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異世界転生を果たした、おば、コホン、お姉さまは、お嬢様生活のために悪役回避、頑張ります!  作者: 渡 幸美
第四章 聖女と勇者と精霊と

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挿入話 誰かと誰かのお話

ここはちょっと深い森の中。


迷いやすいとかそんな迷信もないところだけれど、子ども一人では危険なところ。さほど強くはないけれど、魔物だって出る。


そんな森を、一人でさくさくと歩く少女が一人。


「ふぅ。やっと着いた。クロ~、どこにいるの?」


少女は、小さな祠の前でキョロキョロしながら少し大きな声を出す。


『ここにいるよ。ごめん、ちょっと失敗したけど、聖女様は目覚めたでしょ?』


妖精なのだろうか、黒い子犬が少女の足元に現れる。ふわふわで、ポメラニアンのようにクリクリとした紫の瞳だ。


「うん!ありがとう、クロ。あなた本当に妖精さんなのね。これできっと、勇者様と聖女様のお話が始まるわ!」


少女は子犬を抱き上げながら、うっとりしている。


『ふぅ~ん、変なの。勇者を自分のものにはしたくないの?』

「いいの!モブはしっかり傍観者で楽しむの」

『ふぅん』


クロはさらに不思議そうに首をこてんと傾けたが、それ以上は聞かなかった。


「それよりクロ、あなた魔王様って言われてるわよ?大丈夫なの?妖精さんなんでしょう?怒られないの?」

『大丈夫~、王様は心が広いから』


刹那、子犬らしからぬ顔をしたクロだが、少女は全く気づかずに「そう?ならよかった」と笑顔だ。


「でも、妖精さんてすごいのね!壊れたアーティファクトにあんな魔法を組み込めて。私のネックレスにも魔物避けを付与してくれたから、いつでも森に入れるし。

騒ぎになりすぎて心配したけど、本当に私があげたことを忘れてくれたし」


少女が興奮気味に話すのを、クロはどこか冷めたように見ている…ように見える。


「あの時、あなたを見つけて追いかけてきて良かった!魔力も増えたから、王立学園に入学できそうなの。近くで二人を見られるなんて」

『そうだ、そういえば。今生は勇者は聖女とくっつかないかもよ?』

「……え?」


先ほどまで華やいだ笑顔ではしゃいでいた少女の表現がスン、と消えた。子犬は、ふっ、と嗤ったように見える。


『王子様はリリアンナがいいみたいだよ?』

「……リリアンナ?悪役令嬢なのに、まだ出張ってるの?は?……まさか、彼女も?あり得るわね……」

 

ブツブツと考えてつい腕に力が入り、子犬はぎゅっと強く抱きしめられた。


『ちょ、苦しいよ』

「あ、ごめんね」


慌てて謝る少女に、子犬は『いいけどさ』と嗤って、そして愉しそうに問うた。


『……ねぇ、だとしたら、どうするの?』


囁くような、痺れるような甘い声だ。


「……決まってるじゃない。物語は正しく戻さないと。悪役には消えてもらうわ」

『そうだよね、それが正しいと思うよ。ただそうだね、今回ちょっと力を使いすぎたから、また集めないと』

「ふふ、任せて」

『次はゆっくり……そうだな、君がそばで見られる学園に入った頃までにどう?』


子犬が、当然のように提案し。


「いいわね、それ」


と、少女が心から楽しそうに、期待の眼差しで子犬を見て微笑む。


周りに人はいないけれど、誰かが見ていたら愛らしい少女と愛らしい子犬の、微笑ましい光景に見えるだろう。




けれど、これは一人と一匹の、人には言えない内緒話だ。


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