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第9話 彼女と田植え……オレ未来と喧嘩しました

 ◇◇◇咲夜目線◇◇◇



「よーし!! ラスト1周だメリア!!」

「……はい!!」

「走り終わったら軽くジョギング。その後少し歩いて終了。急に止まるのは危険だからな!!」

「……わかりました」


(まさかな……)


 メリアの体力には驚かされてしまった。オレは彼を思ってペースを落とす。それでも力を振り絞りながら走る姿は、かっこいい。

 これならオレよりも速くなる。それがすぐわかった。きっと超えられてしまうと。


「よし。今日はこれで終わりだ。軽くジョギング。覚えているよな?」

「その次に歩く、ですよね!!」

「正解。ちゃんと身体洗えよ?」

「その……」

「ん?」

「おれの家……お風呂がなくて……。他の家もみんな……」

「マジか……。うーむ。そりゃ困ったなぁ……」


 走ったあとのお風呂タイム。それができないなんてどうしたものか……。少しずつ速度を落として、ウォーキングに切り替える。

 その先には宙に浮いた巨大な岩。よじ登ってみると均等な幅を残してくり抜かれ。内側に木の板が敷き詰められている。


(これはもしや……)


「二人ともおかえり!! 今からお風呂沸かすから待ってて!!」

「未来……。さすがだな!!」

「でしょ。そろそろお風呂入りたいんじゃないかな? って。この岩はガノンが見つけてくれて、丸太の上を滑らせて持って来たの。

 昔の人もやっていた方法でね。成形と設計、くり抜いたのは私。板はガノンやみんなが敷いてもらったし」

「水の準備は任せろなのです!!」

「ミカエルさんありがとう。火は私に任さて!!」

「みんな……」


 気持ちが一つに繋がっている。そんな感じがする。ミカエルは魔法で水を入れ、未来はその下で火起こし。

 ものすごい勢いで沸騰し、お風呂として機能した。オレはメリアと一緒に服を脱いで勢いよく飛び込むと、一瞬で消火。


 その後未来が火をつけ直し、急激に熱くなる。それが意外とちょうどいい温度だった。


「咲夜兄ちゃん。明日もお願いします!!」

「なんだよ……」

「もっと練習したいんです!!」

「そっか……。けど、距離は短く……」

「今日と同じ距離で!!」

「んな。今のお前に2日連はキツすぎだって……」

「そーれーでーもー!!」

「……はぁ。仕方ねぇか……。バテても知らねぇからな?」


『ふふふっ! なんか咲夜くんとメリアくん双子みたい』


「ちょっ。未来……!?」

「未来姉ちゃん……」


(なーにとんでもねぇこと言い出すんだよ……)


 絶対ありえない。でも、本当にそうだとしたら……。オレはメリアとゆっくり浸かる。いつの間にか他の人も入っていた……?


「っておい!! なんでオレと一緒に入ってんだよ!!」

「あ、バレちゃった?」

「バレバレに決まってんだろ未来!!」

「それじゃ先に出ようかな?」

「ま、まま待て!! 禁止令解除すっからさぁ」

「ほんと?」

「ととッ、とっくに入っちまったんだから、そそそうするしか……ねぇ……だろ?」

「ありがと咲夜くん!!」


(はぁ……。しゃーねぇか……)



 ◇◇◇裏日本冒険者ギルド協会◇◇◇ 



『セレーデさん。本日はわざわざお越しいただきありがとうございます』

『こりゃどうも。リネン様。お呼びいただいたこと、心より感謝します』

『いえいえ』


 全方面朱色に染まった部屋。大きな円卓を囲うように、人々が席に着いている。

 若人にも捉えられる一人の男性。樹海に連接した小さな村【ノーツ】の元村長、セレーデだ。

 そしてその隣にいるのが〝リネン〟なのだろう。藤色の髪が目立つ青年だった。そんなリネンはセレーデの背中を叩く。


『どうですか? メーレーさんのご様子は?』

『それはそれは、今も元気そうですよ。村の発展に勝手でてもらったもので』

『左様ですか。これで一安心ですな』

『どうでしょうかねぇ……。彼女がお連れした方々が妙なんですよ』

『はて、それはどういったことですか?』


 何やら彼らは【ノーツ】での話をしているらしい。同時にここは、普通の人は立ち入り禁止のようだ。これは面白くなる予感。急いで連絡せねば。


『おやおや、よそ者でしょうか? ここの警備もさらに厳重にしないとですな。セレーデさん』



 ◇◇◇ノーツ 咲夜目線◇◇◇



「あぁ~。いい風呂だった……」

「ちょっと湯船浸かるの長すぎ……。私のぼせちゃったよ……」

「おいおい。別に先出ても良かったんだぜ?」

「だって。せっかく禁止令解除してくれたんだから」

「どんだけ好きなんだよ……未来……」


 今日もあっという間に日が落ちた。メリアも水気を拭き取ってから服を着るが、疲れでウトウトし始めている。

 あれだけ走ったのだから、筋肉痛になってもおかしくない。オレもはじめて走った時は体力無さすぎでコケてばかり。


 よくここまで体力がついたと今なお感じてしまう。小さい時から風邪を引きやすかったのに、今では風邪知らず。

 体力作りも趣味になってしまった。


「それにしても。真っ暗だよね……」

「そうだな。近いうちに街灯作んないと、危なっかしくて出歩けねぇよ」

「うん……」


 オレは何か悪いことでも言ったのだろうか? 未来の表情がうっすら曇る。彼女のことが心配だ。


「戻った。湯加減は良かったか?」

「ガノン。おかえり。みんなのおかげで大満足さ」

「ふむ」

「そういやガノン。お前どこ行ってたんだ?」

「知りたいか?」

「お好きにどうぞ」

「フン……。セレーデを尾行していた。とでも言っておこう。彼は〝裏日本冒険者ギルド協会〟へと向かっていた。同時に情報も入手した」

「情報? ってなんだ?」

「ここでは言えない。未来少し咲夜を借りる」

「わかった。じゃあ先に家に戻ってるね」


 暗い夜道を駆ける未来。オレとガノンだけになる。オレに話せて未来に話せないことは一体どのようなことなのだろうか?

