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 事務所内


 ベルクが単独でユーバ村に帰ってから一週間。

 ラッカラに残った仲間のマリーとエリオットはなかなか良い仕事をしてくれる。


 Fランクで受けられるのは配達・小間使い・溝さらい・荷運びといろいろあって、不安定だが上振れがあるのが採集だった。

 何でか知らねえが、俺が貸した金貨二枚のうち薬と医者に使った残りの金で装備を整えてから、効率が格段に良くなったんだ。


 マリーなんかごく稀にしか見つからない幻のキノコを、依頼にないのに()()()()()()()()んだから。


「なんか虹色に光ってて綺麗だから取ってきちゃいました」


 とか言ってテヘッて笑ってやがんの。

 そいつは滅多に市場に出回らない、決まった群生地が存在しない、運だけでしか巡り会えない、"三ない"のニジイロタケだぞ。


 料理に入れりゃ絶品に。

 薬に混ぜりゃ効果覿面。

 干して砕けば芳醇な香にもなる。


 用途はかなり広いのに決まった所に生えてもねえし養殖も出来ねえ、かなり気難しいキノコだってのにこいつは。大袋二つにパンパンに集めやがって。

 ベルクが粋がり小僧なら、マリーは隠れ天然ラッキーガールか。


 しかもエリオットは<重戦士>なだけあって腕力はなかなかのもんだ。

 マリーの集めたキノコ・薬草・その他もろもろを一気に担ぎ上げちまうもんだから採集効率が段違いよ。


 一袋銅貨十枚の薬草採集を一日二人で頑張ってもせいぜい三~四袋が関の山かと見積もってたのに。


 一日で銀貨四十枚近く稼いできやがった。

 金貨・銀貨・銅貨・銭貨は百進法の関係だから単純計算で予想の百倍だ。

 何をどうしたらこうなる!

 採集で一日銀貨四十枚なんて聞いたことねえぞ!


 しかもだ、驚いてくれるなよ。

 ニジイロタケはまだ残ってるんだ。

 全部売った訳じゃねえのにこの価格なんだよ。


 価格が暴落しないように放出量は俺が絞った。

 マリーが誰かに見せる前に一旦事務所に寄ってくれたのが幸いだった。


 そうそう出回らないから、一袋もあれば十分だ。

 そうやって絞ったのに、売却高が銀貨四十枚してんだよ。ってことは残りの一袋も捌けば銀貨八十枚。

 一週間で貸付額の四割に届くとかどんだけよ?

 もう食用キノコの採集依頼とか誤差だよ誤差。


 こんなビギナーズラック、Fランクのぺーぺーに覚えさせちまったらやべえよ。

 一日銀貨八十枚相当の収益なんて、トレジャーハント専門のCランク上位冒険者パーティー相当だからな。

 そんな楽じゃねえんだよ。金を稼ぐっつーのは!


「お前ら、何か生産系の恩恵ギフト持ってんじゃねえのか」

「いやいや」

「普通の<弓士アーチャー>と<重戦士タンク>ですよ」

「普通の<弓士>と<重戦士>が採集でこんなに稼ぐか!」


 最初の六日間は可愛かったもんだ。

 せっせと普通の薬草と普通のキノコ集めて健気に頑張ってたのに。


「お前ら、防具くらい揃えろよ。魔物に出くわしたら死ぬぞ」

「でも」

「貸した金はその辺も込みなんだから。良いからお前ら買って来い。途中で怪我される方が困る」


 って俺が言ったから。


 何を新装備に張り切ってニジイロタケ乱獲してやがんだよ!

 通常の依頼が片手間に感じる勢いで!


 …まあいいんだけどね!

 俺は返済が速まって良いんだけどねっっ!!






