60.学園祭。now.5
「やはりローレンはさすがだな!いつもの1位だ!!」
グリッタ侯爵は、がしっとローレンと肩を組む。
組まれているローレンは、何となく苦笑いだ。やったぜー!とか、他を見下す感じはない。
「いえ…そんな」
むしろ控え目。
あれ?と、それを不思議に思うのは失礼なんだけどさ。だって髪と目の色は違うけど、ローレンくん侯爵に似てるんだもん。すまぬ。
侯爵もね…普通にしてればそこそこイケオジなんだけどねぇ。残念だ。
「やはりお前は二人とは出来が違うな!!」
カッチーン!!!
周りの人たちもずっと聞こえていて、痛ましそうな顔をしながらも、少し離れて見守るしかない状態だ。
その後もグリッタ侯爵の一人舞台は続く。ローレンも、「それは」「でも」と時々言いながらも、弟妹を守る感じでもなく。
段々と、魔力量がどーのこーのと、侯爵が今の奥方へのダメ出しからの弟妹批判が加速したところで。
私の頭に『カーン!』とゴングが鳴り響いた。
「さっきから聞いていれば、なんなのですか、あなた?!!」
「あっ」とお父様が引き止めるより先に、風魔法を使い、私はグリッタ侯爵の目の前に飛んで仁王立ちして叫んだ。
突然のことに「うわっ!」と仰け反りながらも、多少は侯爵としてのプライドがあるのか、
「なんだね、君は?」
と、軽く咳払いをして、私に胡乱な目を向けてきた。
「リリアンナ=サバンズと申します。グリッタ侯爵様、エレナ様たちへの暴言を取り消して下さい。聞いていて不愉快です」
私の後ろで、エレナがひゅっと息を飲んだのがわかる。
「リリアンナ…?ああ、サバンズ侯爵のところの愛し子の君だったか。愛し子とはいえ、まだまだお子様なのだね?無闇に他家の話に入るのはマナー違反…」
「そんなの知りません。まだ子どもですから。でも侯爵が言ってはダメなことを言ってるのは10歳のわたくしでも分かります!」
「なっ…!」
ヘラヘラと子ども扱いをして流そうとする侯爵に、睨み付けて嫌みを返すと侯爵は一瞬言葉に詰まった。
「今回のエレナ様の記録だって、今までの最高記録を大きく更新しています。素晴らしいって、みなさんおっしゃってます。わたくしも、そう思います」
「ふん、それは姉自慢かね?それでもエレナは2位だろうが!ローレンは毎回1位だ!」
「それも素晴らしいですよね。でも、ローレン様?」
「なっ、何?」
私は視線を隣のローレンへ移す。呆然としていた彼は、呼び掛けにビクッとした感じで応えた。
「ローレン様も一年生の時は優勝されませんでしたよね?確かに姉自慢になってしまいますが、今年の姉が一年生初優勝ですもの。ああ、それでも、ローレン様も初年度から決勝まで進まれたのですか?」
「……いや。一年生のときはベスト8で、二年生でベスト4、三年生で初めて優勝した」
「まあ!それも本当にご立派だと思いますわ!でも、その上で、ローレン様はエレナ様の成績をどう思われますの?」
「……すごいことだと、思うよ。一年生で50とか、今まで誰も出来なかったことだ」
ローレンは、眉を下げながらも笑顔で答える。その言葉に、エレナが大きく目を見開いた。
「なっ、ローレン!そんな話に乗らんでもいい!お前は私とジーンに似て、優秀で素晴らしい子なんだ!」
「……父上、でも」
「いつも言っているだろう?」
「でも……」
イライライラ。
「でも、じゃないですわ!あなたお兄ちゃんでしょう?!真っ直ぐなお気持ちがあるなら、弟妹を守る気概をお見せくださいませ!もちろん、義務ではないですけど、それでも!」
「!!」
「さっきから黙って聞いておれば、この……!」
グリッタ侯爵が怒りで顔を真っ赤にしながら、ぷるぷると震える拳を振りかぶったところで。
「やあ、済まないね、グリッタ侯爵。うちのやんちゃな次女が」
