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「ハァハァッ……」
どうしよう? 完全に迷った。 同じ様な風景ばかりで、こっちかなと思ってあっちこっち歩いてたら……
普段は大きい屋敷でろくに動いてもいなかったから大分体力落ちてるし。 それにハル君も来てくれない、やっぱり私もう用無しなのかな? なんてネガティブな考えが浮かぶ。
ハル君は意図的に私をメイちゃんにあてがえた、それに私は意を唱えたから?
だったら本当酷いよハル君……
私は前とは違ってなんにも特別な力も持ってないし動物とだって喋ることも出来ない、ただの非力な一般人だ。 確かにこんな私はメイちゃんを引き留めておくなんてくらいしか役に立たない、でもだからって。
その時ガサガサと茂みから何か聴こえたので私はビックリして尻餅をついた。
「ってなんだ、ウサギかぁ〜」
茂みから現れたのは野ウサギで尻餅をついた私をジッと見ていた。
寂しかったのでそっと近寄ろうとしたがそうするとすぐに踵を返して逃げていってしまう。
ああ、こんな時動物とお喋りできたらなぁ……
「キリコォ〜〜〜ッ!!」
キリコの名前を呼んでみるけどなんの反応もない。 虚しく響く声に空に居たタカのような声が私に応えた。
はぁ、それはそうだ。 前にもう私とは関わらないってことになったから。
「キリコを呼んだ?」
「そう、でもあれから全然出て来ないの…… って、うわぁッ!!!」
急に誰かに話し掛けられてビックリしてしまった。
そこに居たのはキリコと同じくらいの男の子だけどちょっと違う…… キリコよりも髪の毛が長くて少し意地悪そうな顔をした子。
というよりどこから出て来たの? こんな山の中で…… それよりキリコを知ってる? キリコの呼び掛けに答えたからこの子はキリコ??
「あ、あの…… キリコ? 暫く見ないうちに雰囲気変わった??」
「キリコじゃねぇしッ!!」
「ひやぁッ!」
耳元で叫ばれてキーーンッとなる。
キリコじゃない? え?! 意味がわからない。
「あんなドジと一緒にすんなし」
「え? え?!」
「つってもお姉さんもバカそうだからわかんないか」
「バ、バカ!? バカって私?」
初対面でこの言い様…… 確かに頭良くないかもしれないけど。
「バカ面して驚いてるじゃん」
「わ、悪かったわね、そもそもキリコじゃないならあなたは誰?」
「はぁ〜、これだからバカは困るんだよなぁ。 キリコを知ってるんだからキリコと御同業ってことくらい察しがつかないかな?」
御同業!? てことは……
「魂なんとか委員会ってとこの」
「そこまで出てるなら魂管理委員会とちゃんと言って欲しいなぁ」
「も、もしかしてあなたがここに居るってことは私いつの間にか死んだ?!」
どこかから落ちた? 私の死体は!?
