4話 オリキャラと任務
「これからよろしくお願いします」
僕の席は窓際の一番後ろの角だ。背後が取られにくくて助かる。
とりあえず隣の人に話しかける。
「太陽神が言っている。よろしく、と」
やべぇやつだ。
「外国人ってま?」
「ま」
「さっきのSDカードってどうやってんの?」
みんなが寄ってくるが、あまり近づかれるわけにはいかない。
ちょうどいいタイミングで先生が、
「皆の者座って口を慎みたまえ」
統率の取れた動きでみんなが座る。気づけばアンチモンは席に座っている。やはり、気配を消すのがうまい。
「それじゃあ、昨日言ってたようにオリキャラを作ってきたかな?」
あれ、先生の話し方が変わった。
「先生は3時間ごとにキャラが変わるんだよ」
前の人が教えてくれる。
「あ、ルナちゃんはまだ作っていなかったね。それじゃあ、前に出てきて今すぐ作ってね」
無茶ぶりをしてくる。
「はーい」
前に立って考えるが、僕の得意分野でもないため、何も思い浮かばない。
「後20秒ね~」
鬼だ。
「10,9,8......」
20秒じゃないし。
ええい。どうにでもなれ!
僕は画力もないのに女の子を描き始める。右手にビーカーを持たせて、羽をつける。
完成。ナニコレ。
「はーい。できましたねー? それじゃあ、この子を紹介してください!」
みんなの視線が痛い。
「あ、あの、この子は加水分解ちゃんです」
ダメだ。どうにもならないこの空気。
「ビーカーには水酸化ナトリウムが入っていて、どんなものでも加水分解しようとします」
拍手が起こる。
「いい! すごくいい!」
そう言ってくれたのはテルル。立ち上がって誰よりも大きく拍手する。
ありがとう。僕の気が少し楽になる。
「ルナちゃん、席に戻っていいですよ」
席に戻ると、隣の席の人が話しかけてくる。
「月神が言っている。すばらしい、と」
どうやら、神の使い(?)には刺さったらしい。
「じゃあ、次、山隠さん、発表してください!」
「はい」
小さく反応し、アンチモンが立つ。
「私のキャラは、ティリミアーデ君です。ナイフ一本で学校を占拠できる恐ろしいキャラです」
完全に僕宛だ。なぜわざわざ僕に宣戦布告のようなことをするのだろう。確かに、アンチモンの襲撃に対してあれだけの対応をしたのだから、正体がばれているのは仕方ないだろう。
しかし、僕に対峙する理由が分からない。誰かが僕を殺すように依頼をしたのか? いや、そもそもアンチモンが殺し屋だと確定したわけでもない。早計な判断は失敗の原因だ。もう少し様子を見よう。
考えを巡らせていると、気づけば周りの人たちが立ち上がり帰っていく。
人の気配。立ち上がって後方に移動する。
「今日の学校は終わりだよ~」
霧野が話しかけてくる。
まだ、始業直後だから親睦会的なのだけで学校が終わるのか。
「帰りましょうか」
「そうだね~」
霧野が近づいてくる。
「あだっ」
何もないところで霧野がこけて、床で全身を打つ。
「大丈夫ですか?」
「慣れっこだからだいじょぶ」
そういえば、テルルとアンチモンがいないな。
「テルルとアンチモンはどこに行ったんですか?」
「由香は、テレビの仕事だーって急いで出て行って、九一はいつも気づいたらいない。wi-fiが学校にないからかもね」
なるほど。
僕と霧野は一緒に学校から一本道を帰る。別に今殺せなくもないのだが、殺してしまっては寮の問題を解決する前にどこかに行く羽目になる。
寮に着いた。共用スペースに入ると、確かにアンチモンがくつろいでいる。
自分の部屋に戻ると、ボスから連絡がくる。
一枚の履歴書のような写真と、住所が送られている。
続いて、今日の19時頃この住所にいる。いつも通りに頼む。重要任務だ。と送られてくる。
殺しの依頼だ。
相手は、テレビ会社の副社長で、今日、スタジオに見学に来るため、その前に殺すことになっているらしい。
まだ10時。警戒しつつ17時くらいまで寝よう。殺し屋の仕事は夜が多い。寝られるときに寝ておこう。
17時に目覚める。ここから、テレビ会社まで、走りで90分。そろそろ出ないとな。
走るのは体を鍛えるためでもあるが、満員電車を避けるのが主な目的だ。襲撃に備えるのは基本だ。
「バイトの面接に行ってきます!」
元気よさげに言い残して、寮を出る。
90分走り、目的地に到着する。
まず、黒いマントなどをつけ、見えにくい恰好をする。
非常階段のドアをハリガネで開け、侵入する。大抵の建物は非常階段から入ることができる。
今日のターゲットは裏で薬の密売をしているらしい。副社長なら相当お金はあるはずだろうに。人がいないタイミングを見計らって、監視カメラの死角から警報が鳴らないようにレンズに傷をつける。
ターゲットの控室に侵入し、来るまで待つ。
誰か来た。
ドアが開き、ターゲットであることを確認する。
ドアが完全に閉まったところで後ろからスタンガンを当てて気絶させる。そして、用意している注射器で毒を注入する。毒は僕が自作したもので、何の痛みもなく即死する毒だ。しかも、その毒は一瞬で分解されるため、証拠は残らない。
手を合わせて、一礼する。そして、フィナ、と書かれた殺し屋カードと臓器提供のドナーカードを置いておく。
せめて、ターゲットの死を何かに還元するために僕はドナーカードを置いている。
よし。
こっそりと部屋から出て、少し離れたところで、黒いマントなどを外して片付ける。この会社はスタジオの見学などで一般人も多少は出入りしているらしいのでそこに紛れることにしよう。
少し会社の中を歩いていると、前方から、誰かが走ってくる。
「ルナ君だ!」
テルルだ。ここで働いているのか。
「なんでここにいるのー?」
「スタジオ見学でもしようかなって」
「いいねぇ、スタジオ見学。私のところに来る予定だったの?」
「いえ、そういうわけでは」
テルルが次の言葉を発しようとした時、悲鳴が聞こえる。
「人が死んでる!」
僕の殺した件とは方向が違う。
悲鳴が聞こえたのは、テルルが走ってきた方向からだった。