「あのー、こんばんはー」

「はい…って、ベルク。何でここに!」


 そろそろ日も傾いてきたし店じまいしようかと思っていたら、ユーバ村に帰ってお袋さんを治療中のはずのベルクが事務所に来た。

 どうも、と会釈したベルクは俺が出迎えたことでちょっと安心したのか、ほっとした顔をしていた。


「グレンさんが貸してくれたお金のおかげで、お母さんの病気がちょっと楽になりました」

「そうか、よかったな。もうこっちで活動できるのか」

「まだ完全に治ったわけじゃなくって。薬が足りなくなりそうってお医者様に言われて買い出しに来ただけなんです」


 病気の進行が止まったことで光明を見出せたのか張りつめていたものが解れて、俺に対するベルクの態度も軟化している。

 薬の買い出しに戻ったってことは、また三日の道のりで村に戻るのか。大変だな。


 そうだ。せっかくここに来たんだから。


「これ、持ってけよ」


 ニジイロタケ。


「え、ええ!?」

「薬買いに来たんだろ? これ薬に混ぜて飲ましてやりゃ効くだろう。そうだな…一個じゃ少ねえか、二個持ってけ」


 一個銀貨四枚のニジイロタケだけど。

 手元にいっぱいあるし、一個がデカいからこれくらい別にいいだろ。

 まあ売値分と手数料はきっちり元本に上乗せさせてもらうけどな。


「そうだ、これから飯にすんだがお前も食うか。今日はもう遅いから泊まってくだろ」

「うん…じゃなかった、はい! またアサイチで戻りますけど」

「どうすっかな…肉にするか肉。若いんだから力つけねえとな、ハッハッハッハッハ!」


 今日はちょっといい店に行こう。

 その会計も元本に上乗せさせてもらうけど。




 十日後、事務所内


「グレンさん!」

「ベルクか。どうだった?」

「もうバツグンだったよ! 薬とシチューにあのキノコを混ぜて作ったら、一晩で完全復活!」

「おうそうか。よかったなあ」


 夕方事務所に飛び込んできたベルクを、七袋分のニジイロタケ・五袋分の延命草・瓶三本分の大樹の朝露・妖精の粉の小瓶を背にした俺が大手を広げて出迎えた。


「よく帰ってきた」

「グレンさん本当にありがとう…! おれ明日から活動に参加するから。ちゃんと借りた分頑張って返すよ!」

「いや、もういいもういいもういい」

「…え?」


 ベルクがやる気になってくれたのは本来だったらとても嬉しいが、俺はそれを断る。

 まさか断られるとは思っていなかったのか、ベルクは呆気に取られた。


「お…遅れを取り戻すために、おれも明日から頑張ろうと――」

「もう充分だ。これ以上はもういらないよ」

「じゅ、充分?」

「ほんっと、マリーとエリオットは仲間思いだよな。ほんっと。ベルクの穴を埋めるためにメッチャメチャ頑張ってたもん。うん」


 頑張りすぎて事務所がぎゅうぎゅうになってるんだよ。

 誇張とかなしの現在進行形で日を追うごとに事務所の中がモノだらけになってんの。

 もうやめてほしいの。ぶっちゃけ。


「グレンさん、これ以上はいらないと言われても、まだおれなんにもしてない――」

「ああそうかい。気持ちは分かったよ。とりあえず着いてこい、みんなにも話をしてやろう」




 宿屋二階・ベルク達の部屋


「―――と言う訳で、今日からお前らは自由!」

「「「えっ!?」」」

「返済が終わったから明日からはこの宿を出て行ってもらおうか。債務者しかこの部屋には泊まれねえ決まりだ。あとは好きにしろ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」

「確か借りたのは金貨二枚ですよね。計算が正しければまだ銀貨三十枚くらい残ってるはず―――」

「もうとっくに返し終わってる。毎日散々持ち込んだあれのせいで完済どころか過払い金出ちゃってる」

「「「えええ?」」」

「はいコレ、はいコレ、はいコレ」


 三人にそれぞれ金貨一枚銀貨十六枚入りの袋を渡していく。

 中身を確認すると三人は一様に叫び声を上げた。


「「「ひええええ!!?」」」

「ななななんだこれぇ!」

「グレンさんこんなのもらえませんよ、貰い過ぎです」

「貰い過ぎなのは俺の方だ。これでも少ない方。これ以上増えたらマジ無理。お願いだからもうこれ以上はやめてくれ頼む。俺の仕事スペースがなくなっちゃうから」


 毎日毎日毎日毎日まーいにち!

 あんな大量に希少な素材持って来られたら困るのはこっち!


 本業は商人じゃねえってのにあんなに在庫溜めさせられたらまともに仕事出来ねえ。

 暴落しないように少~しずつ流さないといけないから、出ていく量と入ってくる量が全ッ然違うッ!

 おいそれと流せない厄介な品が溜まっていくばかり!

 よそに置いておけねえから事務所に置くしかねえだろうが!


