第7話 彼女とセレーデ……オレ村長になりました
未来から見た咲夜とは?
――ジュゥゥゥ……。
「うわっちぃッ! 未来加減してくれよ……」
「容赦しないって言ったけど?」
「それでもだ!!」
(まあ、凍結から抜け出せたことだし。いいか……)
暴れに暴れて氷漬けにされてのストレス発散。みんなに迷惑をかけてしまった。とまあ、散らばった黄身と殻を片付ける。
とにかく、今日から養鶏場の管理をすることにして、オレ達は現場へ足を運ぶ。
鶏はみんな放し飼い。テレビで見るような設備がない。発展の遅れは差がわかるほどだ。
「ここが養鶏場。餌台はないみたいだが……」
「そうなんですよ……。土地代含めると、裕福な都市の設備を作ることは、まさに夢のまた夢。欲しいとは思いますが……なかなか」
「だよな」
「じゃ、じゃあ、私達で作りましょうか?」
「おい、未来!!」
「ふっふーん。急いで作ってくるから待ってて!!」
オレの止めも聞かず、未来は樹海の中へと入っていく。気になり追いかけると、木を伐採して縦真っ二つに割っていた。
そして、さらに真っ二つにすると、中をくり抜き始める。
「そうきたか……。ならオレも手伝ってやる」
「ほんと? 助かるよ。咲夜くんありがと!!」
「仲間だろ?」
「恋人同士だけどね」
「だな!! えーと、外皮は残すんでいいんだよな?」
「30ミリから40ミリ残す感じにくり抜いて。そうじゃないと割れるからね」
「なるほど。ハイスピードで終わらせ……」
「ごちゃごちゃ言わずに終わらせるよ!!」
未来は強い。優しくて言葉が強い。そもそも女はみんな強い。中身男では太刀打ち不可能だ。見た目は巨乳美少女系令嬢だが……。
そんなことはさておき。急いでくり抜くには、彫刻刀か大胆にオノを使うのが早い。幸いにも鉄鉱石を沢山持っていた。
鉄鉱石を溶かす作業は未来にお願いして、オノを二人分錬成する。あとは本命くり抜き作業。幹の内側を彫っていく。
「んで、どれくらい作るんだ?」
「んーとねぇ……。今ある4本で足りるかも」
「信じていいんだな?」
「予備で4本作るから安心なさい」
「は、はぁーーーーーー……」
「何家来みたいなことしてるの?」
「い、いやぁ。オレ失敗してばっかだからさぁ……」
(全部未来のおかげなんだよなぁ……)
オレは足を引っ張ってばっかり。家も未来のしっかりした判断で、骨組みが完成した。もっと楽しくできないだろうか……。
ペースはそんなに早くないが、順調に餌台が完成していく。キレイにくり抜いた餌台。脚もちゃんと用意してある。
「さて、持っていきますかね……」
「二人で持っていきましょ」
「もちろんだ。バランス考えろよ!!」
ってな感じで台を養鶏場に運び。通路の中心に設置。これで少しは餌やりが楽になるだろう。セレーデ村長も大喜びだ。
ひと仕事終えて、今日はノーツに泊まることになったので、オレはレノンとガノンを呼びにいく。
ボロ臭い家は慣れ親しんでいたそうで……。村に到着して早々、レノンが走り回る。これにはガノンも制御不可能だ。
「皆さん威勢がよろしいですな。セレーデ村長」
「おやおや、いつの間にいらしたのですか……」
「セレーデさん。このガタイの良い人は?」
突然やってきた中年オヤジ。巨乳ではなく、胸筋ムッキムキのビルダー体型だった。そしてポーズのアピールがウザい。
いちいち筋肉を見せつけてきて、存在感を出そうとしている。
「そうか。まだ紹介してなかったね……。彼は村一番の力持ち。長男のラダスだよ。よく筋肉を見せびらかしていてね……」
「正直しつ……」
「さーくーやーくーん?」(ギラり)
「ちぇッ。すんませんでした……」
「それで良し!!」
(しつけぇんだよ。筋肉好きにも程度ってもんがあんだ。程度ってもんが……)
ものすごい主張が激しいラダス。コイツとは死んだ先でも関わりたくない。気が合いそうにもないただのオジサン。
