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異世界転生を果たした、おば、コホン、お姉さまは、お嬢様生活のために悪役回避、頑張ります!  作者: 渡 幸美
第三章 建国祭と学園と

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38.少しの心配事

マリーアが学園に通い始めて、はや数ヶ月。


おしゃれセンスありありのテンダーが、さらに手先が器用なことを知り、一緒に引きずるように手芸部に入ってからも数ヶ月。


始めはかなり恥ずかしがっていたテンダーも、女子からの想像以上の歓迎ぶりと、フィスがテンダーからいろいろおしゃれ座学を受けているのを見て、男子も興味を持つ人たちが増えたようで、楽しくやっている模様。


剣技の鍛練は大丈夫なのか聞いてみたけれど、家で充分やれるから平気なんだって。なるほど。


マリーアも実は裁縫全般が大好きだったらしく。思い返すと刺繍やレース編みをニコニコやっていたなあ。楽しいらしい。………………楽しいんだ、あれ…………。


コホン、ともかく。


もうすぐ夏季休暇で休み前の期末テストでも、フィスと共に学年首位を取り、マリーアの学園生活は順風満帆のはず!いや、順風満帆なことに違いはない。のに。


「……」


今日は週に一度の学園の休日。お休みの日は、二人でのアフタヌーンティーがお決まりになっている(たまにフラッとルシーの参加あり)。毎回、楽しくおしゃべりをしているのだけれど。


ここ2、3回、ふとした時に一瞬ボーッとマリーアの表情に影が差すのだ。今のように。さっきまで、文化祭のメイン展示を是非テンダーに!!と、部員たちからの熱い推薦を受け、恐縮しきりのテンダーがあわあわしていて面白かったと話していたのに、だ。


と、言っても、それは本当に一瞬のことで、気にしなければ気にならないくらいのことなんだけど。


「それで、テンダーはどうしたの?」

「ふふっ、さすがに最高学年の部長に頭を下げられたら引き受けるしかなくて、眉をこーんなに垂らしながら頷いたわ」


マリーアは自分の眉を指で下げて、テンダーの真似をする。変顔もかわいい。さすがヒロイン。正に可愛いは正義。だが!私の目は誤魔化せなくてよ!


「ねぇ、マリー姉さま?学園で何かあった?」


ひと通り笑い合った後にダメ元で聞いてみる。


「ん?なんで?」

「んーん、なんか、こう、元気がなく見えて」

「そう?何もないわよ?楽しいし!リリーの心配は嬉しいけど、大丈夫!体調も悪くないし」

「……そっか。なら良かった!」


やはりダメか。まあ、確かにほんの一瞬だし、気のせいかもしれないけど、なんだかなあ。気になるんだよなあ。フィスたちに聞いてみちゃう?いやでも、彼らは余程のことでもない限り、マリー本人に内緒でペラペラ話してはくれないだろう。そもそも余程なことがあれば家に連絡が来るわな。





と、いう訳で。


『マリー、マリーの元気がないの?』

「そうなの、リリスたち妖精さんが何か見てないかなあと思って。学園にも妖精さんいる?」


夜の部屋に、こっそりリリスを呼んでみた。

これもちょっとルール違反かもしれないけれど!気になるんだもん!


『いるわ、いるわよ。わたしたちは風の妖精。ふわふわふわふわ、いろいろ行くのよ』

「いろいろ?リリーたちは王宮にいるでしょう?」

『おやすみするのは王宮へいくの!あんぜんなのよ』


そういうものなのか。その辺のことも聞きたいけど、今はマリーアだ。


「学園にいる妖精さんに、話を聞けるかなあ?」

『きける、きけるわ。まっててね』


リリスはそう言うと顔を両手で包んで目を閉じた。そして30秒くらい経ったころ、虹色の光が二つ現れて、かわいらしい妖精さんになった。


「わあ、あなたたちは学園の妖精さん?」

『そうそう、そうだよ。初めまして、かわいいリリー』

『初めましてなのー』

「は、初めまして!来てくれてありがとう」


うわーん、やっぱり妖精さんって可愛い~!一人でも可愛いけど、三人とかでわちゃわちゃしてると×10で可愛い。ヤバい。……じゃなくて。


「そうだ、これ!リリス、お菓子を用意していたのよ。みんなでどうぞ」


スザンヌに頼んで準備をしておいたお菓子を勧める。ルシーやリリーたち妖精にすっかり慣れた我が家のシェフたちが、しっかりと作ってくれている。


『わーい、わーい!ありがとう!リリーのおうちのお菓子大好き!』

「うふふ、ありがとう。たくさん食べてね」


両手でクッキーを持って、はぐはぐと食べる三人。かわっ……!眼福……!!じゃなくて。いや、眼福だけど。話だ、話。


「食べながら聞いてくれる?二人はマリーは分かるかしら?」

『わかる、わかるよ!』

『うんうん、しってる。光のあのこでしょ?』

「あのね、そのマリーが最近元気がない気がするの。何かしらないかなあ?」

『たぶんだけど~、わかるかも~』

『ね~。きっときっと、あのこあのこよ』

「……あの子?」

『マリー、かわいいマリーにね、ほんとうに聖女なの?って』

『ひどい、ひどいの。マリーは光の愛し子なのよ』


な~に~!!どこのどいつだ、そんなことを宣う奴は!


……そういえば、聖魔法はなかなか上達しないって、入学前に一度だけマリーが溢したことがある。その時は、「学園に行けば、きっと大丈夫だよ!」と、呑気に返してしまったが、原作でもマリーが聖女覚醒したのは私が入学してからだ。つまり、三年後。


原作では、まだマリーアの聖魔法は気付かれていない時期だ。なのに、私が違う動きをしたために、早い段階で候補とは言え聖女認定されてしまった。なんかごめん、だ。光の愛し子と精霊さんたちが言う以上、間違いなく聖女なんだけども。周りは直接精霊さんに聞けるわけじゃないからなあ。一定数疑う奴らはいるのか。でも、え~?


「陛下が正式に発表したのに……それに対して、そんな疑うようなことを言う人がいるのね……?」

『マリーはグリッタさま、って言ってたよー』


グリッタ家……。うちと同じ侯爵家だ。反王家ではなかったような。お茶会もいたと思うけど、全員とは話せなかったしな。


『なんかねー、グローリア?とお友だちなんだってー』

『そのこが本当の聖女なのよって~、おかしなおかしなこなんだよ~』


(あ~!そっちか~!)


『聖女は光の愛し子なのにね~』と、二人はクスクス笑っている。リリスも『変な子だねぇ』と、どこ吹く風でお菓子をもしゃもしゃする。


「本当だね、困った人たちだね……。ありがとう、みんな。お菓子は好きなだけ食べていってね」


『わーい、わーい、ありがとう!』と、愛くるしい妖精さんたちに癒されながら、どうしたものかと考える。


(とは言ってもなあ、どうしたって私はまだ入学できないしなあ。様子を見るしかないのかな。もどかし~い!)


でも、グローリア様ってそんなに面倒な人だったっけ?分かりやすい人だったけど。そこはさすがに貴族令嬢なのかしら。

とりあえずグローリア様の入学は来年だし、それまでに落ち着けば……って、着地点が難しいけど。


モヤモヤを抱えつつも、三人の妖精さんとのヒーリングタイムを満喫して、この日の夜を過ごしたのであった。


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