「お前らに貸した金は全部戻ってきた。過払い金は返す。買った装備もそのままやる。今日拾った素材は全部好きにして良い。だから明日には立ち退いてくれ。もう一度言うがこれでお前らは自由だ。じゃあな」


 俺はそれだけを告げて背中越しに手を振りながら部屋を後にした。





「……どうした? 随分騒がしかったが」

「あっゲオルクさん」


 騒ぎを聞きつけて、グレンが去った後の四人部屋に隣室のゲオルクが様子を見に来た。


「またグレンさんに取り立てでもされたか」

「いや、そうじゃなくて」

「え。じゃあ何だ」

「その…」

「おれたち、明日には出て行けって」

「ハァァ? 何したんだお前ら」


 グレンさんの逆鱗に触れちまうような事しやがったのか。とゲオルクは背中が冷える思いだったが、それは杞憂。


「何か借金全部返し終わっちゃったみたいで」

「はああああ!?」


 え? ……え?

 シャッキンカエシオワッタ?


「ここに来てまだ、は、半月しか経ってねェ…」

「グレンさんの言う通り、採集依頼でコツコツがむしゃらに頑張ってただけなのに、明日から自由って突然言われて」

「あと、過払い金って言われてお金ももらいました」

「何があったんだ…」

「ひょっとして、グレンさんサービスしてくれたのかな? 私たち、若いから」


 マリーが両頬に手を当ててくねくねしながら照れる。

 ベルクがジト目で一瞥するが、金を借りる原因を作った張本人なのを自覚しているため、思った言葉は口にはしないでおいた。


「グレンさんに限ってそんなことはしねえだろう。金に限っては誰よりも真面目だからなァ」

「その真面目を裏切ってまで俺たちを追い出したかったって事になりますか?」


 エリオットがそう言うと、四人は深く考え込んだ。

 グレンに対して失礼な行動を取ったか記憶を呼び起こそうとするも、そこまで決定的なものが思い当たらない。


 ただひたすらにこの半月程度、グレンの言う通りに採集依頼を連日こなし、何か変わった素材を見つけたらそれは全部グレンのもとに持ち込み、漏れがないよう一から十までグレンに指示を仰いだだけである。


 あとは多少の言葉遣いのミスはあるだろうが、それで三人を追い出すまでにグレンの神経を逆なでしたとは思えない。


 それくらいのことでグレンは腹を立てるわけがないから、知らず知らずのうちに、採集依頼で出払っているうちに何か思いもよらない大迷惑をグレンに与えていたんじゃないか…?

 と思い至る。


「これは、グレンさんに謝りに行った方が良いんじゃないかなあ」

「謝るって何を?」

「何を謝るか分からないのに謝りに行ったら、ヤブヘビにならない?」

「それは…」

「うん…そうだよなあ」


 ピタリと思い当たる節がないが、どこかで迷惑をかけてる自覚はあるので、謝らなきゃいけない気はしているけど。


「このお金でお詫びにならないかな」

「いや、マリー。それはやめておけ」

「? どうして」


 ゲオルクはマリーの提案に否を突き付ける。


「理由は何であれグレンさんが別れ際にお前らに渡した金だ。それを突き返すってのは“アンタの金なんか要るか”って意味のとんでもねェ非礼になっちまう」

「「「ハッ…!!」」」

「貰った金の出所がグレンさんなら、謝罪の為にその金を返すことも、その金で買った物を渡すことも結局火に油を注ぐことになっちまうぜ。『俺に貢がせるためにやったわけじゃねえ』って」


 とんでもないことを仕出かすところだった。

 ゲオルクに止められなければ、おれたち・私達はグレンさんを余計に怒らせるところだった。と三人は震え上がった。


 ゲオルクは人差し指を一本立てて、とある仮説を立てる。


「思ったんだが、グレンさんがお前らを自由にした理由って、ひょっとして良心の呵責なんじゃねェかな」

「「「良心の呵責?」」」

「お前らの恩恵ギフトは全部戦闘系だろう」

「はい」

「<剣士>と<弓士>と<重戦士>」

「そうだな。バランス取れてるよな。で、グレンさんがもしこう思ったとしたら?」

「…」


 ―――俺が借金で縛り付けて採集ばかりさせているが、三人の本分は冒険者であり、恩恵ギフトは戦闘系。

 となると、実力を伸ばして将来的に大成するためには採集よりも討伐に重きを置くべきであり、これからずっと手元に置いて飼い殺しするのは彼らの為にならないんじゃないか、と。


