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19.ですからあなたには今すぐ聖剣を抜いてもらいます

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ゴブリンたちのボルテージは最高潮に達しようとしていた。

容易に狩れるはずだった獲物が自分たちの仲間を殺したのだ。


憎しみを籠った瞳で牙を見せ、うなり声をあげている。


その間合いは徐々に詰まっている。

ジャックはそれを一瞬たりとも見落とさないようにすることしかできないl。

その視界では精霊が盛んに動き回っている。


「おい。今忙しんだけど」


それでも精霊の動きは止まらない。見ていると何か一定の法則性があるように見える。

ジャックから見て右、その茂みにジャックの視線を誘導しようとしているのか。


「こっちに何かあるんだな」


どうも精霊にはこのあたりの土地勘があるようだった。

ゴブリンに遭遇する前からジャックを導いているように見えた。


どうやら今はこの精霊のことを信じるしかなさそうだった。


肯定するように上下に動く精霊にジャックは言った。

「わかった。お前のことを信じることにする」


決めてからは早かった。


火炎を木に引火しないギリギリの範囲で一度に爆発のように発生させる。

ゴブリンたちの視界を奪った瞬間、右手の茂みに飛び込んだ。


そこから一気に森の中の駆け抜ける。


「本当にこの先でいいんだろうな。お前は精霊だからいいけど、僕はただの人間なんだからな。襲われた死ぬぞ」


懐に入った精霊がゆっくりと明滅する。


後ろからはゴブリンたちの鳴き声が聞こえてくる。この森は奴らの縄張りだ。

追いつかれるのも時間の問題だろう。


現に石やらナイフならいろんなものが飛んできては足元に落ちた。

なるべく飛び道具にあたらないよう、ジグザクに走る。

これもかなり体力を持っていかれる。


それでも走る。


「おい、まだか。って」


目の前の木から突然ゴブリンがとびかかってくる。

先回りされていたか、それとも別の群れか


地面に転がされる。瞬間、体全体から火炎を発する。弾き飛ばされるゴブリン。

慌てて起き上がり、再び走り始めるジャック。


これでかなり後ろの群れに追いつかれてしまった。

さっきより鳴き声が近づいている。


振り返るな。振り返ってスピードが落ちれば本当にまずい気がする。


足を止めるな。さっきの魔法でかなり体力を使ってしまった。どんどん足が重くなっているのを感じる。

鍛錬不足だ。当たり前だ。自分が魔法に目覚めたのはつい数時間前なんだぞ。


これが運命? 全く信じられない。


悪態ついていると、目の前に信じられないものが見えた。


結界。白い靄のようなものが空間を分けている。


これか。


「このままあれに突っ込めばいいんだな?」


返事なんか待っている暇はない。

ジャックは結界の中に飛び込んだ。


結界の中は静謐で穏やかな空気に満たされていた。

ここにいれば安全という不思議な実感が体を包み込んだ。

結界の境目を見れば、やはりゴブリンたちの姿はない。


もう一歩も動けない。これほど全速力で走り続けてきたのは生まれて初めてだった。

ジャックは地面の上に転がった。


水の音がする。なんとか首だけを動かしてあたりを探ると、少し進んだところに泉があるのが見えた。

何とか起き上がり、泉に顔をつける。母上が見たら卒倒しそうな光景だが、今は贅沢も言っていられない。


疲れで火照った体に泉の水はよく染みた。程よい冷たさ。体中を癒してくれるようだ。


「あれ」


ジャックは自分の体から一切の疲れが抜けていることに気付いた。

何だのこの水は。


「この泉の水はどうですか。人間」


声をかけられるまでジャックはその存在に気付くことすらできなかった。疲れなど関係ない。

それほどに唐突にそれはジャックの目の前に現れた。


見たところ普通の女性に見える。修道服のような全身が隠れる服装。緑色の髪。

フードの奥に隠れる強い瞳。


身構えるジャックに女性はあきれるように言った。

「安心しなさい。人間。私はあなたの味方です。正確に言えば、あなたが連れているその子の味方なんですよ」


ジャックの懐から精霊が飛び出る。女性の方へ漂った精霊は彼女の指としばしたわむれた。


「人間、この精霊は別の人間に託したつもりですが、その人間のことを知っていますか」

「ルシアンという魔法使いか。その人に出会ったとき、こいつが勝手についてくるようになったんだ」

「ああ、そういうことですか。なら、私もあなたを信じることにしましょう」


これも運命ってやつか、とジャックはあきらめに似た気持ちで女性の話を聞いた。


「私はこの泉の精霊。私がここにいる理由はご存じですか、人間」

「いいや全く。こんな泉があることすら初めて知った」

「この泉のさらに奥に洞窟があるのです。そこには聖剣が眠っている。私はそれを守ることが使命」

「へえ」


またこの流れか。


「それを僕に抜かせようと」

「魔法が尽きかけている今、あなたがこの森を抜ける手段はそれしかないでしょう。私としても神が信じた相手であれば、ゴブリンども奪われるよりよほどいい」

「ゴブリンたちは入ってこれないのでは?」

「この結界は実際の肉体を持つあなたを守るためのもの。普段肉体を持たない私からすれば大変な魔法なのですよ、もって一晩」

「なら明日にはこれを出ないといけないのか」

「そういうことです。ですからあなたには今すぐ聖剣を抜いてもらいます」

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