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14.魔法、魔法が必要だ

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魔法、魔法が必要だ。ジャックは心の底からそう思った。

魔王は今を変える力。シャルルはそう言った。変えたいと願うことで神が与えてくれるものであると。

今はこれ以上ないタイミングではないか。

魔法が欲しい。そうでなければ、自分も両親も死ぬ。


「最後に何か言い残すことはあるか」


勝ち誇った顔でレオンは言った。


「もう勝ったつもりでいるのか」

「あんたが魔法を使うそぶりを見せてみろ。まずはそこのお坊ちゃんの顔が消し飛ぶぞ」

「ふん」

「あんたの魔法と弾丸、どっちが早いかな」

それでも魔法はジャックにそう簡単には与えられないらしい。


なんとそのタイミングは己の願いとは全く関係ないという神とかいう存在がその一存で与えるタイミングを決めるというのだ。

全くなんて自分勝手なんだ。

こちらは何度も願った。それなのに神は何も与えてくれなかった。

そのせいで自分は死のうとしている。

神が決めたという運命を全うする前に。

湧いてきたのは怒りだった。

おい。聞いてるのか。


「よこせよ」


思わず口からこぼれる。


「ジャック?」


ふいにジャックの懐から精霊が飛び出てくる。

精霊が目の前でひときわ強く輝き、ジャックの視界が真っ白になる。


「ジャック、聞こえますか」


純白の中で鈴のような女性の声が聞こえる。

その声の主が神である、ということをジャックは即座に直感した。

この世界を統べる主。

自分にいつまでも魔法を与えてくれない迷惑な管理者。


「何の用だ」


知らず声にいら立ちが籠る。


「ずいぶんな言い方ですね。こちらだってわざわざ人間と話すほど暇ではないのですが」

「それはこっちだって同じだ。神だっていうんならこちらの状況くらいわかるだろう」

「ええ。その子が教えてくれました。ずいぶんと仲良くなったようで」


「その子があまり呼んでくるものだから、私もしょうがなく来たのです」

「そんなことはどうでもいい。手短に言う。魔法をくれ」

「いやです」

「頼む。時間がないんだ」


内心でジャックは驚いていた。創造主たる神に自分は本心を包み隠さず話している。

これは神の御業の一つなのか。


神が続けた。

「時間くらい私が既に止めました。だからいくらでもあります」

「なら続けよう。どうしてもダメなのか」

「私の予定ではあなたへの魔法の付与はもっと先です」

「僕はいま必要だ。別に今だろうがあとだろうが関係ないだろう」

「逆になぜいま必要なのですか」


神はその理由が本気で分かっていないようだった。


「魔法があればこの窮地を脱せるかもしれない。両親を助けられるかもしれない。そんなこともわからないのか」

ジャックの怒りは頂点に達しようとしていた。神相手に怒ったところでどうにかなるものではない。

わかっているはずなのに感情が抑えられない。無理矢理引き出されているよう感覚すら覚える。


神は素朴な口調で言った。


「ジャック、シャルルとソフィアが死ぬとそんなに困るのですか」


ジャックは開いて口がふさがらなかった。


「親を助けない子供がどこにいる」


神は何か面倒なことを思い出したように言った。


「ああ。そういえばそういうのがありましたね。人間と話すのは久しぶりで」

「おいおい」

「正直言って私としてはシャルルとソフィアが死ぬのは別に困らないのです。彼らは十分に与えた運命を全うした。私はあなたさえ生きていればいい」

「ふざけるなよ」


根本的な死生観が違うのだ、とジャックは考えた。神は絶対的な存在で親も子もない。生も死もない。

だから両親が死んでもいいなどということを簡単に抜かせるのだ。

神にとっては2人は単なる人間という塊の中の一部でしかない。

ジャックは懸命に思考をしぼった。なんとかしてこの神を困らせ、魔法を手に入れなければならない。

ジャックは口を開いた。


「両親を助けなければ僕は死ぬぞ」

「あなたは死にません。シャルルとソフィアがあなたをかばって死にますから」

「結局そのあとはレオンたちに殺されるじゃないか」

「シャルルがその際に己の魔力で自爆してレオンたちを巻き込むから大丈夫です」


大丈夫です、じゃないだろとジャックは内心で地団太を踏んだ。

それなら、とジャックは攻め方を変える。


「なら僕は両親が死ねば、その後を追い自害するぞ。自分だけ生き残っても意味はないからな」


神の露骨なため息が聞こえた。どうやら未来を観測できても人間の意思までは変えられないらしい。

ため息をつきたいのはこちらだとジャックは怒鳴り声が喉元まで来ているのを感じる。


「人間というのは本当に度し難い。分かりました。今回はあなたに言うことを聞くことにします」

「当たり前だ。さあ、早く」


そんなに焦らないで、という神の声。

一呼吸あった。


「汝、この力を我が与えし運命のために使うことを誓いますか」


その声色に厳粛な空気をまとっているのを感じる。


「これはなんだ」

「いいから誓いなさい。儀式なのです」

「・・・・・・誓います」

「汝、死が訪れるまで我が与えし運命に立ち向かうことを誓いますか」


なんだかとんでもないことを誓わされているような気がすると思いながら、ジャックはつぶやく。


「・・・・・・誓います」


こんなの実質運命の押し付けじゃないか。

いまだ収まらない怒りを震えていると、次第にジャックの視界が晴れていく。

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