 まだ乾ききれていない長髪が、しつこく顔にへばりつく。手入れするのもめんどくさい。


 オレは入浴後の着替えに仕舞ったナイフを取り出し、後ろ髪を首が見える位置で切り裂く。

 あまりに余った長い髪は、バッサリ切れて風になびく。濡れたおかげで切り残しなしのショートヘアだ。


「ふぅ……。ウザいのが一つ消えた。んで、ガノン。オレに話したいことってなんだ?」

「それはだな……。咲夜と未来はタッグを組むべきではない。ただそれだけのこと」

「た、タッグを組むべきではないって。んな!?」

「二人は敵対してこそ成り立つ。永遠のライバルということだけでも、覚えてもらいたい」


(そんな。わかっちゃいたけどよぉ……)


『……わ、私と、咲夜くんが永遠のライバルだなんて……』

「未来!? 帰ってなかったのかよ!!」

『だだ、だって!!』

「だってもクソもねぇだろうが!!」

『咲夜くんッ!? もう……。もう……』


 ――『大っ嫌い!!』


「未来!!」

「運が悪かった。諦めろ……」


 未来が盗み聞きしているとは思わなかった。樹海の奥地へと消える未来。追いかけようと思ったが、ガノンに制止される。

 今はそっとしておこう。オレは一人涙を拭いながら、家の中で一夜を明かした。



 ◇◇◇翌日◇◇◇



「おはようなのです!!」

「……おはよ。ミカエル……」

「今日の咲夜さん。元気ないのです……。あれ? 未来さんは? 未来さんがいないのです!!」

「……今はそっとしてやってくれ。アイツなら、必ず戻ってくる」

「咲夜……さん?」

「今日は田植えだろ?」

「そうですけど……」


 今日は珍しく寝坊した。中学生からずっと続いた記録が途切れる。寝ぼけ眼のまま外に出ると眩しすぎる日照り。

 オレは未来が心配だった。まさか『大っ嫌い』と言われるなんて、予想外だ。


(きっと戻る。しっかり戻って来てくれる。彼女ならきっと)


「よしっ!! んじゃ始めるか。まずは田んぼの手入れだったよな?」

「ですです!! 草むしりから始めるのです!!」

「サンキュー。どちらにしろ手作業だし」


 オレは草だらけの稲用田んぼに入る。どこもかしこも大量の草。こんな時に未来がいれば、火で燃やしてくれただろう。

 一つ一つ丁寧に引き抜く。人数は多いため割とすぐ終わったが、この段階で汗だくだ。この次にあるのは、水を入れる作業。


「ミカエル!!」

「りょーかいなのです!! アクアストリーーーム!!」


 ――ザザァ……!!


「『おぉぉおおおおおお!!』」


 ミカエルの水属性魔法。勢いよく水が流れ水田が出来上がる。今度は水と土をかき混ぜる作業で、トンボを使って混ぜていく。

 これもまた、水を含んだ土が重い。まるでタイヤ引きだ。足腰に負担がかかるが、お米と小麦のためならやるしかない。


「咲夜兄ちゃん!!」

「メリア。お前も来てたのか……」

『それ、おれやってもいい?』

「別に構わないが、キツイぞ!!」

『おれ頑張る!!』

「よしきた!!」


 納屋からトンボを取ってくるメリア。彼も水田に入って、トンボを引きながら歩き出す。身長の関係で泥だらけだ。

 オレも膝の高さまで沈んでいるので人のこと言えないが、メリアの場合は腰まで沈んでいる。


 一生懸命引きずる姿はものすごく輝いていた。時々前に転びそうになる姿も、父になった気分で見届けていられる。

 最後はいよいよ田植え。みんなで苗を持って植え始めるのだが……。


『咲夜くん!! それはダメ!!』

「未来!?」


 いつ戻ってきたのは知らないが、彼女の姿があった。田園の斜面を滑り降り、オレのもとへ走ってくる。


「もう、ほんと見ていられないんだから。ほら私にやらせて

「その前に何か言う事あるんじゃないか?」

「そっちもだよね?」


 ――「『昨日は、ごめんなさい』」


「ほら、さっさと交代!!」

「あとは任せた!!」

「一気に終わらせるよ!!」


(未来が帰ってきた。ほんと心配かけやがって……。オレも勉強しねぇとだな)


 カンカン照りの中の田植え。オレには未来が必要だ。過去のことなんでどうでもいい。今後のことだけが分かればいい。


「みんなおつかれ!! そしてただいま!! ささ、一緒に湯船へ入りましょ」

「おう!!」

読んでいただきありがとうございます!


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明日からは少しペースが落ちます。

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