5話 テレビと速報
「人が死んでる!」
僕は反射的に状況を確認しに行こうとする。殺し屋の名前が見たいからだ。なんとなく、見ておいた方がいい気がする。正直、ディリジアと書いているのかどうかが確認したいだけなのかもしれない。普通、同じ地域に殺し屋はそう多くはいないはずなのだ。
殺し屋が黙認されている理由の一つに、社会的に上位の人間が自分に都合のいいように社会をまわそうとすることがある。そのため、普通は高い立場の人間を殺すように依頼が出る。しかし、かといって高い立場の人間を毎日のように殺す依頼が出るわけではない。当然のことである。それでは社会が回らない。
このような背景から、同じ地域に殺し屋がたくさんいても、効率が悪いため、基本は集まらない。なかなか殺せない対象がいる場合は別だが。
「宮沢さんはこれから仕事なんですよね? この辺物騒みたいなので気を付けてくださいね」
「気を付けるね」
「じゃあ、先に帰っておきますね」
「あ、そうだ。折角ならこの後の私の番組に一緒に出てくれない? きっとルナちゃんのセンスならうまくやれると思うから」
珍しいお誘いだ。こんな機会はなかなかないし、テルルのことも知れるからちょうどいい。任務も完了したし、参加してみよう。
「それなら行ってみたいんですけど、あんまり顔は出したくないです」
あまり僕が有名になってしまっては困る。
「んー。顔出さないようにするならこのお面使う?」
そう言って差し出されたのは見たことのあるお面だ。礼さんが僕に投げてきたのと同じだ。
「ありがとうございます」
「じゃあ、今から収録だから、ついてきてね~」
そんな直前に出演者を増やしても大丈夫なのだろうか。
「ここがスタジオだよ~ ルナちゃんのこと伝えてくるね~」
テルルはプロデューサーらしき人のところに小走りで行く。そもそも何の番組なのだろうか。あ。本名が放送されるのはよくないな。何かしら芸名か仮名かを考えておこう。
「オッケー通ったよ! 芸名は私が適当につけて伝えておいたけどいいかな?」
それは助かる。
「何になったんですか?」
「ナッフィー」
一瞬ウサギが頭をよぎる。ルナとフィリアーデから頭文字を取ろうとしたのだろうが、それだと財宝を手に入れてしまいそうだと思ったのだろう。でも、ナフィーは微妙だったから、『ッ』を入れたのだろう。
「ありがとうございます」
「ちなみに私はユカタン」
半島じゃん。
「収録始めまーす」
「あ、台本とかないから流れで発言してね」
この番組は大丈夫なのだろうか。
よく分からないままに指示された席に座らされる。隣にはテルルが座っている。
テルルの顔がシャキっと整う。僕はお面をつける。
「始まりました。ニュースフリーダム」
アナウンサーっぽい人が話し始める。
「今日のゲストは、最近、ふわふわしていながらキレていると話題のユカタンさんと、なんかその辺にいた人のナッフィーさんでーす。よろしくお願いします」
「はーい。今紹介させていただいたユカタンです~ みなさんよろしくです~」
手慣れている。こういうところは度胸だ。
「僕はナッフィー。通りすがりの一般人! え? なんでお面をしているかって? 仮面を外すと恐ろしいことになっちゃうからさっ。今日はよろしくっ」
後ろにキラッて効果音が付きそうなくらいに清々しくやり切った。
「では、最初のお題に入ります。近年、世の中にはキラキラネームというものが存在しますが、実際のところどう思いますか? まずユカタンさん」
スルーされた。
「私はね~ 可愛いけれど、アニメのキャラとかだけで十分だと思います~」
「ほうほう。というと、どういうことですか?」
言葉通りだろうに。
「大人になった時にその名前で会社の人から呼ばれるのって辛いですよ~ まぁ、分かりやすく言うと、生まれたときから足かせがついているようなものです」
ん? 何か思っているよりも発言がきつい。中和しておこう。
「僕はキラキラネームにもそれ自身の良さがありマッシブだと思いマッスル! 周りの人に名前を覚えてもらえってぃしたり、自分でボケに使えたりしまするめ!」
中々にやばい発言してると思う。
もちろん、空気が固まってしまった。天性のセンスかもしれない。
「中々に個性的な回答ですね。それじゃあユカタンさん、なぜキラキラネームがそのような状況を引き起こすにも関わらずそのような名前が流行るのでしょうか?」
意外と真面目じゃないか。
「いや、ユカタンさん、待ってください。ここで速報です。先程我が社の副社長がここのスタジオの4階楽屋で亡くなっていることが判明しました」
もうバレたのか。
「どうやら、殺し屋の仕業らしく、犯人は『フィナ』とのことです」
ニュースで殺し屋のコードネームが公表されることはしばしばある。ただ、今日は2人死んでいるにも関わらず1人しかピックアップされないのは殺し屋が黙認されている影響だろう。
できれば、もう1人の殺し屋のコードネームを知れたほうがよかったのだが。
「それでは、ユカタンさんこの事件についてどう思いますか?」
テルルは少し考えて言う。
「何か、ナッフィーさんみたいな名前ですね」