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15.「ジャック、ナイフを貸せ。それは私の罪だ」

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次第にジャックの視界が晴れていく。

今なら魔法が使える。その確信が心の中にあった。

まずはゆっくりと左腕を己をかばうように構える。


レオンが叫んだ。


「撃て!」


マスケットの銃口が瞬く間に灼熱する。

前方の空間に腕を振るうジャック。

その軌道に合わせて分厚い壁のような炎が生まれる。


弾丸はその炎を貫通しない。

すべての弾丸は炎の壁に突っ込んで貫通することなく溶け切った。


「は?」


マスケット銃を持つ男の一人が漏らした。

怒りと戸惑いをない交ぜにした声だった。


ジャックが左こぶしを握る

炎の壁が火の粉の余韻を残して霧のように消えた。


火の粉のきらめきの下、ジャックが男たちのほうへ近づいていく。

一歩一歩ゆっくりとしかし確実に。


「おい。ジャック」

「止まりなさい。危ないですよ」


両親の制止は聞こえていない。


銃を持った男が言う。


「おい。レオン。マスケット銃は魔法に勝てるじゃなかったのか。どうしてあいつらは死なない」


うろたえた様子のレオンが叫んだ。


「うるせえ。いいから銃に次の弾を入れろ!」

「どうやってやるんだ!」

「説明しただろ。この棒を使って弾と火薬を押し込むんだ。早くしろ!」

「今やってる!」


レオンたちの目の前にジャックが立った。


「マスケット銃のリロードは一発撃つごとに必要でしかも時間がかかる。そんなことも知らずに使っていたのか」

「畜生!」


恐怖に染まる男の顔。リロードの済んでいない銃身をジャックに向ける。


「撃てよ」


銃身を握って、自らの額に押し付けるジャック。銃身はすぐさま真っ赤に灼熱し、溶け落ちた。

どろどろになった鉄が灰だらけの地面に滴り落ちる。


「ひっ」


男が下がる。


「なめるな!」


別の男が銃身で殴りかかってくる。

手刀を振るうジャック。

銃身は真っ二つになり、地面にむなしく軽い音を立てて転がった。

いつの間にか真後ろに回っていたさらに別の男がナイフを腰だめに構え突っ込んでくる。


「・・・・・・遅い」


ジャックにはつぶやく余裕すらある。レイの突きは目に見えないほどに早かった。それに比べればこれでは歩いているのと変わらないではないか。

突進をひらりと交わしたジャックは一気にかかとを振り上げ、その背中に叩き落した。

醜い悲鳴が短く上がって、男はその場に崩れ落ちた。背中からはシャツ越しに血がにじむ。男が手放したナイフを足で救い上げて手にするジャック。

その刀身の夜の闇と火の粉が一瞬映り込んだ。


火薬の香り。そして殺意。

ジャックは反射的に全身を炎で覆う。炎に突っ込んできた弾丸は全て溶け落ちる。


炎の鎧を解いたジャックはおかえし無造作に腕を振るう。その動きに追随するようにジャックの頭ほどの大きさの炎弾が生み出され、夜に舞う。

発砲したものたちに炎弾が直撃、爆発。ひときわ大きな悲鳴と火炎が上がる。

火の粉が立ち上り、夜風に流れて消えていく。

殺意を含んだ熱気が空間を圧倒的に満たす。夜に混じり、闇と熱が混然一体となる。

ジャックに対峙する男たちはそれを吸い、内側から侵されていく。

恐怖が全身を駆け巡り、支配していく。

もはや目の前の少年を殺そうという考えは愚かなたくらみのように思えてならなくなる。


「う、うわああ」


恐怖が最高潮に達したとき、生き残った男たちは何とか立ち上がると一目散に逃げだしていった。

歩みを進めるジャック。残されたレオンのもとに立つ。

レオンは腰を抜かして地面に手をついていた。


「あ、あ、あ、あ」

レオンから漏れるのは意味のない言葉ばかり。

ナイフを強く握るジャック。


しばらく見ていると


「や、やめてくれ。やめてください。おぼっちゃま」


幼い自分を優しく、そして厳しく導いてくれた目の前の男。

それが今は自分たちを強くののりし、あまつさえ殺そうとした。


「私が間違っていました。魔法に目覚めた今のあなたはこのグレイヘイブンにふさわしい」


しかも負けると分かれば命乞いをし、自分だけは助かろうとしている。


「どうか私にもう一度機会を与えてください。今度こそあなたを支えて見せますとも。こんなのは気の迷い、ね?」


なんだそれは。


「なんだ、それは」


ナイフを握るジャックの右手が激しく震えている。


ジャックのそばにシャルルが寄ってくる。


「ジャック、ナイフを貸せ。それは私の罪だ」


シャルルが言った。

ジャックはナイフを渡そうとするが、手の力が抜けない。寄り添ったソフィアが優しくジャックの手を優しく握る。


「落ち着いて」


ジャックからナイフを取り上げると、シャルルに手渡す。

それからの動きは流れるように始まり、そして終わった。


「さらばだ」


その切っ先は鮮やかに舞い、レオンの喉元に赤い一閃を描いた。

刹那に満たない間をおいて、血しぶきが勢いよく吹き上がる。

血を含んだ断末魔がこぼれる。


「う、う、う、う、う」


その返り血がジャックたちにかかるが、すぐに蒸発する。

レオンの全身から力が抜け、その場に倒れ伏した。


ナイフを放り投げたシャルルがジャックとソフィアに振り返って言った。


「さて、これで全部終わりだ。これからの話をしようか」


その背後からは夜が明けようとしている。

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