やっかいな体質
【魅了】を持つ娘は、初めて契った相手に無条件で特別な加護を与える。
その事実が、【魅了】の乙女を周囲から特別視させる一因である。
加護とは魔力の増幅のみならず、幸運の到来や長寿、健康、財産など、女神の采配により特別ななにかが与えられると語られるために、魅了の力を持つ娘は縁談の引きも多い。
なので聖女とならずとも、年頃までは魅了については伏せ、それとない匂わせによってよい縁談をつかんでいく貴族の子女も多い。聖女候補とならなければ、殆どがその道を辿るだろう。
この国では貴族家に生まれた女性がなにかしら職に就く場合は、王家や上級貴族に仕える女官、または女性の護衛騎士などのごく限られた道を選ぶことになる。しかし【魅了】の力はいらぬ諍いの元になりかねないため、王家に仕える女官や護衛騎士の道は基本的に閉ざされていた。
よって職業として就けるのは、教会に入り、聖女となること一択と言ってもいい。
それも、上級貴族の令嬢ならばそもそも働くことを考える必要などはなく、生活のために聖女を目指すレティシアは変わり種に属している。
困窮するサフィール家に、レティシアの後妻話や愛人の誘いが舞い込んできているのは【魅了】の力を手に入れようと考える者がそれだけ多いということだ。
【魅了】の力を持つ者は滅多にはおらず、力自体を隠されるので、存在を見つけ出すこと自体が困難に当たる。
当代で最も力の強い【魅了】だと分かっている娘を、金で手に入れられる機会を得ること自体が滅多にないということだ。
もっとも、レティシア自体はまだ【魅了】の力を使ったことがないので、それが真実なのかは分かっていない。
【魅了】の力を発言させるのは、特別なトリガーがある。
いくつかある中の最も単純なものが、男性との性行為を行うことだ。
破瓜することで、乙女は【魅了】の力に目覚めると伝えられている。それはかつて女神の寵愛を受けた乙女が、戦場に向かう愛する男と契ることで加護を与えたという逸話から受け継がれた方式なのだそうだ。
(だから、買われたらすぐにそんなことをされるなんて……最悪)
これまで家にやってきた「援助」の誘いは全て、レティシアが承諾したらすぐにも自分の元に身柄を引き取りたいという申し出だった。
つまりは、金で買われたら即初夜だ。本来、貴族の結婚は上級学校を卒業してからが望ましいとされる常識があり、婚約中に契りを結ぶことは忌避されている。そのような社会通念を無視して、レティシアの身柄を手に入れたいと考える者たちがいるという事にはゾッとする。
(それで、何も起こらなかったらどうなるわけ? 【魅了】の力に目覚めるって、どういうことなの)
破瓜する以外では、純潔の身のままで儀式の乙女役を務めるか、教会に入って修行を行うかすれば、【魅了】の力が顕現するという。
つまりは、聖女になることを目指していても、どれもまだ未経験のレティシアは【魅了】の力が使えないのでそれがどういうものなのか全くわからないのだ。
だからこそ、難しかった。
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