12.ジャックはその顔を見て驚きで動けなくなった
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シャトーロワール有数の都市、グレイヘイブンの領主、シャルル・ド・ヴァンドームの屋敷。
その屋敷に無数の火の矢が降り注ぐ。
それらは本物ではなく、鋭敏に研ぎ澄まされた魔法の矢で、その燃え盛りようは
放った人間の殺意の高さを雄弁に語っていた。
焔が空を覆いつくす。城壁から見れば、まるで真っ赤な滝が中空から屋敷に流れ込んでいるようだった。
その行く先は明確に制限されており、炎の矢は屋敷の敷地以外には一本たりとも過たず突き刺さることはなかった。
すべてが焼かれた。丁寧に整備された庭園の木々も、ジャックが殴り倒したカフェテラスも、家族でいつも食卓を囲んだあの食卓も。
ちょうど傘を差したように流れ込んだ炎の滝はジャックたちの真上で分かれていった。
魔法の炎は燃料がなくても使用者が意思があれば燃え続ける。ジャックたちの周りは焔の海で詰めつくされていた。
頬を焼く灼熱と何かが焼けるにおいがジャックの感覚器を圧倒的に揺さぶる。
シャルルがいなければ自分たちは今頃燃えカスになっていたことだろう。
「奴らの狙いはどうやら私たちだけのようだ」
炎の海を平然とかき分けながらシャルルは言った。
「民たちに被害はないということですね。ひとまずは安心しました」
ソフィアも安心したようだった。魔力もない平民の出だというのにこの状況を飲み込み、他者の心配までしている。
やはり母上はすごいと心の中でジャックは思った。
自分も慌ててばかりはいられない。
「父上、これからどうすれば」
「さてな。ひとまず目の前の炎をどうにかせねばならん」
シャルルは目の前の炎に手を伸ばす。
あっ、と止めに入る前にその手が炎に触れた。
シャルルの手は燃えなかった。
むしろシャルルが触れた炎が何の前触れもなく消し去られた。
「これはどういうことですか」
ジャックが言った。
「これは本物の炎ではない。確かの炎と同じ働きをするが、実際は魔法でつくられたものだ。そうであれば魔法で消せない道理はない」
言う間にシャルルは次々と炎を消していく。
「ちなみに普通に水をかけても消えるぞ。ほら」
いつのまにか庭の納屋からソフィアがバケツを引っ張り出している。何の変哲もない水をかけているだけなのに、簡単に消化されていく。
その様子に思うところがあった。
「父上、母上も妙に手馴れていませんか」
2人はまるで庭の落ち葉でも掃くように、魔法の炎を消して回っている。
いや、領主とその夫人である2人はそんなことしないだろうけど。
黙々と炎を消していたシャルルが顔をあげて答えた。
「別に家を燃やされるのは初めではないからな。なあ」
「あーそういえばそうですね。あの頃は旦那様と結婚したばかりでしたか」
「今じゃ信じられないくらい治安が悪くて、忙しかった」
「そうですねえ」
「お前にも苦労を掛けたな」
「いえ、あの頃はあのころで楽しかったですよ。今の落ち着いた生活も好きですけど、刺激に困らなくてよかったです」
「・・・・・・そうか」
「そうですよ」
微笑みあう2人。
「あのーやめてもらっていいですか」
炎はあらかた消し去った。
しかし、屋敷の炎上を止めること自体はできなかった。
「これで、終わりなんでしょうか」
ジャックは言った。
答えは自分でもわかっていた。
「そんなはずないだろう。こんなに大規模で綿密な魔法を用意してくる連中だ。私がこれしきで死なないことくらい調べ上げているだろう」
「ではどうしてこんなことを」
「民へのアピールだろう。ヴァンドーム家は焼け落ちた。そういうメッセージを送りたいのだ」
「単なる侵略ではない、と」
「隣国やモンスターの侵略であればこんなにピンポイントにねらったりはしない。物資があるのは市場なのだから城門から礼儀正しく入ってそこを略奪するだろう」
「礼儀正しく、ですか。ここはグレイヘイブンの政治の中心だ。ということは犯人は」
「そうだ。シャトーロワールの内部にいるだろうな」
「そんな」
信じられないことだった。
「隣国やモンスターの危機からシャトーロワールを守っているのは父上なのですよ。それがどうして」
「この国の連中がお前みたいに優しければいいんだがな」
「心当たりはあるのですか」
「いいや」
「やっぱりそうですよね」
「ありすぎて困るのだ」
「なんですかそれ!」
3人が話していると、庭に男の一団が踏み込んでくる。それぞれに武器を持ち、明らかに助けに来たようには見えなかった。その先頭にいたのは
「レオン」
ジャックはその顔を見て驚きで動けなくなった。
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