3話 女子高と陰謀
「あなたは殺し屋ですか?」
あっていたら攻撃してくるだろうか。それでも、僕が死ぬことはないだろう。
「そんなわけないよ〜」
へ?
「私、うまくできてたかなぁ?」
「ど、どういうことですか?」
「私ね、テレビに出てて、今度、ドラマに出るからリアリティを求めてるの〜」
「えっと、その、芸能人なんですか?」
「そうだよ〜」
何か思っていたのと違った。無駄に疑った。
もしかして、礼が死んだことを知らないのだろうか。
「あの......礼さんが昨夜に殺されてて......」
「あ、そう......」
意外と反応が薄い。
「またなんだね......」
また?
「また、ってどういうことですか?」
「ここの寮、すごく人が殺されるの」
「そう......なんですね......」
この寮は何かがおかしい。
「一旦忘れて、学校に行こ?」
また調査しなければいけない。不自然に人が死ぬ寮を放置することはできない。
そうだ。しばらく霧野を殺さずに置いておいて寮の問題を解決しよう。
「まだ、6時半ですよ」
「それもそうだね。一緒にご飯を作ろっか」
「はい」
「やっぱり卵だね、卵」
テルルは朝から卵に手をつける。
30センチよりも近くには行けないので結局僕は何も料理をせずに遠くから見ている。
片手で器用に卵を割り、目玉焼きを1,2,3......11,12個作る。
12個!?
「12個も作るんですか!?」
「だって、一人一個じゃ足りないでしょ?」
そういう問題ではないが、卵は美味しいからそれでもいいか。
上から2人分の足音が聞こえる。
「おはよう」
霧野が落ち着いて言う。
まるで昨日のことが無かったようだ。
アンチモンについてはそもそも挨拶すらしない。
携帯が震え、メールが来た。
「2年生ってことにしといたから、みんなと通ってね ハート ぼす」
ハートをせめて絵文字にしてくれ。
それで、僕が16歳だからぎりぎりごまかせる、ってことか。
「テルル、今日も卵。そろそろプロテイン要らなくなりそう」
「飲んでないくせに〜」
霧野は意外とユーモアある人物なのかもしれない。
それに引き換え、アンチモンは全く喋らない。
ご飯が終わると、霧野が話してくる。
「ルナ、行こか。Suicaじゃないよ」
もう学校に行く時間らしい。まだ7時半なのに。
「電車には乗りませんよ」
「ツッコミがしょぼい!」
「正解はなんなんですか」
「いつか答えが見つかるよ」
初日に会った時とは印象が大違いだ。初日と言っても昨日のことだが。
「私が道を説明するよ〜」
テルルが言う。
「この道を真っ直ぐ1528歩だよ。当社比で」
「何と比較してるんですか」
「ツッコミが弱い〜」
ほぼ同じことを言われた。2コンボ。
とりあえず道が真っ直ぐなことだけが分かった。
寮を出て、歩き始める。3人と距離を取るように背後をゆっくりめに歩く。
ものの15分で学校に着いた。
学校は4階建てで最近建て直されたようで、昨日行った学校とは大違いだ。これが公立と私立の違いなのかもしれない。昨日のところは築120年だったから無理もないか。
「はやくはやく~!」
テルルに呼ばれたので少し小走りで昇降口に入る。
あれ、下駄箱がない。
僕があたふたしていると霧野が
「土足で上がって大丈夫だよ」
と言う。
西洋風の校則になっている。
みんなが歩いていくのについていくと、エスカレーターがある。エスカレーターがあるくらいでは驚かないが、火事とかのときにどうするんだろう。窓から飛び出せば難なく僕は生き残れるけど。
そういえば、他の生徒はいないのだろうか。道中でも誰も目にしなかった。
僕がきょろきょろしていると、そのことを察したようにテルルが言う。
「だって、もう授業始まってるよ~」
「やばいやないですか?」
何か変なしゃべり方になった。
「まぁいいのいいの」
テルルが中から先生の話し声が聞こえる教室のドアを勢いよく開ける。
「先生閣下! 転校生を連れてきたのであります!」
「宮沢! ご苦労である!」
先生はいかにも普通の女教師という恰好をしているが、変なしゃべり方をしている。
「というわけで今日から君たちの同僚となる、ルナ君だ。入ってきたまえ」
アンチモンや霧野に近づかないように歩いて、教室に入る。
教室がガヤガヤとし始める。
「男の子!?」
「いや、ここ女子高だよ?」
まぁ、そうなるだろう。
「ルナ君、自己紹介をよろしく頼む」
どう自己紹介すればいいのだろう。男ということがばれれば、居場所は失うが、一気にこれだけの人数に男装している、とだけ言ってもいつかばれてしまうだろう。どこかに男装のプロがいる場合があるかもしれない。
「僕はルナ・フィリアーデです。一応女性です。趣味は男装で、僕の生まれの国ではそもそもの肉のつき方や骨格が少し異なっていて、男性ホルモンも混じっていますが、戸籍上はしっかり女ということになってます!」
一呼吸置く。流石に無理があるか。教室が静かになる。そうだ。
「一子相伝の芸をやります」
全ての記憶をこれで塗り替えることにしよう。
SDカードをポケットから取り出す。色んな所から情報を集めるときに使うため、常に4つは空のやつを持っているのだ。
「ここに一枚の何の変哲もないSDカードがあります。この中には早口言葉を絶対にかまなくなるプログラムが組み込まれています。これをぼくの頭に差し込みます」
僕はSDカードを勢いよくぼくの頭に差し込む。SDカードがぼくの頭に消えていく......ように見えているはずだ。実際は頭にぶつけて粉状になるように砕いただけなのだ。結構頭が痛い。
「はい。差し込みました。そこのあなた何か早口言葉をどうぞ」
一番前の席にいる女の人に問いかける。
「んー。そうだ! センザンコウのセンコウ観光船で善行、でお願いします」
なにそれ。
早口言葉は、何の意味も考えず、カタカナに全て変換したらいける。
「センザンコウノセンコウカンコウセンデゼンコウ」
結構な拍手が起こる。
何とかごまかせただろうか。
「それじゃあ、諸君ら、座ってもらおう。ルナ君はそこの空いている席だ」
「あれ、先ほどまで九一君がいたと思うのだが」
どこに行ったのだろう。
「もしもし、こちら×××」
「九一、様子はどう? 元気?」
「ちゃんとコードネームで呼んでください」
「ごめんごめん」
「それで、何の要件です?」
「そうだね。私が昨日君のいる寮にフィナを送った。彼を殺して欲しい」
「フィナって、フィリアーデですよね」
「そうだ。彼を何とかするために2年間用意していたからな。必要なことがあれば協力する」
「了解しました。早急に」