 せっかくバランスがいいパーティー構成なんだから採集より討伐をメインでこなさせて名を上げてもらった方が長期的目線で考えた方がグレンさんにとって得…。


「こう考えると、ベルクが戻ってきてすぐのこのタイミングで三人を自由にする理由としては納得できるんだよ。二人から三人体制になって引き続き採集依頼をこなしていけば、単純計算で返済スピードは五割増しだろ。でもそれをせずに支度金まで渡して今解放したってことは…」

「…やさしさ?」


 マリーは小首を傾げた。

 だがエリオットが挙手して先程言ったこととの矛盾を指摘する。


「でもそうしたらさっき、“グレンさんがお金に関しては真面目”って言ったことと反しますよ」

「え?」

「借金を返し終わったとしても、その相手に去り際お金を渡すことって有り得ることなんですかね。もしやさしさとか良心の呵責でやったとしたら、俺たちが借金を返し終わったって言ってたことの信頼性が下がります。借金を返し終わってなかったとしたらこのお金は過払い金の返金じゃなくなります。借金が残ってるのにさらにお金を持たせて解放するって、グレンさんにとって大損以外の何物でもないじゃないですか。お金に真面目なんだったら、気の迷いでそんな事出来ないと思います」

「ああ~…」

「確かに…」


 表面化した矛盾。

 それを否定できるだけのもっともな反論らしきものは浮かばず、四人はしばらく黙りこくる。


 グレンの行動の真意が読めず、それに対してどう対処すべきなのかが分からない。


 謝りに行くのかどうなのか。謝るとすれば何について、どうやって謝りに行くのか。


 手掛かりがないこの状況で暗中模索している四人だが、ゲオルクがこの五里霧中のどうしようもない状況を終わらせるべく一つの提案をする。


「この金が支度金なのか手切れ金なのかは分かんねえが、いつまでも三人をここに縛り付けておくわけにはいかないとグレンさんが思ったのは確かだ。そしたらもうやることは決まってるじゃねえか」

「何ですか…?」

「討伐依頼を受けるんだよ」


 ニヤッとゲオルクが笑みを浮かべた。

 しかしそれに反論するベルク。


「でも、おれたちはまだFランクで討伐依頼なんて――」

「そうだな。お前らは受けらんねェ。()()()()な」

「それってどういう――」

「俺が討伐依頼を受けるんだよ。これでもC級冒険者だからな」


 ベルク・マリー・エリオットの三人はハッと息を呑んだ。


「俺が受けた討伐依頼にお前らも一枚噛ませてやる。矢面に立つのは俺だが、支援攻撃くらいはいいだろう。あとは倒した魔物の素材の運搬がメインだな。そんな無茶はさせねえよ」

「ゲオルクさん…ありがとうございます」


 エリーがゲオルクに礼を告げると、目の色が変わったベルクはやや居住まいを正した。


「グレンさんに謝りに行くんじゃなく、感謝を伝えに行こう」

「感謝?」

「おれたちを助けてくれたグレンさんは謝ってほしいんじゃなくて、ありがとうって言ってほしいんだと思う。グレンさんが助けてくれたから、今こうして立派な冒険者としてやってけてますって」

「うん…」

「おれに採集依頼を受けさせずに自由にしたってことは、やっぱり討伐依頼をメインで受けて、力でのし上がれって言う、グレンさんなりのメッセージなんだと思う。おれはそう思った!」


