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10.「お前には2人分の魂がある」

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お前、前世の記憶があるだろう。そう言われてジャックは答えに窮した。


どうする。ここで本当のことを言ってしまうか。父の師匠というこの男なら自分の秘密を理解し、

答えを教えてくれるかもしれない。


ジャックが黙っていると、業を煮やしたのかルシアンが先に口を開いた。


「なに、単なる確認だ。別にそうだからと言って何をするわけでもない。シャルルたちにも言わん」


「本当ですか」


「それ自体がもう答えであろうに」

ルシアンがあきれた声で言った。


「あ」

ジャックは己の迂闊さを恥じた。


「まあよい。その前提で話を進めることにするわ。というかわしも同じだ」


「え」

自分の同類。それがあまりに簡単に現れてしまった。ジャックはその現実を飲み込むのに少し時間がかかった。


「証拠はあるのですか」


「お前は本当にシャルルに似ておらんな。同じころのあいつであれば即座に信じたぞ」


「そもそも僕はつい最近までこの記憶を捏造した何かだと思っていたくらいですから」


「ま、それが一番合理的だろうな。わしはアメリカで軍人をしていた。戦争で死に、気が付いたらここにいた。それ以来ずっとこの世界で魔法使いをしている。どうだ」


「アメリカ・・・・・・」

聞いたことがある。どこでだろう。


確か

「日本が戦争で負けた国、か」


ルシアンの目が見開く。

「お前、日本人だったのか。奇遇だな。わしを殺したのも日本の軍艦だった」


「・・・・・・そうですか」

ごめんなさい、とは言えなかった。


「あなたと違って自分はあの世界にいたときのことをほとんど覚えていないんです。日本という国の名前さえこの会話がなければ思い出せなかった」


「無理もない。今のお前はまだ完全な状態ではない」


「それではマスケット銃を流通させたのはあなたですか」


「なんのことだ。それはわしではない。わざわざそんな昔の銃作るわけないだろう」


「・・・・・・そうですね。それなら僕とあなたのほかにこの世界にやってきた人間がもうひとりいるわけですか」


「そういうことになるな。ま、今までに何人かあっておるから別にそう珍しいものではない」


「僕は初めて会いました」


「わしも貴族に生まれ変わっているケースは初めて見た。それで魔法だ」


ルシアンはジャックの胸元に指をあてた。


「わしらのようなよその世界に来た人間は2つの魂を持っている。この世界でもともと持っていた魂と」


ジャックが言う。

「元の世界で持っていた魂、ですか」


「そういうことだ。結論から言うと、わしらは魔法を使うことに向いている。人間の魔力はその魂の大きさで決まる。お前の父上の魔力が強いのもその魂の大きさによるというわけだ」


「なるほど」

父の魂なんて見たことはないが、それが大きいというのは普段の様子からなんとなく信じられる話だった。


「ただそれは魂が1つしかない場合だ」

ま、たいていの人間はひとつしかないわけだが、とルシアンは付け加えた。


「わしらには魂が2つある。それはつまり、」


「魔力が常人の2倍ある、ということですか?」


「そういうことだ」

にわかには信じられないことだった。これまでの自分の魔法の拙さといったらない。

おそらく半分の年齢の子より魔法が使えていないだろう。


「これは確認した数は少ないのでまだよくわからんが、わしらはそれゆえに魔法の覚醒が他より圧倒的に遅い」


「そうなのですか」


「わしも覚醒したのもお前くらいの年だった」


「それはなぜなのですか」


「さあな。こればっかりは神の考えることなのでよくわからん。ただ、魔法の覚醒に2つの魂が必要なのだ。常人の2倍かかってもおかしくない」


「この世界には神はいるのですか」


「日本人というのは本当にいかんな。わしはアメリカ人だぞ。しかもかなり敬虔な部類だった」


「あなたが信じた神はあの世界を作った神だ」


「痛いところをついてくるな。確かに聖書の神はあの世界を6日で作った。この世界は作っていない。だから神とこの神は違う」


しかし


「神を数えるなど考えたこともなかった。しかし結果、わしは神を数えた」


「いたのですか」


ルシアンは不服そうにうなづいた。


「わしは魔法を極めた。その過程で多くの超常的な存在に出会った」

ルシアンが三角帽をすこし持ち上げる。すると、そのすきまから何がゆっくりと飛び出てきた。


「これは」


「精霊だよ。この世界ですら伝説的な存在とされておる。こいつは特に好奇心旺盛なのか、わしについてきたのだ」

ジャックの握りこぶしくらいの真っ白な塊がふわふわと空中を浮いている。


「では神にも同じように?」


「わしが出会ったのはその使いまでだがな。そいつらは明確に言っておった。自分は神の使いだと」


ふわふわと浮かぶ精霊はルシアンをゆっくりと離れるとジャックの肩に止まった。


「ほう。精霊に気に入られたか。これはなんとも」


「え。そんな困りますよ」


「困るも何もわしにもどうしようもない。こいつは特に気まぐれだ。案ずるな。精霊は気を許した相手以外にはそもそも姿が見えん」


「僕は最初から見えましたけど」


「そういう運命だからな」


「運命ですか」


「わしらのような魔力の特に強いものは魔法の発現に願いは必要ない。というよりいかなる願いをしたところで神が許さない」


「そんな」


「それはそうだろう。強い力を持ったものが好き勝手するのを神がそう簡単に許すわけがない。自分で作ったものだ。自分で管理するだろうさ」


「それでは本当に待つしかないのですか」


「逆に待てばよいのだ。だからそう急くな。その精霊と遊んでおればよい。どうせいやでもその時は来る」


「時は来る、か」


「さて、わしは行くとするか」

ルシアンが立ち上がり扉に向かって歩き出した。どうやら言いたいことは言ったようだ。部屋から出る直前、振り返ってルシアンは言った。

「精霊がなついた。そのことはお前が思う以上に重い。わし以上の運命がお前を待ち受けておるに違いない」

扉が閉まった。


部屋にはジャックだけが残された。

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