13.俺は心底がっかりしたね。こんなやつが街を治めるなんて
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その光景はジャックの頭をフリーズさせるのに十分だった。
殺気だった数十人の男をレオンが引き連れている。
その鋭い眼光がこちらに向けられている。
レオン、というジャックの言葉はシャルルが伸ばした腕に制された。
シャルルが低い声で言った。
「一応、釈明を聞こうではないか」
レオンはいつもの執事服の代わりに動きやすい別の服装になっていた。
「釈明?そんなものはない」
「今であれば、理由次第では許してやろうと思っておったがな」
レオンは大きく笑いだし、果ては地面に転がって見せた。
たっぷり数分は笑ってからレオンは立ちあがった。
「あーあー。まだ自分の状況がわかっていないみたいだな。あんたらこれから死ぬんだぞ」
レオンは堂々と言った。
「別にそうとは限らんだろう」
「魔法があるからか? そんな時代遅れなものいつまでを振り回すなよ」
レオンが手を挙げる。
すると背後の男たちが一斉に武器を構えた。
「マスケット銃」
ジャックの声が漏れた。
「さすがですねえ。おぼっちゃま」
レオンが下卑た笑みで続ける。
「そう、これは新時代の武器、マスケット銃。ひとたび使えば平民も貴族も等しくでけえ風穴が空く」
「やめてくれっと言っても効かないんだろうな」
「そうとも。今日この日を俺はずっと待っていた」
レオンはジャックにとって良き教師であり、監督役だった。
厳しくも優しく自分を見守ってくれていた。今日この日までジャックはそう思っていた。
「わが兵の動きを外部に漏らしていたのもお前か」
「簡単なことだったよ。漏らすもなにも敵が自分の居場所をわざわざ教えてくれるわけですからね」
しかも自分の目の前で
「内心本当に笑いが止まらなかった。さっきのはこの十数年分の笑いなんだ。今までずっと我慢してた」
「ずいぶん策士だな。私にやとわれたときからずっとこの時を狙っていたのか」
レオンの目がかっと見開いた。
「まさか! あなたにやとわれたとき、俺は本当に幸せだった。俺だってこのグレイヘイブンの人間だ」
詰め寄ってくるレオン。
「この地に英雄が現れたと思った。俺の両親はこのあたりの村でモンスターに襲われて死んだんだ。
こんなことがもう二度と起きないと本当に思えた」
「今だってそうでしょう。この街は旦那様のおかげで今も平和でしょう。今日あなたがこうするまでは」
「しかしね、奥様。もう駄目なんですよ。旦那様、あんたは本当に弱くなった」
「弱くなった?」
確かに往年に比べれば加齢により身体能力は落ちただろうが、それは魔法を使うものには関係ないものだ。
今でも父上の名はこのグレイヘイブンに轟いており、それがこの地に治安というものを根付かせている。
「そうだよおぼっちゃん。ちょうどあんたが生まれたころからだ。旦那様はそれまでの強硬策をやめ、周辺国と融和的に接するようになった」
「どこが間違っているのですか。旦那様は皆のためを思って」
「そんなのこの土地じゃ通用しない。この地はそんなに甘くない」
「そんなことないでしょう。この街はうまく治まっていた。今日この日までは」
「違うね。だからこそこの日を迎えた」
マスケット銃の銃口が突きつけられる。その数、数十丁。今から逃げてどうにかなる数ではない。
レオンは雄弁に続ける。
「仲間を見つけるのは簡単だった。昔の強いグレイヘイブンを望む人々は多かったんだよ」
「・・・・・・私はこの土地とその民に尽くしたつもりだったがな」
「みんな言ってたぜ。人が集まり、物が集まり街はどんどん豊かになった。でも俺たちはどんどん隅に追いやられていく」
そうだよな
「だって上り調子の街には他を追放された優秀な人間がどんどん入ってくるからな」
「逆恨みだ」
「そうだよ。だったらなんだっていうんだ。あんたたちには一生分からないだろうな」
レオンは簡単に言ってみせた。
「すべてはジャックのためだ。いつまでも他と傷つけあっていては発展はない。戦争は資源を大量に消費する。王も積極的な侵略はお望みではなかった」
刹那、ジャックにレオンの目が向いた。圧倒的な負の感情。親しい人に向けられたそれに足がすくんだ。
「ジャック、ジャック、ジャック、ジャック。ぼっちゃんが生まれてからあんたは本当にそれしか言わなくなった」
「・・・・・・そうだな」
「はじめは俺だって愛そうと思った。なにせこの街の恩人の子だ。将来はこの街を治め、より強く大きくしてくれる」
そう思っていた。
「しかしふたを開けてみればどうだ。この年になっても魔法はろくにつかえない。どこのものと知れない冒険者と親しくする」
それに
「しまいには神はいるのか、だあ? 俺は心底がっかりしたね。こんなやつが街を治めるなんて。無理に決まってる」
心のすべてが壊れてしまいそうだった。要するにレオンはこう言っただ。
シャルルの子がジャックであったから、異世界の記憶を持ち、神を疑う存在であるからこそヴァンドール家を見放したと。
「そんな」
「ヴァンドール家に将来はない。俺がこいつと出会ったのもちょうどそのときだった」
レオンはマスケット銃の銃身に手を触れた。
「俺は信じた。これは神の啓示だと。魔法が願ったものに与えられるように、この力は自分に与えられたのだと」
魔法は今を変える力。
「あんたがずっと言っていたことですよ、旦那様」
「それで、私たちを殺す、と」
「ああ。俺はあんたたちを超える。貴族を超え、平民が街を治める最初の一歩を刻む」
シャルルは鼻で笑った。
「は、何が平民が収める、だ。この屋敷を燃やしたのは魔法ではないか。大方私をよく思わない別の貴族が手を貸したのだろう。気づけ。お前は利用されているのだ」
「そんなこと知るか。俺はあんたたちからこの地を取り戻せればそれでいいんだ」
レオンがもう一度手を挙げる。
魔法、魔法が必要だ。
ジャックは初めて心からそう願った。
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