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2.魔法は今を変える力として発現する。神がそれを世のためとお考えになれば

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テーブルの上に並べられた料理の数々にはいつもながら驚かされる。ジャックは席に着くなりその彩に目を奪われた。


「ほう。今日もうまそうだな」


「ええ。今日はいい野菜が手に入ったとかでコックが嬉しそうでしたわ」


食卓は大貴族、シャルル・ド・ヴァンドーム辺境伯とその妻ソフィアが使うにはあまりにも質素だった。6人が座ればそれで手狭になってしまいそうだった。


昔を忘れないようにするためだ、とテーブルの話をふったとき、父は答えた。今で豊かなグレイヘイブンも、かつては隣国やモンスターの絶え間ない危機におびえる国境沿いの街でしかなかった。


それをシャルルは一代でシャトーロワール随一の領地にしてしまったのだ。この辺りは資源が豊富でありながら、それゆえに危険の多い場所であった。それをシャルルは政治的な才覚、なによりその卓越した魔法力によって


平和で活気のある商業都市への生まれ変わらせてしまった。周辺の盗賊団や傭兵団にはシャルルの名前が知れ渡り、周辺国がそれらを差し向けようと依頼しても断られてしまう始末だった。モンスターに至ってはシャルルの魔力の残滓を感じるだけでおびえ逃げ惑うほどであった。


そのグレイヘイブンの街も最初はこのテーブルから始まったのだよと幼いジャックに父は教えてくれたのだった。


テーブルは確かに室内のほかの装飾に比べて各段に古めかしかった。しかし、大切にされているものが放つ特有の空気感をジャックは否応なく感じ取っていた。


「ジャック、魔法の鍛錬はどうだ」


シャルルがいたって明るい声で言った。


「あー、そのですね」


口元に手を添えながらソフィアが言った。


「ふふふ。レオンから聞いたわよ。またあのカフェテラスの柱を折ったんでしょう」


「......ええ。すいません」


答えて、有能すぎる執事も考え物だ、ジャックはと必要以上の力でステーキを切り分けながら思った。


「しかし、お前もそろそろ14だ。魔法の一つも使えないというのは少し妙だな」


シャルルが少し眉をひそめていった。


「分かり切ったことです。父上。すべては私の鍛錬不足のせいです」


「そう急くな。前も言った通り、魔法の発現タイミングには個人差がある。お前もそのうち来るだろう」


「しかし、父上は今の私と同じころにはもう魔法が使えたのでしょう」


「私の兄上や弟たちはずっと遅かったが、それでもすばらしい魔法使いだ。発現が早いからよいというのものでもない」


「それはそうですが。魔法は」


「貴種が貴種たる証、そういうのだろう。だから魔法が使えぬ自分は貴種になれぬ、というわけか。案ずるな。お前は紛れもなく私の息子だ。なあ、ソフィア」


「そうですよ。あなたは私たちの立派な息子です」


「父上、母上」


あまりの言葉に声が少し震えた。


シャルルがつづけた。


「私はこう考えるのだ。魔法が発現するのはその人が最もそれがほしいと願った時だと」


「魔法は神が貴種に世をおさめさせるために与えたのではないのですか」


レオンから教わったこの世界の創世記にはちょうどそのようなことが書かれていた。魔法が使えるということは要するにこの世界を治める側の人間であるという神のお墨付きが出たということだ。


「どうだろうな。貴族にも魔法が使えぬ者もいれば、平民でも魔法が発現する者もいる」


「そうなのですか」


「ああ。あまり公にはならないがな。それはつまり、魔法の発現は今の身分に関係ないということだ。では魔法が使えるものと使えないものの間には何があるか」


「何があるのですか」


「願いだ。その願いが強く、かつ神がそれを世のためとお考えになれば、今を変える力として魔法は発現する」


「願い、ですか」


言われてジャックは驚いた。それからいくら自分の内側を探しても


「今のお前にはそれが足りていないのだと思うのだ」


「申し訳ございません」


「無理もない。この国は豊かでお前には苦労を掛けないように育てたつもりだ。そこで何か世を変えるような強い願いを持てというのも難しいかもしれぬ」


お前だけのせいではない、とシャルルは言った。


「ふふふ。私たちの育て方がよかったということですね」


ソフィアは微笑んだ。


「しかし、これからもそうであると限らぬ。お前の真なる、そして神が聞き届けてくださる願いはきっと生まれるだろう」


「と、いうと?」


話の方向性が変わりつつあるのをジャックは感じていた。


「世がきな臭くなりつつあるということだ。このグレイヘイブンも例外ではない。最近少々怪しい連中が入り込んでいるといううわさも聞く」


「あらそうなの」


「まだ噂程度ではあるがな」


「で、あればより一層魔法の鍛錬に励まないと」


大きくシャルルは笑う。


「ジャック、私の息子よ。お前の魔法はきっとそのとき花開く」


「精進します」


「今よりいっそう励め、といいたいところだが。明日は休め」


「どうしてですか」


「レイのパーティーがクエストより帰還し、この街に補給によるそうだ」


「本当ですか」


ジャックはやおら立ち上がった。


「ジャック、お行儀悪いですよ」


「ああ、すいません。つい」


「たまには息抜きをせよ。これは父の命令であるぞ」


「はい! 謹んでお受けします」


食卓にあふれる三人の笑い声。

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