65.やっぱり女子会だよね
私と同じ事が過ったであろう、マリーアも神妙な顔になる。
エレナは、えっと、と、少し言葉を選ぶように話を続けた。
「二人も知っていると思うけど、彼女は……サーフィス殿下の婚約者候補でしょう」
「それはまあ、そうね」
マリーアの同意に、私も頷く。
「わたし、殿下のお茶会でいつも二番席だから。お父様から、彼女を王太子妃に推すように命じられていたの。そして、わたしは彼女の侍女になるように」
うまく返事が見つからず、私とマリーアは黙り込んでしまう。
うちはお父様があの調子だし、お母様も何だかんだ甘いしで、いわゆる貴族の柵に囚われていない。……ありがたいことに。そんな私たちが、気楽にあれこれ言える訳もなく。
「ごめんなさい。そんな顔しないで。違うの、愚痴を言いたかったんじゃなくて、役立たずと言われて悲しさもあったけど、嬉しく思うこともあったの」
「うれしい?」
思わず、おうむ返しに聞き返してしまった。
するとエレナは、今までで一番綺麗で優しく微笑みながら頷いて。
「グローリア様が王太子妃になれば、侍女としてでも殿下の傍にいられるから」
「え」
それは。
「……憧れていたの、昔から。その場にいるだけで、周りを明るく照らす人。皆を平等に見ようと努力ができて、曲がったことが嫌いな人。……わたしと、正反対の人」
「エレナ……」
マリーアが膝に置かれたエレナの手に、隣に座ってそっと手を重ねる。「ありがとう」とエレナは穏やかに微笑んで。
「グローリア様は、その、貴族らしさはとてもあるけれど、朗らかで真っ直ぐでなんだかんだ優しい人なの。わたしの事も気にしてくれていて。努力家だし、何より大きな後ろ楯のある公爵家だし、誰よりも殿下にふさわしいと思っていた。……ううん、今も、ふさわしいとは思っているわ。彼女のような人が、王家に、王太子妃に向いていると。でも」
そう言って、エレナは私を柔和な表情で見て。
「お茶会で見ていたり、学園でマリーとのやり取りを見ていて感じていた通り、殿下が求めている王太子妃…いえ、伴侶は、そうではないのよね」
エレナは一言一言噛み締めるように、自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「実は先日、グローリア様がお見舞いにいらしてくれて。その時に今までのお礼をして…侍女の話はなかったことにしてもらったの。もっとも、許されているとはいえ公爵家がわたしがグローリア様に侍ることにいい顔をしないとも思うのだけれど。でも、グローリア様はわたしを望んでくれて。うれしかったな。
……それで、嘘もつけなくて、わたしの気持ちと、ぼやかしながらにはなっちゃったけど、王太子妃は難しく思うって、話して、みたの……そうしたら」
「……そうしたら?」
マリーアが続きを促す。
「『分かっているわ』って。『これでも、他の候補の誰よりも一番長く近くにいたのだから』って。でも、『だからと言って、それが諦める理由にはならないわ』って」
お、おお!!
彼女らしいというか、それはそれでカッコいいな!
「根性あるのね。グローリア様」
「すごい人なのよ。年下だけど、昔からそういう所に憧れているの。だから、その、何て言うか」
「わたしもリリーも、グローリア様のこと、嫌いじゃないわよ?ねぇ?リリー」
「うん。むしろ今の話を聞いてちょっとカッコいいって思った」
エレナは目を見開いて、「…そうなの?」と呟いた。
「正直言えば、最初はマリー姉さまの敵かな?って警戒したけど、話すと面白いし。貴族的なところは、まあ…永遠に合わない気もするけど、向こうも思ってそうだし、エレナと仲良くなれたから、それも楽しめそうだし」
「…楽しめるの?」
「?うん。自分と違う考えの人と話すのって、いろいろ思うけど楽しくない?悪く言うのとかは嫌だけど」
「…そう。やっぱり、リリーはすごいのね。改めて納得しちゃった」
「えっ?今なにかすごい話とかしたっけ?!ね?姉さま」
「まあ、リリーだから…でもエレナがそう感じてくれたのは嬉しいわ。わたしの自慢の妹なの」
ふふふ、と姉二人が笑い合い、囲まれて頭を撫でられる。な、なんだかむず痒いけど、幸せだからいっか。
「ねぇ、それよりも、だけど」
一通りなでなでした所で、手を止めてマリーアがエレナに語りかける。
「うん?」
「エレナはフィスを諦めるの?」
「……えっ?えっ?」
エレナは心底驚いた顔で、私とマリーアの顔を交互に見る。
「まだ誰とも婚約していないのだから。横恋慕でも何でもないじゃない。グローリア様が正しいと思うけど」
「それは、そう、だけど」
エレナがちらっと私を伺う。
これは、なんとなく感じていたけれど、エレナはフィスが、こう、私をとゆーのを知っている?よね?
「フィスがリリーを想っているだけで、リリーは違うからね?」
「わわ、姉さま!」
「ぼやかしても仕方ないじゃない。仲良くしていればいずれバレるし。あいつ、隠す気がないから……!」
あいつって。一応殿下ですよ~!
ギリギリと、歯ぎしりが聞こえそうな憎々しい顔だ。姉さま~、聖女よ~!忘れないで~!
「それに、この前の魔王騒ぎの時に気づいたのよね?エレナ」
「……ええ」
エレナは微苦笑だ。
「……殿下の、悲痛な声で我に返って。ああ、って……」
「……それで、あの決意かあ。エレナもすごいなあ」
「そんなことは。そもそも、わたしの想いなんて、歪んでいたから…いたっ」
エレナの話の途中で、マリーアが軽くデコピンをする。
「わたしを聖女に目覚めさせた想いよ。歪んでるとか言わないで。これ以上、大切な友だちの悪口は言わせないわ。たとえ本人にでも」
「マリー…」
エレナはおでこを押さえながら、困惑しながらも嬉しそうに目に涙を浮かべている。
「少なくともわたしは、フィスにリリーをあげるつもりはないしね!」
「え、だってリリーは?その」
「……ごめんなさい……まだ、その婚約とか、す、すき、とか、考えられなくて……フィスも、甘やかしてくれるのは恥ずかしいけど、ヒンターたちと同じようにお兄ちゃんとしか思えなくて……えっと」
「いいの!リリーはまだ10歳なんだから!」
ふんす!と、マリーアは相変わらずの私情全快モード。10歳でも初恋できゃっきゃする子も増えてくるけれど、事、私のことになると全スルーだ。お父様が二人状態。
中身がオバチャンでも、まだ私はこのぬるま湯の方が心地よくて。
むぎゅむぎゅと抱き合う私たちを見て、エレナも肩の力が抜けたように、クスッと笑う。
「じゃあわたしも。殿下にはよく思われていないと思うけど、もう少しだけ……この想いを大事にしようかな」
そう言ったエレナの表情は、本当に綺麗で。恋する乙女だった。
「でも、殿下は素敵な人だから。きっとリリーもいずれ、と思うわ。その時はわたしに気を遣わないで?」
「う、うん。もしもその時は、ちゃんとするよ」
「エレナはフィスを美化しすぎじゃない?」
「マリーこそ、何でそんなに厳しいの?」
「だってフィスだし…。いや、そう思うと、エレナも勿体ないわ」
「な、なんで?わたしなんか、いえ、わたしはー…」
マリーアにキッと睨まれて、言い直すエレナを微笑ましく見つめる。
うん、やっぱり女子会って最高!
これからも、こんな贅沢時間のために。魔王の好き勝手にはさせないもんね!




