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異世界転生を果たした、おば、コホン、お姉さまは、お嬢様生活のために悪役回避、頑張ります!  作者: 渡 幸美
第三章 建国祭と学園と

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挿入話 マリーア=サバンズ 5

「リリー!!」


目の前が、真っ暗になった。

私の、リリーが。大事な、大事な妹が。


あんな、大きな爪に弾かれて。


怖がっていたくせに、私なんかを、庇って。


出血は見られなかった。きっと、ルシーの加護のお陰だろう。でも、あの小さな身体が、大きく飛ばされた。


ーーー思考が追い付かず、身体が固まってしまって動けなかった。咄嗟にフィスがリリーを抱き留めてくれた。今回のことに関しては、フィスに感謝するわ。

イデアも急いで走ってくれている。カチャカチャと青い顔をしながらも、バッグからポーションを出してくれて。

テンダーは魔物が近寄らないように防いでいてくれて。


私は、何をしているの。


……私は私が赦せない。


リリーを喪う恐怖。


それに比べたら、今までの嫉妬も焦りも全てなんでもないことでしかなくて。


寧ろ、そんなことを考えて時間を潰していた自分が腹立たしい。


今日のエレナ様を見ていて、痛感した。


あの家のあの出来事は、リリーがリリーでなければ、我が家でも起こり得た出来事だ。

お父様はあんな贔屓はしないだろうけれど、拗れた感情がどうなるかなんて分からない。それを、するっと解いてくれた。


私にとっては、リリーこそが聖女で。


表向きに私がそう扱われることに、勝手に罪悪感と焦りを感じて、自分で自分を振り回していた。


でも、そうじゃない。重要なのは、きっとそこではない。


私は、私の大切な人たちを守りたい。


リリーを。お父様をお母様を。そして生まれてくる弟か妹を。


……そして、友人を。


「わたくしごと、魔王をお斬りください」


こんなこと言わせて。


何してるのよ、私。


魔王を封印できるのは、聖女だけだと言われている。


封印?生ぬるい。もう、存在を消し去りたいくらいに腸が煮えくり返っている。


こんな感情を聖女は持ってはいけないのだろうが、構うものか。


私から、大事なものを奪うなんて、許さない。


許せないのに、力が、足りない。


手が届かないのは、悔しくて悲しい。そうだね、エレナ様。悔しくて悲しいよね。


それを乗り越えての、言葉。


いろいろな感情が、心の中で渦を巻く。

そして、そこから一筋の光が通る。


そうだね、誰にもどこかに聖女の心はある。


それを掬いとることも、きっと私の役目。


気づくと、勝手に涙がぽろぽろぽろぽろと流れていた。


ああ、私、泣きたかったんだ。


エレナ様も、泣きながら微笑んでいる。なんて、綺麗。


エレナ様に近づいて、指で涙を拭いて、微笑み返す。


「あなただけのせいじゃない。まだきっと、間に合うの。一緒に、やり直しましょう?」


エレナ様は大きく目を見開いて、更に大粒の涙が溢れ出した。

そんな彼女をぎゅっと強く抱きしめる。


「エレナ様を返してもらうわ。……浄化」


今までとは違う、お腹の底から光が溢れ出る感覚。温かくて、心地いい。


その光はエレナ様の身体を包み込み、更に周りに光の粒が舞い降りる。キラキラ、キラキラ。

エレナ様を薄く包んでいた黒い霧も、だんだんと溶けていく。


『……くっ、聖女、がっ、目覚めた…か…それ、も運め……か……ま、た……』


最後の残滓が一瞬空中に留まり、そう呟いて消えた。


そうね、きっとまた会うしかないのでしょう。それでも今の私より強い私が相手をするから。


負けないわ。引き摺られないわ、負の感情に。

落ち込んでも陥っても、絶対に戻って来るから。


「首を洗って待っているといいわ」


私は空を見上げて言った。


「それ、悪役のセリフじゃないか?聖女様」


すかさずフィスにツッコまれた。


「うるさいわね。散々振り回されたんだから、それくらい思うでしょ。ね?エレナ様も思うわよね?」


エレナ様を抱きしめた腕を緩めて、肩を抱いて笑顔で顔を見て言うと、少し強ばった笑顔で「え、ええ」と返された。なぜ強ばる。


フィスはくつくつと笑いながら「違いない」と言って、テンダーも「そうだな!」と一緒に笑う。イデアは苦笑気味だった。


光の粒はまだ一面を埋め尽くしていて、いつの間にか魔物も全て消えていた。歪んでいた空もいつもの青さを取り戻している。

その光の粒たちから、ひらひらと妖精さんが現れた。

『マリー!やっと会えた~!』

『待ってたよ、おめでとう』

『わーい、わーい!かわいいマリー!』

『つよくてこわいのもすき~!』


ちょっと聞き捨てならない声も聞こえたけど、この子たちは。


「光の、妖精さん…?」

『そうだよ、そうそう!』

『マリーが真実の愛に気づいたからから!』

『そうそう!』


「真実の愛」か。不確定な要素な感じもするけれど、きっとそれはそれでいいのかもしれない。

私は、私()きっと守り抜くんだと心に決めたのだから。


「あれ、姉さま……?」


光の粒に包まれて、私の天使も目を覚ます。


素早くフィスの腕から天使を取り返し、ぎゅっと抱きしめた。


「ごめんね、リリー。私のせいで」

「ちがうよ!そもそも私がぼんやりしてたからだよ!」

「ううん、そんなことない。ありがとうね、リリー。どこか痛くない?大丈夫?」

「全然!わっ、凄い光!ん?妖精さん?あれ?姉さま?光の妖精さん?魔王は?あっ、エレナ様!」


うふふ、混乱していてもリリーはいつでも天使だわ~。かわいいかわいい×1000。この子が妹なんて、素敵な奇跡をありがとうございます、女神様。


「エレナ嬢は無事だ。魔王の残滓もマリーが綺麗に消してくれた。聖女に覚醒したみたいだぞ」


ちょっと油断した隙に、フィスがリリーの頭を撫でながら甘い笑顔で説明をし始めた。…今日は助けてもらったし、大目に見てあげる。


「……皆様、本日は……いえ、長い間、ご迷惑をお掛け致しました。リリアンナ様がご無事で、本当に良かった…!」


エレナ様が真摯に頭を下げる。


「顔を上げて下さい、エレナ様!エレナ様もご無事で本当に良かったです!!これから、もっと仲良くしてくれたら嬉しいです!」


屈託のない天使の笑顔。

フィスもテンダーもイデアも、笑顔で頷く。


「……仲良く、して、頂けるのですか?」

「?もちろんです!あ、あれ?!エレナ様が嫌ですか?」

「そっ、そんなことがあろうはずもございません!」

「良かった!じゃあこれからはリリーでよろしくお願いします!」


驚きと喜びで、頰を少し染めて泣き笑いのエレナ様。この儚さよ。これはこれで尊い。


「わたしもマリーでよろしくね?エレナ」


光の妖精さんたちが祝福してくれるように、歌いながら私たちの周りをくるくると飛び回る。


これからも、この景色を守るために。


私の決意は、もう揺るがない。



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