63.学園祭。FINAL.
『召喚』
魔王が放つ、嫌な予感しかしない言葉だ。
そしてその頭上に、ぽっかりと深い暗黒の渦が現れる。
『解放』
ニイッと魔王は容赦なく嗤い、それを、それらを呼び出した。
「魔物…!くそ、学園には結界が張ってあるのに」
『ふふ、空間を繋げばどうとでもなる。さあ、勇者諸君、せいぜいわたしを愉しませてくれ』
フィスの言葉に魔王が本当に愉しそうに嗤う。
そして暗黒の渦から、次々と魔物が這い出てきた。
「すすす、スタンピードっ?!」
「大丈夫だ、リリー。それほどの数じゃない。下がってて」
「テンダー!でもたくさん」
「大丈夫」
テンダーは剣に炎を纏わせ、十数匹いたホーンラビットを一瞬で斬り伏せた。周りに、血と肉の焼けた匂いが充満する。
テンダー凄い!けど、情けないけど、この匂いに吐き気がする。こんな光景、話で聞くのとは訳が違う。
ーーー私はどこかで、楽観視をし過ぎていたんだ。
「うっ、うっ」
情けないやら悔しいやらで、勝手に涙が溢れてきてしまう。
動きたいのに、身体が言うことをきかない。
「リリー!どこか痛いのか?」
「ちが、ごめ、わたし…」
「フィス。きっと違う。リリーたちは魔物に慣れていない」
「あぁ、そうだよな。マリー、リリーとイデアを結界で守っていてくれ」
「わかったわ」
リリーが私たちを囲む結界を張る。
「で、でも、フィス、テンダー」
「俺たちは大丈夫だ!余裕ができたら魔法でフォローしてくれ」
サーフィスはポンポンと私の頭を撫でて。
「いつも元気なリリーの、そんな一面も可愛いぞ」
「おう!たまにはカッコいいとこ見せないとな!」
「たまにはとは何だ!」
なんて軽口を言い合って、二人で魔物へと向かう。
いつもの二人に、少しだけ肩の力が抜けた。
「リリー、大丈夫?」
「マリー姉さま…わた、わたし、なんだか口だけで、ごめんなさい」
マリーアは首を振り、優しく撫でてくれる。
「リリー、わたしも身体が固まってしまったわ。一緒よ」
「イデア…」
まだ怖い。怖いけど、私たちだって愛し子の端くれだ。
三人でぎゅっと抱き合って、覚悟を決める。
「まだ怖い、けど。スタンピードじゃなくたって、まだたくさんいる。二人のフォローをする!姉さま、結界を外して!」
「わたしも、大丈夫!頑張る」
「了解!」
マリーアが結界を解除する。途端に猛烈な獣臭が襲いかかる。けど、怯まない。私たちには、精霊の加護だってある!遠くで嗤って見ている、魔王の思い通りになんかしないんだから!
「風よ切り裂け!」
「ストーンランス!」
「ホーリーランス!」
剣と違って、直接腕に重みを感じることはない。けれど、魔物だけど、動物の命を奪うことに変わりはない。こんな時は、前世の記憶が邪魔をする。どうしたって、慣れない。
「魔物討伐部隊とか…気楽に言ってすみませんでした」
「どうしたの?大丈夫?リリー」
私の一人反省会と一人言に、マリーアが振り返る。「なんでもない」と言いかけて、思考が固まる。
「姉さま、危ない!」
視線を私にずらしたマリーアの横に、魔物の大きな爪が迫ってきていた。
私のダメダメなことに、マリーアを巻き込むなんて!
私は咄嗟にマリーアを突き飛ばした。
「リリー!」
マリーアの悲鳴のような叫びが聞こえる。
良かった、マリーアは大丈夫みたいだ。
私も大丈夫だよ、飛んでるけど、痛くない。きっとルシーの加護のお陰だ。
けど、ちょっと頭が、くら、くら……
誰かが、遠くから叫んで、私を抱き抱えてくれる、感覚。
そこで、意識を手放した。




