29.小さくて大きな奇跡
どこかで答えは分かっていたのだろう。
お父様は悔しそうに、目を閉じてぎゅっと唇を噛み、両手を拳に強く握った。わずかに肩も震わせている。お母様が隣でそっとお父様に手を添えた。その瞳も心配で濡れている。陛下ご夫婦も、国のトップであるからであろう、気丈に前を向いているが、瞳には落胆の色が見える。
……これは本当に猛反省をするしかない。
そうだ。子どもが熱を出して苦しそうにしているだけでも、親は代わってあげたいと思うもの。それが命懸けの戦いなんて、心配どころの話ではないはずだ。……少し想像すれば分かることだったのに。少なくとも私は知っていたはずなのに。
「ごめんなさい、お父様、お母様。わたくし、少し考えなしでした」
居たたまれなくなって、涙声になってしまう。
「いいんだ、リリアンナ。わたしたちこそ、不甲斐ない親ですまない」
お父様はそう言って、私をぎゅっと抱きしめてくれた。何だかもう、いろいろな気持ちでいっぱいいっぱいだ。
そして、黙って成り行きを見ていたマリーアが、私たちに向かって口を開いた。
「あ、あの!お父様、お母様!!リリーはわたくしが守りますから!!絶対、絶対に聖女になって、魔王を封じてこの国と侯爵家のために……!」
話している途中で、パン!と弾けたような音が響く。何事かと顔を上げると、お母様がマリーアの頬を叩いていた。瞳から、大粒の涙を流して。
「何を言っているの!わたくしたちは貴女が聖女たらしめるから家族になったのではないのよ?!マリーも!リリーも!大切なの!!侯爵家なんて、いいのよ!名誉なんて……!!貴女たちがいなければ……!なんの、意味も……」
お母様は泣きながらマリーアをぎゅっと抱きしめた。
始めは驚いた表情を見せたマリーアも、すぐに嬉しさと後悔を混ぜたような顔をして、お母様をぎゅっと抱きしめ返す。
「ごめ、ごめんなさい、お義母様……」
「そうよ!もう、もう!なぜわたくしではいけないの!なぜ貴女たちなの……!」
「お義母様……ありがとう、ございます……」
「シルフ様!どうしても娘たちでなければなりませんか?!」
そうお母様がシルフ様に叫ぶように問い直した直後、急にパアッと庭園中が目映い虹色の光に包まれた。
それは眩しいのに柔らかな優しい光で。雨のように降り注ぎながらも、オーロラのように全てを包み込むような、温かな光だった。光同士が反射しながら、私たちを照らしている。
その神秘的な光に、喧騒が和らいだ。
『……聖魔法はどうしても魂からの才が必要だ。持たされた者は、魂の形成段階から修練をしているようなもの。魔族を封印できるのは、聖女のみだ。女神も現世には必要以上に関われないからの。そして祝福には、先にも述べたように、我等との親和性が最も大事なのだ。これがなかなかどうして、そう簡単ではない。創成期には多くいたのだが……』
その沈黙を待っていたかのように、シルフ様はお母様に語りかけた。
「……どうしても、ですか…………」
『どうしても、であるな。理は変えられぬ。しかし、侯爵夫人、そして侯爵。そなたらはたった今、奇跡を起こしたであろうが』
「奇、跡……?」
『そう、人と妖精たちが共鳴して起こす奇跡。そなたたちの無償の愛が、この目映い光を生んだのだ』
「……これを……」
「わたくしたちが……?」
二人は目を見開いて、光を見渡した。その光の海原は、まだ続いている。
『左様。わたしも久しく見なかったな。やはり美しい。これを見ると、やはり人との繋がりを続けたいと思うものよ』
シルフ様は私たちを一周見渡して、話を続ける。
『この光は、妖精たちが愛を感じて放つ光だ。この場所……いや、王都中に広まり邪気を浄化し、魔王の封印も強化したらしめる』
「「「「「「「!」」」」」」」
『そして我等も強くなる。ひいては勇者たちの守りも固くなるというもの。そなたたちに出来ることは、山ほどあるぞ。それに、そこにおるのは人の王だろうが。そなたもだろう?』
「……は!魔物討伐騎士団の底上げを急務に……!!……サーフィス、すまぬ。わたしは父としてではなく、王としてお前に望みを託す。騎士団を率いれるよう強くなれ……!!」
「もちろんです、父上。いえ、陛下」
「うむ……!」
王妃殿下も、凛として陛下の隣に佇む。でも、絶対心配だよね。トップは大変だ。仕方ないし、当然かもしれないけれど、大変だ。
『このまま大きな悪意に包まれずにおれたら、魔王の復活も抑えられる希望も持てるしな』
おお!とみんなが盛り上がる。
…………えーっと、
…………大きな悪意、とは……あれよね、原作の私がやっちゃったやつよね……?