 だからさ! と、ベルクは勢いよく立ち上がってショートソードを抜き放ち掲げた。


「おれたちの手で魔物をぶっ倒して、その証明をグレンさんにプレゼントすることが恩返しになると思うんだっ! そうだろ。マリー、エリオット!」


 問いかけられたマリーとエリオット。

 互いの顔を見るとどちらともなく頷き合い、ベルクに拳を向けた。


「そうね」

「それがいい」


 三人は笑顔でグータッチを交わした。




「ま、今回の討伐依頼は俺が片付けるからほとんどお前らの出る幕ねェけどな」

「なんっ、なんだとー! 見てろよ、絶対おれも大活躍してやるんだからなー!」

「そうかそうか、せいぜい足引っ張るなよ」

「何をぉー!」


 クククと笑うゲオルクに目にもの見せてやると意気込むベルクであった。




 四日後、グレンの事務所


 コンコンとドアがノックされる。

 キィとドアを開けてみると顧客の一人・ゲオルク。

 …と、元顧客。ベルク、マリー、エリオットが立っていた。


「ん? どうした、用入りか?」

「あーグレンさん、今日はそうじゃなくてね。ホラ」


 ゲオルクに肘で小突かれたベルクが箱を持って三歩進み出た。

 もじもじとして、目線も落ち着きがなく、まともにグレンの顔も見られなかったが、やがて。


「グ、グレンさん。この前はありがとうございました。今日は、お礼を持ってきました!」


 ぐっとリボン包装の箱を差し出した。

 予想だにしないことで少し驚きはしたが、グレンはベルクから横五十センチ・縦三十五センチ・高さ二十五センチほどのそこそこ大きい箱をすんなりと受け取った。


「おお、プレゼントかい」

「こいつ、グレンさんに立派になったところ見てもらいたいってんで」

「ちょっと…」

「へへへ」


 余計なこと言うなよと言いたげなベルクに思わず笑ってしまったゲオルク。

 グレンはもらった箱をどうしようかと思ったが、せっかくのプレゼント。

 このまま箱だけもらって追い返すような冷酷さは持ち合わせてはいなかった。


「開けていいか」

「あ………はい」


 ベルクの是にグレンは頷いた。

 シュル、シュル、とリボンがゆっくり解かれていく。

 グレンさんは喜んでくれるかな、と期待に胸を躍らせながら、箱を開けるのを今か今かと待つ。


 そして、全ての包装と封が解かれた箱が開かれる。

 中身を認めたグレンの動きがぴたりと止まった。


「…これは?」

「ゲオルクさんに手伝ってもらって、頑張って獲ったんです!」

「…」

殺人女王蜂クイーン・キラーホーネット王乳ローヤルゼリーです!」


 にっこりと自信たっぷりにベルクは言い切った。



 ラッカラから片道一日半の道のりの先にあるという、殺人蜂キラーホーネットの巣。


 殺人蜂キラーホーネットの蜂蜜はとても滋味豊かで人気があるが、こと女王蜂は酒に漬け込めば一層滋養強壮の効果があり、その巣に隠されている王乳ローヤルゼリーは王侯貴族がこぞって欲しがる妙薬として名高い。


 女王蜂一匹を捕らえる事は働き蜂を数百集めることよりもはるかに難易度が高く、王乳ローヤルゼリーの獲得は運の要素に完全に左右されるがゆえ、もしそれを手にすることが出来たなら今のベルクたちにとってはこの上ない討伐証明になり得る。


 熟練冒険者たるゲオルクの助力も大いにあり、借りた防護服の効き目におんぶにだっこだったが、それでもFランクの彼らはどちらか一つでも手に出来れば万々歳と言われるそれを両方とも手にした。

 過ぎたるほどのリターンを得て、どこも怪我することなく生きて帰ってきたのである。


 金持ちが喉から手が出るほど欲しがる二点一組を豪勢に一箱に詰め込んだ。

 グレンからもらった金ではとても足りないほどの貴重品だ。

 とても価値の高い代物であるが、プレゼントに最も掛けるものは真心である。


 見ず知らずの自分たちを信じてくれた、母を助けてくれた、恩人であるグレンに。


 ベルクは恩返しのつもりで心ばかりのプレゼントを贈った。


 しかし。




「なんでそうなるんだよぉぉぉぁぁぁぁ!!!!」


「「「「えーーーーー!!!」」」」


 殺人女王蜂クイーン・キラーホーネット王乳ローヤルゼリーの瓶をカタカタと震わせながら、グレンは悲痛な雄たけびを上げたのであった。





 ◇




「ゲオルクさん、なんでグレンさんは喜んでくれなかったんだろう」

「うーん…」

「蜂が嫌いだったとかかな」

「いや、そうじゃなくて多分…」

「多分?」

「お前、俺に手伝ってもらったって言っただろ。それに怒ったんじゃねェか?」

「あ………そういうことか…」

「推測だけどな。グレンさんはお前らだけの力でやれって考えてたんだろうな」

「そうか…だから“なんでそうなるんだ”だったんだね」

「大人の力を借りてズルせず、三人だけで仕留めろって。言わば親心みてェなもんだ」

「うっ…やっぱりグレンさんはやさしいなあ…グスッ」

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