「いや死んでないよ、君がキリコのことを思い浮かべて呼んだからたまたま近くに居た僕が来てみたのさ。 なんせそんな人キリコに会ったことある人か同業の奴しか居ないもの」
「ははぁ〜、なるほど」
そういうことね、なんにせよこんなとこでひとりで居るのは寂しかったしちょうど良かったかも。
「ところであなたお名前は?」
「僕? 僕はジーナ、君は?」
「私は梢、よろしくねジーナ」
「知ってるしよろしくと言いたいけど僕はもう僕と会ったっていう君の記憶を消して退散するつもりなんだけど?」
「え?! ええ〜ッ!! もう行っちゃうの?」
触ろうとしたらスカッとジーナの身体がすり抜けた。
「僕は生憎キリコと違ってバカをするつもりはないからね」
「ねぇ! キリコは? キリコは今どうしてるの??」
「キリコなら君が元居た最初の次元の世界で今もまだ居るよ、僕はこの世界の担当。 たまに会う程度だけど君に肩入れし過ぎて大分絞られてたのは笑えたなぁ」
「そうなんだ、キリコには悪いことしたなぁ、でもキリコは元気でやってるんだね?」
「まぁそうだけど。 元々はキリコの手違いで君は死んだんだし別に悪く思うことはないけどバカみたいにお人好しだなぁ」
「ううん、でももう一度会いたいなキリコに」
「僕からしてみれば別に会いたくもないけどそれにしても君も変わった事に巻き込まれる子だねぇ、こんな次元に飛ばされてくるなんてさ」
「不思議に思ってたんだけどこの世界ってどうなってるの?」
次元とかよくわからないこと言ってるし。
「この世界は俗に言うパラレルワールドみたいなもんかな、そう言うのが簡単。 時間軸がズレてるけどね、そこは別の干渉があったみたいだ」
「そうなんだ、というか私に教えてもいいの?」
「だってそろそろ君の記憶消すし」
「それはちょっと寂しいなぁ、せっかく会ったのに」
それに記憶を消されたらまた不安になるんですけど。 ジーナと話しているとキリコと話してるみたいで懐かしい感じがするし。
「はぁー、仕方ないなぁ。 じゃあもうしばらく一緒に居てあげるよ」
「ほんと!? ジーナって最初は人をバカ呼ばわりしてたけど優しいんだね! キリコと同じ」
嬉しくてジーナに抱きつこうとしたら身体がすり抜けるのを忘れてて地面に顔からぶつかってしまった。
「うわッ! あんなのと一緒にすんな!! まぁこんなとこで迷子になってる君は相変わらずバカだけどね」
「あいたたた…… だって迷っちゃったのは仕方ないじゃん、しかももう日が暮れてきたし」
「そういえばさっき熊がノシノシ歩いてたなぁ」
「え!?」
「まぁ遠くの方だし」
「だ、だって熊って鼻がいいんでしょ?!」
「でも僕には関係ないし。 あ、だったら君にこれあげるよ」
ジーナから渡されたのは熊よけスプレー、しかも市販の…… しかも私からはジーナに触れないのにジーナからは自由自在だ。
「そっちの世界にもこういうの売ってるの?」
「そんなわけないだろう? これは僕の能力でそこらの店からこっちに転送してきただけさ」
「そんなことが出来るの? でもその転送先のお店は在庫が合わなくて困るんじゃ??」
「そんなの言ってる場合なの君?」
「まぁそうだけど…… あ! ジーナの力で私達をこれの前に居た世界に戻してくれるなんてのは!?」
ダメ元で聞いてみた。
「そんなの無理に決まってるだろ? そこまで関与したらキリコの二の舞だし」
「やっぱりダメかぁ、スザクって人に頼むしかないのかな?」
「ああ、人間の分際で超希少な能力持ってるあの女か」
「希少? どんな能力なの?」
「どうせ記憶を消すんだし教えてあげるよ。 あの女の能力は君達で言うグラビティ、重力だ」
「重力?? それが希少なの?」
「はぁー、これだからバカは。 いいかい? 重力こそがこの世の万物たる真理、神と呼ばれる者に等しい力がを持ってるのさ。 重力を操る者は世界を創れるほどに。 とは言っても所詮は人間が操る重力はたかが知れているけどそれでもすごい事なんだ」
「じゃあスザクって人は凄い人なんだね」
「まぁ特殊な能力を持ってる中ではダントツかな」
「そうなんだ。 とにかく凄いんだね!」
「そういうこと。 おや、じゃあそろそろ僕は行くけど」
「へ?」
嘘!? もう行っちゃうの??
「じゃあ記憶を消してもらうよ」
「ま、待って!」
「ダメだ、消すのは決定事項だよ」
「わかってる、それはわかってるから」
私がそう言うとジーナは少し首を傾げて怪訝な顔をする。
「あの、私とお話ししてくれてありがとう! ジーナが来てくれる前までは凄く不安で泣きそうだったけど元気出た!」
「記憶消したらまた不安になるだろうけどね」
「うん、でもありがとう…… それとこの熊よけスプレーも」
「…… はぁー、まったく君は。 言うことはそれだけかい?」
「うん、もういいよ」
そしてジーナが私の額に人差し指を当てた、すり抜けはしないし確かにジーナの指が触れた感覚があったと思うと私の意識はそこで途切れる。