イザベルは足を組みなおした。動作がいちいち色っぽい。


「君、この学院に入らないか」

「嫌、だと言ったら?」

「別に止めやしないが、君にとっても悪い話ではない」

「イザベルさん」

「イザベル学院長だ」

「僕は生徒じゃない。僕にはやることがある。ヴァンドール家の事情を知っているのなら分かるでしょう」

「屋敷を襲撃した犯人捜索と領地返還に向けた功名、か」


イザベルの声は一段低くなった。


「はっきり言うがね。今の君にそれができるとは思えない。魔法を使うものととして今の君はあまりにも未熟だ」

「......」

「自分でも分かっているだろう。たかだかゴブリン相手に聖剣を抜き、森の一帯を破壊した。目の前の敵を倒すだけならそれでも問題ないがね。力のコントロールってものがまったくなっていない」


まったく図星だった。何せ魔法が目覚めて一週間しか経っていないのだ。その訓練さえままならないところにさらに聖剣ときた。

ジャック自身も自らの力に混乱しているのだった。


「この学院でならそれを学ぶことができる。卒業してから旅を再開するのもいいだろう。それにここでだってヴァンドール家の襲撃した犯人を捜すことはできる」

「どういうことですか。ここはただの魔法学院でしょう」


甘いね、と指を振るイザベル。


「この学院にはシャトーロワール中から貴族の子女がやってくる。彼らとかかわり、友達になる。これだって立派な情報収集だ」

「はあ。分かりましたよ。入ればいいんでしょう」


もはや逃げるすべなどない。向こうはこちらの事情などお見通しなのだ。


「おっとこちらもただで君を入れるとは言っていないよ」

「入れると言ったり入れないと言ったり、どういうことなんです」

「試験だ。君には今から試験を受けてもらう」


イザベルは茶目っ気たっぷりの目で言った。


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