31.それからの日常
なんでなの?ずっと一緒にいてくれるって言っていたのに。あいつを傷つけたのは、君を泣かせたからで。……そうじゃないって、何?
傷つけられたらやり返さないと、ずっとずっとやられるだけじゃないか。
何が違うの?間違ってるの?だからもう僕とはいられないって言うの?……もう、僕は要らないと言うこと?
…………そう……やっぱり、僕は………………
………………
「違う!そうじゃなくて!」
自分の叫び声で目を覚ます。
腕も、誰かを引き止めるように伸ばされていた。
「びっくりした……。変な夢を見たのよね、自分の叫び声で起きるなんて恥ずっ!子どもか!いや、子どもよ、うん」
昨日またいろいろあったせいか、脳の処理が追い付かなかったのかなあ。……昔?の夢を見たような気がするけれど、内容はもうすっかり記憶の外だ。
「夢ってすぐ忘れるわよね。予知夢とか覚えている人ってすご…え、私泣いてる?」
何の気なしに触れた頬が濡れていた。
「悲しい夢だったのかなあ」
少しの間考えてみたけど、やっぱり思い出せなかった。
「……まだ早いし、寝直そう」
ここの所何かと忙しい日が続いたので、今日は家族皆でお休みの日とお父様が決めたのだ。
「二度寝のしあわせ……」
朝寝坊も許される。うふふ、惰眠を貪るのだ。二度寝の時は夢も見ず、先に見た夢はあっという間に記憶の彼方に消えた。
◇
ファーブル王国。愛と豊潤の女神フローラの、光の加護を受ける国。
最近では、光の加護を受ける聖女候補と勇者候補の存在が公表され、女神信仰がますます盛んだ。
そして、数十年以上の時を経て、妖精の祝福と精霊の加護を受けた少女の存在もあり、暫く疎遠であった隣人である彼らとの距離も縮まって来ている。
「平和だわ……」
あの、シルフ様たちとの初めての会合から約一ヶ月。
私は読んでいた新聞をそっと畳んで呟いた。
「はい、ありがたいことですね」
侍女のスザンヌが、お茶を淹れながら相槌をうつ。
人に淹れてもらうお茶って最高。今日も今日とてお嬢様生活ありがとう。
「新聞は建国祭の特集ですか?」
「そう!あと数年で建国1000年の節目だから、歴史を振り返ってそこに繋げたい感じね」
「なるほど。それにしても、お嬢様方はこれでますます有名人ですね!わたくしたちも、鼻が高うこざいます」
「あ、ははは……そう?今、これといってやることはないんだけどね~」
「いえ!もう、存在が!素晴らしいので!!」
「ありがとう」
スザンヌの、ふんす!と言わんばかりの力説に、苦笑で返す。
そう、結局あれからちょこちょこ姿を現すシルフ様によると(私があまりにも呼ばないかららしい)、魔王が復活するにしても今すぐの話ではないらしく。早くて十数年、かかれば数十年……うまく封印の強化ができれば、かなりの期間で大丈夫らしい。
私たちの最初の慌てっぷりに首を傾げた訳だわ。
でも、あのままだと早まった可能性もある訳で。精霊さんの登場のタイミング的には必要だったのだろう。始めに言ってよ、とは思ったけど。
陛下は、魔法の力と女神、精霊への感謝を改めて思い出せるよう、建国祭に合わせて私たちのことを公表することに決めた。魔王復活については、国民の不安を煽ってしまいかねないのと、利用する輩が出ても困るので、とりあえず非公開だ。ただ、封印の存在は改めて触れた。皆で守りましょう、的に。妥当かな、とは思う。
でも、封印が解ける解けないって、結構不安要素だけどねぇ、改めて考えると。みんなの信仰やら清い心やらで封印が強化されるなら、本当に有り難いけどさ。やっつけちゃった方がスッキリしないか?……いやまあでも、わざわざ危険な戦いをしたい訳じゃないけど……。簡単にどうこうできるものでもないだろうし。こう、身近で聞いてしまうと、どうにも落ち着かないというか。
……初めて話を聞いた日にも思ったけど、そもそも魔王って……
悶々と思考の渦に入りかけた頃、ドアがノックされ、セバスチャンが入って来た。
「リリアンナお嬢様。王太子殿下からお手紙でございます」
「……ありがとう」
恭しく差し出された手紙を受け取る。
「まあ!本当に殿下はマメでいらっしゃいますね!今度はどのようなお誘いなのでしょう」
「これ、スザンヌ。無粋ですよ」
セバスチャンがスザンヌを軽く諌めるが、本気でないのが分かる。スザンヌも、申し訳ありませんなんて言っていても、テヘぺろ感が否めない。
そう、あれから殿下、本当にマメなのだ。やれ妖精さんの楽しい話が聞けたとか、珍しいお菓子が手に入ったとか庭園に新しい花がはいったとか。お茶会に誘われたり、手紙で報告だったりと、なかなかの行動派。
まだ学園も始まっていないし、多少は時間もあるのかも知れないけれど、ちょっと想定以上で……。使用人のみんなにも温かく見守られてしまっているという、何ともむず痒い状況なのだ。
「して、お嬢様、殿下は何と?」
「……建国祭にお忍びで街歩きをしようってお誘い」
「まあまあ!いいではないですか。これからだんだんと皆様お忙しくなられますし、今のうちに楽しまれるといいですよ!」
『そうだぞ、楽しい心は大事だ。我らの力にもなるしな』
「わ!シルフ様!また急に来て」
『リリアンナの驚く顔が見たくてな。……今日もかわいいな』
「また、そういう……!」
私の反論なんぞはさらっと流し、シルフ様は甘やかな笑顔を湛えたまま、バックハグ状態からひょいと手紙を取り上げる。
そしてシルフ様の急な登場に慣れたスザンヌとセバスチャンは、ささっと彼の分のお茶も並べる。私に近しい人たちには、シルフ様が見えるらしい。
『ほう。お忍びか。面白そうであるな。わたしも共に行こう』
「はい?!」
『建国祭だろう?我らにも関わりのある祭りだ』
「……それは、確かに」
ただちょっと、面倒事な予感がする。そしてシルフ様も結構な頻度で遊びに来るけど、暇か?暇なのか?