オレはそのような考え方しかできないから、自分でも腹黒と言ってしまう。理由は見た目判断でしかない。中身に興味はない。
今日泊まる場所は、ノーツの東側に建てられたホコリだらけの家だった。元々空き家だったそうで整備は不十分。
「それじゃ。掃除しようか……」
「未来……」
「なに? 咲夜くん?」
「い、いや、なんでもない……」
「むぅ……」(ジトー……)
「ちょ。顔近づけんな!!」
「もしかして、企みごとかな?」
「……なんでわかったんだよ」
「咲夜くん。好きなことはものすごいのめり込むけど、嫌いなことや苦手なことってすぐギブアップするよね」
(とことんやる未来の方が不思議だよ……)
手にはボロボロのホウキ。五人で協力して部屋を片付ける。床を掃き。ホコリを払い。五人ちょうど入る広さだからか、一瞬で終わる。
ようやく寝られると思い腰を下ろすと、夕食を持ったセレーデが様子見に来ていた。手には未来が焼いた香ばしい匂い漂うパン。
黄金色に焼け目がついたパンは、卵と小麦粉だけなのに美味しかった。バター不使用でしっとりしてないが、どこか懐かしい。
ノーツに来た経緯と村を作るきっかけ。オレと未来の関係性。様々な話題で盛り上がり、部屋中に笑い声が飛び交う。
「ほほう。それはそれは災難でしたな」
「んで、こっちで目ぇ覚めたら巨乳女になってたってわけさ」
「私は賢者だね。火属性の」
「そういや未来。もう一つ得意な魔法があるって言ってたよな?」
「知りたい?」
「知りたい」
「それじゃあ、明日畑で見せてあげる」
◇◇グンマー帝国 ドロワット家◇◇
「お父様!!」
「おお、ライチか……。サクラの方はどうだったかね?」
「自ら絶ったようですの。賢者と一緒に」
「となれば、自らを犠牲にしてと?」
「そのようですわ。身勝手にしては大胆な判断だと思いますの」
「そうか。我が子を失ってしまったのは悲しいが、彼女の判断は正しいのだろう。ご苦労だったライチ」
「嬉しい限りですわ。お父様」
◇◇◇翌日 辺境の村 ノーツ◇◇◇
「おはよ。みんな」
「おはようなのです!!」
「本当に咲夜くんって早起きなんだね……。今何時だろう?」
「えーとなぁ。だいたい朝4時じゃないか? これから日課の走り込みでも……」
「こんな早い時間からアクティブすぎるのです!!」
「これでも陸上は得意中の得意だからな。帰宅部だったけど……」
いや、実際は少し違う。元々陸上部出身。けれども受験勉強の時間が足りず、高2で退部したのが正解だ。
部員のエースだったため練習量も違い、時間に余裕が無くなった。それで帰宅部になったわけで、朝練だけは継続。
だから、毎日早朝に起きて自宅周辺で走り込み。体力だけでも落とさないようにしている。
「んじゃ、行きますかね。スマホねぇからタイム測れないが……」
「それなら私に任せて!! 魔法でタイマー出現させればいいだけだし」
「サンキュー未来。毎回すまないな」
「どういたしまして。コールタイマー!!」
どうやら未来は時間操作も得意なようだ。見せたかったのこれではないのだろうが……。
未来が出現させたタイマーは、手のひらサイズ。手に取って時間を30分に設定、走る体勢になってスタートを押す。
「タイマー切れたら戻る!!」
『気をつけてね!!』
後ろで見送る仲間達。やはり大きすぎる胸が気になってしまう。それでも、日課だけはやっておきたい。そうでないと気が済まない。
村周辺を3周。そこから、樹海周辺を1周。ここまでの距離がおよそでどれくらいなのかは不明。けど、まだ体力に余裕がある。
「追加で樹海の外周を3回走るか……」
ポツリと独り言。少しペースを上げて、走り込みを続ける。早朝の風はうっすら寒いが、走った熱で考えれば程よい温度。
流れる汗を感じながら、異世界の風景を堪能する。
タイマーは現在5分を切った。この時点でオレは6周走り、割と距離が短いことに気付く。
――ピピピッ!! ピピピッ!!
