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22.また逃げられなくなった。ジャックはなんだかうんざりしてきていた。

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歩いて数時間、ジャックはようやく森を抜けることができた。

久々に青い空を見て気分が少し明るくなった。


「きっつ」


しかし体はそれどころではなかった。

聖剣の一振り。それは一帯のゴブリンたちを文字通り一掃した。

死体すら残らぬ激しさ。どうやらすべて蒸発してしまったようだった。


ジャックも自身が蒸発してしまうのではないかとすら思えた。

体中から魔力という魔力が絞りだされ、存在すら希薄になったようだった。


「あれを抜くのは本当に最後の手段だな」


ジャックはひとりごちた。

魔力があるのもいい、魔法が使えるのもいい。聖剣があるのもいい。

しかしそのすべてがひとたび使えばジャックをぼろ雑巾のごとく絞っていく。


日ごろから何度も使うことでコントロールする力を身に着けるという手もあるが、

あれを一日に一回引き抜く生活など想像すらしたくなかった。


森を抜けた先はよく整備された街道だった。

どうやら今まで歩いていたのはすでに森になってしまった街道の旧道だったようだった。


馬車や旅人が行き交う街道をジャックはゆっくりと歩いた。

序盤からよくわからないことばかり起きたが、ようやく旅らしくなってきたとジャックは息を大きく吸い込んだ。


治安のよさそうな道でよかった。今の自分には魔力の一滴すら残っていなかった。

聖剣も抜けない。ここで野党になど遭えば本当にひとたまりもない。


地図を確認する。この先にはグラントモントという街があるらしい。

ここで体力が回復するのを待って、それから今後のことを考えよう。


やがて分岐路に差し当たった。

右には今までの街道の続き。しばらく見ていると、旅人たちはみな右に進んでいく。


左はどうやら丘へ続いていく旧道のようだった。誰も行く人はいない。

再び地図を見る。


「何もない......?」


丘がある場所には何も描かれていなかった。


「じゃあ右だな」


一歩踏み出したところで、精霊が胸ポケットから飛び出した。

ふよふよと進みだし、分岐路を左に進む。


「おい」


声をかけても精霊は戻ってこない。

ジャックは泉の精霊の件を思い出した。精霊についていくと大体とんでもないことになる。

自分はただ旅をして名を上げたいだけなのに。今のところそれができている感じは全くしない。

人の目には見えない精霊。ひとたび抜けば魂まで絞り取られる聖剣。

これでどう活躍しろと。


それでも分岐路の先で立ち止まったままだった。


ため息をついて精霊のもとに向かうジャック。


分岐を進む。丘に向かう道だから段々と上り坂になっていく。


「え。きつ」


今のジャックにはそれが崖を上っているように思えた。

進むたびに足が重くなり、沈んでいく。


ジャックには精霊が振り返ったように見えた。


「お前はいいよなあ。宙に浮いてるだけだし」


文句を言うと、まるで笑ったようにふわふわと上下した。


「この先には何もないんだぞ。それが分かってるのか」


精霊はどんどん進んでいく。ジャックもそれになんとかついていく。


やがて丘を登り切った。


その光景にジャックは目を奪われた。


「なんだ、これ」


地図上には何もなかったはずのところに館が立っている。

見たところ並みの広さではない。視界に入るところだけですでにヴァンドール家の屋敷より広いのが分かった。


館の周りをレンガの塀が囲んでいる。明らかにここ数年でつくられたものではない。煉瓦は変色し、隙間が苔むしている。


そしてジャックの身長の何倍もある門にたどりついた。門には重装備の兵士が一人、門番として立っていた。


「あの、ここは」


ジャックはおそるおそる門番に声をかけた。


門番はその職務にふさわしい険しい表情で言った。


「これを見てわからないのか」


シャトーロワール国立魔法学院、と彫られた箇所を門番は剣で乱雑に指した。


魔法学院。ジャックは今までその存在を聞いたことがなかった。

父上はどうして教えてくれなかったのだろうと考え、気づいた。


おそらく魔法に目覚めないまま学院に連れて行っても意味がないと考えたのだ。

そりゃそうか、とジャックは内心脱力した。


「お前、どうしてここに来た。街道の分岐路を右に行けばグラントモントだ。たいていの旅人はそちらを目指す」

「それは」


精霊に連れてこられたんですとは言えない。ルシアンは言っていたのではないか。並の人間にはそもそも精霊は見えない。

まだお縄になるようなことにはなりたくない。


ジャックはおずおずと答えた。


「なんとなく、ですかね」


こう答えるしかなかった。


「なんとなくだぁ? お前はなんとなく地図には何もないはずの丘を目指したというのか」

「ええ。まあ」

「信じられん!」


こっちだってそうだ。それでもこう答えるしかない。


「そうですよね。僕ちょっと疲れてて、じゃこれで」


ジャックは一秒でも早くこの場を立ち去りたかった。どう考えても何の得もない場面だ。

状況が落ち着いたら精霊とはしっかり話し合う必要がある。


そう思ったジャック踵を返したところで、門が音を立てた。鉄扉が地面をひっかく音。

地響きすらする。


門が開いた。奥から一人の女性が現れて言った。


「これこれ。そう慌てるでない。どうだ。少しくらい話していかんか」


門番はすぐに平身低頭。


また逃げられなくなった。ジャックはなんだかうんざりしてきていた。


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