お父様が、いつの間にか近くまで来ていて、さらっと私を抱き上げる。隣には、マリーアも来ていた。
「サバンズ侯爵!お宅はどんな教育をされているのかな?いくら子どもと言えど、失礼にもほどがある!」
「そうだね。普通に教育しているのだが……リリアンナは正直者でね。思ったことを、こう、少し…いや、かなり口にしてしまう子でねぇ。少し困っているよ」
「それを!矯正するのが親だろう!」
「それが間違ったことならね。言ったろう?リリアンナは正直者なんだよ。何も間違ったことを言わないから、親としてはなかなか困るって話さ」
飄々と、にこやかにそう語るお父様。グリッタ侯爵は「なっ、なっ、」と、口をはくはくさせている。
「エレナ嬢、準優勝おめでとう。君の頑張りは誇っていい」
そんな侯爵を放っておいて、お父様はエレナの方を見て、優しげに声をかける。
エレナは一瞬驚いた顔をして、慌ててぺこりとお辞儀した。大会前に見た彼女より、少し子どもっぽい仕草に安心する。
「だから!お前まで自慢か!」
「まさか。素直に感心しているのだよ。私も君も、6年やっても50に届かなかったじゃないか」
復活して騒ぎ立てる侯爵に、お父様は楽しそうに爆弾投下をしてきた。
「なっ、なっ、おま、何を」
「別に恥ずかしいことでもないだろう?ここにいる保護者のほとんどがそうだったじゃないか。だから、今年の子どもたちの頑張りにこんなに盛り上がったんだ」
お父様は、隣のマリーアの頭をポンポンと撫でながら、優しく微笑む。
そして周りからも、ざわざわ、うんうんと、肯定の空気が流れてくる。
「ち、父上。僕もエレナはすごいと思う。エレナや、サバンズ嬢に負けないように上級生も頑張ったんだ。二人が、二人の努力する姿勢が、みんなを引き上げたのは間違いない」
ローレンが、侯爵を真っ直ぐ見て力強く話す。
「……お兄様」
「ずっと、思っていたよ。今さらすまない」
エレナは泣き笑いの顔で、首を横に振る。
「あの、グリッタ様」
戸惑いながら、マリーアがエレナに声をかける。エレナは少しびくっとしながらも、マリーアの方に顔を向けた。
「わたくしも、グリッタ様がいたから頑張れました。練習中に点を抜かれたり抜いたりするのも楽しかった。わたくしの、負けず嫌いな面を引っ張り出していただきました。最後は、妹にカッコつけたくてわたくし、必死でしたの。あなたとだったから、できたことだわ」
いたずらっぽく笑うマリーアに、少し強ばった表情をしていたエレナの力も抜けていく。
「カッコつけ…では、わたくしが負けても仕方なかったですわね。次は、わたくしもカッコつけるためにサバンズ様に勝ちますわ」
「あら、わたくしも負けないわよ?」
ふふっ、と握手を交わす二人。
正統派美少女と、儚げ美少女の和解、そしてライバル宣言!これよこれ!!オバチャンの大好物よ!
周りの視線も温かいものになり、どこからか小さく拍手が始まって一帯に広まった。
さすがの侯爵も口を閉じている。憮然とした顔で、腕組みしてるけどね。
ひとまず、一件落着、かな?
と、ニヤニヤしていたら、お父様から「リリーは後でお説教だからね」と笑顔で言われた。うう、仕方ない。お父様のフォロー、ありがたかったし、スタンドプレーでしたものね、私。
これなー、本当に直ならくてなー。
「あの、サバンズ様、もしよろしければ…」
緩やかな空気の中、遠慮がちにエレナがマリーアに話かけた、その時。
「あ、の…『お主、何をいっておる?羨ましかろう、妬ましかろう?』ち、がっ…」
彼女の声とまったく異なるおぞましい声が、急に割って入ってきて、あっという間にエレナの周りを黒い霧が覆い始める。
そして彼女がその腕にしているブレスレットが、鈍く、でも強く。赤く黒く不気味に輝き始めたのだ。