「おっ!! タイマー切れた!!」
(そんじゃ戻りますか……)
鳴り響くタイマーの音。ストップボタンを押し、村まで全力疾走する。
きらりと輝く汗のしぶき。ここまで大量に汗をかけるなら、オレも大満足だ。
『咲夜くん!! おかえり!!』
「ただいま未来!!」
手を振り待っていたのは未来達。ずっと同じ場所で待っていたのだろう。立ち位置が変わっていなかった。
「ただいま未来」
「おかえり!!」
「咲夜さん、ものすごい汗びっちょりなのです!! お洋服がビショ濡れなのです!!」
「ちょっと張り切りすぎちまったかもな。着替えがあればいいんだが……」
「たしかに、ドレスのままだと不自然だもんね」
いい加減このドレスとはおさらばしたい。とそれに合わせていたのだろうか? セレーデが着替えを持っていた。
ボロ布ではあるが、身動きの取りやすい普通の服。ボロシャツとボロズボンだ。加えてサイズもちょうどいい。
だけど、未来の前では着替えることができない。別に身体は女だから気にしなくていいのだけれど、精神的プライドの関係で……。
「ちょっと、家借りてもいいか?」
「どうぞどうぞ」
「サンキュー」
「それじゃあ私達はここで待ってるね」
「おう!!」
◇◇◇未来目線◇◇◇
「咲夜くん行っちゃったね」
「きっと男のプライドなのです!! 中身が男なのは変わらないのです!!」
「そ、そう……だよね。咲夜くん混浴禁止令出してるし……」
「プライバシー厳守なのですか?」
「セクシャルね」
「なるほどです!!」
私はミカエルと話しながら、咲夜の帰りを待つ。咲夜くんは忘れてるかもしれないけど、実は幼なじみだった。
幼稚園から小学校3年までずっと一緒。だけど、複雑な理由で離れ離れになって、中学3年まで別の学校。
どうしてバラバラになったのかは知らない。両親は何も教えてくれなかった。それに、咲夜くんも気付いていない。
あんなに病弱で弱気だったのに、今はまるで別人のよう。ものすごくかっこいいし、勉強熱心でチャレンジャー。
「お待たせ未来!!」
「おかえり咲夜くん。その服とても似合ってるよ」
「ありがとう。ま、ボロっちいのは変わんねぇけどな!」
たしかにところどころ穴が空いているが、ただのほつれにも見える。ズボンも作業しやすい生地になっていて、安っぽいけど村の雰囲気にピッタリ。咲夜くんの今のスタイルに、しっかりフィットしている。
「もう、そんなこと言わないの!! せっかく用意してくれたんだから!!」
「そうなのです!! 感謝するのです!!」
「そうだな……。次から気をつけるよ……」
「お願いね?」
「あい……」
(もう、場の空気ほんっと読まないんだから……)
だけど。いつ消えたのだろうか? セレーデの姿はどこにもない。咲夜くんに服を渡したっきりいなくなっていた。
村のどこを探しても見当たらない。住民達も首を傾げるばかりで、情報もなかった。
「これと言っちゃあ……」
「何咲夜くん?」
「い、いやあ。オレが着替えてたらさ。ちっちぇ紙が入ってたんだよ」
「小さい紙? それ今持ってる?」
「ポケットの中だが……」
「ちょっとそれ見せて!!」
「あいよ!!」
――パサァ……。
「読むぞ!! 『拝啓。メーレー様。突然姿を消してしまったこと。はじめに謝っておきます。
わたしは元々。この村を離れると決めていました……』」
――『……無事に我が子もすくすく育ち。早い段階で子離れせねばと、ずっと考えていたのです。
しかし、村長ということもあり、そう易々と離れるわけにはいけませんでした。わたしには、村を見続ける仕事があった……。
ですが、メーレー様がお仲間をお連れした時、ようやく決心がつきました。
これまた唐突ですが、次期村長はメーレー様の最愛の人に託します。
わたしの故郷であり、大切な村と我が子のこと。どうかよろしくお願いします』
村長の。今では前村長の直筆メッセージ。私の最愛の人は咲夜くんただ一人。セレーデさんは彼を待っていたのかもしれなかった。
セレーデさんは、私がこの世界に来てはじめてお世話になった人で恩人。ここから離れても、私は絶対忘れない。
「咲夜くん」
「ああ、わかってるよ。オレが村長になれってことだろ?」
「いいえ。私と咲夜くん。二人で村長やろ!!」
「そう来たか!! ハハッ!! 面白ぇ。その提案乗った!! やろうぜ!! 村長!!」
「うん!!」
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