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「ハル君、やっぱり大きなお屋敷に居るより私こうしてみんなで居る方が楽しいな」
「そうは言ってもなぁ、梢には安全な場所と不自由させないようにと思って手配したんだが」
「どこかのスパイに潜り込まれてたんじゃ安全とは程遠いわね」
「そうだな。 そこは考えておくとしてカズハでもそっちにやろうか?」
「ええーーッ!?」
ハル君が言うとカズハちゃんはソファから跳び上がった。
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん! あたし団長だよ!?」
そういえばカズハちゃんは東京連合や、他の暴走族とか危なっかしい荒くれ者から構成された武闘派集団を率いる団長に任命されたんだっけ。
姉御姉御と言われて当時のカズハちゃんは凄く鼻高々になってたなぁ。
「なら代わりの人事を充てがうから」
「あたしクビ? クビなの?!」
「冗談だって。 まぁカズハもカズハで忙しい…… のかお前?」
「もうてんてこまい!」
「おかしいわねぇ、カズハちゃん毎日ゴロゴロしながらお菓子食べてるって報告が来てるわよ?」
「だ、誰!? そんなことをチクってる不埒者は!!」
「え? まさか図星なの??」
「カズハ…… お前」
「ふ、2人してあたしを嵌めたぁーッ! シエルちゃーん!!」
「あ、あはは、でもそっちの方が平和そうで何よりだよ」
カズハちゃんのフォローだったんだけど私の本音だ。 殺伐とした生活よりもそっちの方が断然いいし誰も危険な目に遭わないなら。
「私もカズハ様が来られるのはちょっと……」
「ああーーッ! 心の友だと思っていたメイたんがまさかそんなことを言うなんて」
カズハちゃんはメイちゃんの鼻と頬っぺたを摘んで変顔をさせる。
「やめへくらふぁい」
カズハちゃんには流石のメイちゃんもたじたじだ。 多分苦手なキャラなのかなぁ? カズハちゃんはとっても良い子なんだけど。
「あははッ、メイは可愛いわね」
「あたしもだし!」
「はいはい、どっちでもいいから川魚でも誰か釣って来てね」
「え? ルノさんもしかしてそれをご飯にするとか?」
「せっかくこんな雰囲気なんだしそれっぽいことしたいかなぁって思ってね」
「まぁ山と言えば俺からしてみれば昔のバト……」
「それは思い出さなくていいから。 梢ちゃんとでも行って来なさいよ」
「あ、うん! 私ハル君と釣りしたい!」
「まったく」と言ってハル君は腰を上げる。 そしてロッジから出て物置の方へ私と一緒に向かった。
「こんなとこに釣竿が?」
「そうだ」
開けてみるとそこには釣り竿どころか大量の銃器が置かれていた。
「モ、モデルガン?」
「んなわけないだろ、一応自衛が出来るようにな。 熊も居るだろうし」
「熊にここまでゴツい銃は流石にちょっと……」
そんな銃器の中から隅っこに置かれていた釣り竿を取り出した。
「ほらあった」
「あ、うん」
それからハル君の案内で小川の方へ向かった。
「うわぁ〜、綺麗な川! もう山は見飽きたよって思ってたけどやっぱりいいねぇ」
「今まで退屈だったか?」
「うーん、ちょっと。 贅沢させてもらって言うことじゃないけど。 でも退屈より何よりハル君達が居なくて寂しかった」
「ごめんな」
「え?」
気付けばハル君が私の頭を撫でてくれてた。
「ル、ルノさんは?」
「あいつだってわかってるよ…… 多分」
濁したように多分と言うハル君。 なんか不安なんですけど。
「釣れないね」
「釣れないな」
もう釣りを始めてから2時間くらい経っていた、そして私はハル君に寄り添っていた。
「もしかしてこのまま釣れなかったら怒られるんじゃ?」
「かもな。 仕方ない」
ハル君は立ち上がって石を拾った。
「え? ハル君??」
「ちょっと離れてろ」
ハル君は持っていた石を川に投げるととんでもないほどの水飛沫が上がりそこには気絶したであろう川魚が降ってきたり浮かんでたり…… それは反則。
「釣りはこうした方が早いな」
「最早釣りじゃないよこれ」
「まぁこれで怒られずに済むだろ」
気絶している川魚を拾いボックスに詰めていると……
「メイはどうだ?」
「メイちゃん? とっても良い子だよ!」
「そうか、仲良くなったんだな」
「なれたのかな? 私は仲良くしたいけど…… ハル君達はどこでメイちゃんと知り合ったの?」
メイちゃんはハル君達と同じで特殊な力を持った人だ、普通じゃああいう人とはなかなか出会えない気がするけど。
「あいつは俺達の先輩に当たる人物でな」
「え? 先輩??」
「いや元居た世界ではな、ここでは俺らの方が年上だが。 俺とルノが組織に居た頃メイの話を聞いたことがあった。 メイも俺達と同じように組織に飼われていた、その中でもあいつは組織の最高傑作と言われた存在だった、そして第二、第三のメイを造り出す為に俺やルノも訓練されていたんだ。 メイが闘ったのを見たんだろ?」
「うん」
「メイは人体のリミッターをいとも簡単に外してそれでいて副作用もなく使用出来る稀有な存在だ、それは俺やルノとは比べ物にならないほどの利便性だ。 組織はサンプルとしてメイのその力の根源たる体組織の一部を摂取して研究し一定の成功を収めた、才能があったルノはその研究成果として開発されたアンプルを打たれていた。 いや、ルノだけではなく俺や他の奴らも。 だが生半可な奴等ではその効果は実感出来る奴はいない、本当に稀みたいなんだ。 俺とルノはその稀なケースだったみたいでな」
だからメイちゃんを見てハル君やルノさんみたいだなと思ったんだ。 でもそんなメイちゃんがなんで私達と?
「組織の…… ウィルミナーティの将来の最高戦力と言われるメイは当時その才覚はまだ日の目を出ていない、俺とルノはそこを狙ったんだ。 時代が逆行してしまったならそれを逆手に取り俺とルノであんな組織から解放してメイを手懐けることが出来ると。 その目論見は見事成功して感謝までされている、組織を襲撃したのは危険なリスクだったがメイもまだ使い物とは程遠かったしな」
「ハル君…… 酷いよそれ」
結局はそこからは助け出したと言っても体よく利用されてることは変わらない、ハル君達もその組織と大して変わらないことをさせている。
「ああ、そうだな。 けどメイの力は本物だ、もしヤタガラスとのビャッコとの戦いで俺やルノよりも強いメイの力は将来絶対必要になる」
「ハル君! そんな戦いなんてもうやめようよ? 今引き返せば手出しなんて早々してこないんでしょう? だったら」
「いや、だったら飯塚の件はどうだ? まだどこかは判明してはいないが刺客がやってきた」
「そ、それは……」
「それもわかってる、俺達が巻いた種だったのも。 でもな、そうして巻いた種だからと仕方がないからと言って静観していればやがて全てを失う、そんなことは俺には出来ない。 それに不安要素もまだいくつかある、ヤタガラスのスザクだ」
スザク…… スザクって確か軽い感じの女の人。
「あの人が何か?」
「多分あいつの能力が俺達をこの時代に連れて来た」
「ええッ!? だってスザクって人は人間だよね?」
「そうだとは思うが四神は人間離れしている俺みたいな奴よりも遥かに人間離れしている、ウォルターもそこに興味を示していた部分もある」
キリコじゃあるまいしそんなことが人間に出来るのだろうかと考えるけど確かにビャッコ、セイリュウという人達との闘いを私も見ていたし…… 世の中不思議な力を持ってる人は居るんだなぁ。
「なんでそういうのを良い事に使えないんだろう?」
「ん?」
「だってそうじゃん、そんな力があるんだったら良い事に使った方が気持ちいいし」
「世の中良い事をするより悪い事をする方が簡単でリターンもデカいんだ、人間なんて所詮そんなもんだ」
「でも……」
「まぁここでそんなこと言ってても仕方ない。 梢、お前はもっとメイと仲良くなれ」
「え?」
「メイは俺達に感謝はしているがまだ不安定だ、何か弱みを握られたり心変わりだってするかもしれない」
それってもしかして私にメイちゃんを繋ぎ止めてろと? メイちゃんの力が欲しいから。
「なんで私が?」
「お前みたいに底抜けに優しい奴と居てメイは少し戸惑っている、そうなると見越してメイとお前を一緒に居させた、お前がメイの弱みになるんだ。 そうなれば」
「ハル君ッ!!」
「うん?」
「どうしたのハル君? まるでハル君が悪い人みたいだよ…… ハル君はそんな人じゃなかったのに」
「いいや、これが俺だよ。 お前と会った時から俺は俺だ」
「違うよッ! ハル君は表面上は冷たく見えるけど本当は優しい人! なのに…… こんなことばかりしてるからだよ、私はそんなことのためにメイちゃんと仲良くなるなんてイヤッ!!」
「梢ッ!!」
私はハル君を置いてその場から走り去った、ハル君がその気になれば一瞬で私に追い付けるのに追って来ない。
ああ、愛想尽かされたかな? でも私にはメイちゃんをそんな風に利用なんてしたくないしされたくない。