3
「お目覚めですか梢様」
「あ……」
目が覚めるとメイちゃんが居た。 そうだった、ここはメイちゃんの部屋……
時計を見ると午後の15時過ぎ。 結局あの後ろくに寝れずに朝にメイちゃんが戻って来て顔を見たら安心してしまって寝てしまったんだ。
「って! みんなは!? それと飯塚さん!」
「私が処理しておきました、ですが屋敷の掃除などはまだなので大変お見苦しいですが」
「処理って…… メイちゃんひとりで?」
「はい」
ここには結構な人数が働いてたはずだけど。 ううん、それよりも……
「あの…… 亡くなった方の方は」
「それには御心配及びません、ここで働いていた者は全て訳ありかいかなる覚悟も出来ていた者達ですので私含め突然消えたりしても問題がない人材ばかりなので」
「も、問題がない!? そんなわけないでしょ!!」
私が大きな声を出すとメイちゃんは少し身を引いた。
「大丈夫です、ルノ様が上手く手配してくれているはずです」
「そういうことじゃないよ! 突然消えるとか人をそんな風に扱わないでってことだよ」
「…… これは失礼しました、今回の失態は私の責任です。 許して下さいとは仰りませんが私の仕事は梢様の命の保証なのでなんとしてでも梢様を」
「メイちゃんのせいだなんて言ってないよ! そうじゃなくて私は…… 誰かを殺してとかそういうのが嫌で」
「そうですか。 それは申し訳ありません」
メイちゃんは頭を下げた。
それにメイちゃんがあんなに強かったなんて。 まるでハル君やルノさんを見ているみたいだった。
私はメイちゃんの部屋から出ようとするとメイちゃんが私の前に立ちドアに手を掛けようとするのを制止した。
「先程も言ったように大変お見苦しいので」
「大丈夫だから」
昨日メイちゃんの部屋に連れて来られた時は毛布を包まされて部屋の外の様子がよくわからなかった。
「ですが……」
「お願い」
私がそう言うとメイちゃんは仕方なくといった感じに手をどけた。
部屋から出てメイちゃんと一緒に屋敷の中を見て回ると壁や天井、床などに血と何か人の内容物のようなものが散乱していた。
「うッ……」
「梢様」
「ご、ごめん、でも大丈夫」
ヨロッとメイちゃんの肩に身体が傾く。
「生憎人員補充はもう少し先になります、後は私が片付けておきますので梢様は部屋にお戻りになって休んでいて下さい」
「メイちゃんがひとりで?」
「はい」
「それは大変だよ、ここのお屋敷無駄に広いんだし! やるなら私も手伝うよ」
そう言うと怪訝な顔をされた。
あ、うん、この現状を見て顔色が悪くなる私が役立たずって言いたいのはわかるけどいくらなんでもメイちゃんだけに任せるのは大変だろうって思ったからで。
「梢様にそのようなことをさせるわけにはいきません、私の仕事ですので」
「でも昨日の飯塚さんの目的が何かよくわからないけど私も関係してるなら私にも責任があるんだしそれを私なりになんとか対処したい、だから私もやる!!」
少し前のめりになってメイちゃんにそう言うと困ったように溜め息を吐かれる。
「…… まぁ私は梢様からの言うことはよく聞くようにと仰りつかってますのでどうしてもと言うのであれば私は止めれませんが」
「うん! じゃあお手伝いするね」
メイちゃんは掃除用具を持ってきて私のことを気にしながら掃除を始めた、それに続き私も壁や床の汚れを落としていく。
「ああ、染み付いちゃって時間が経ったカーペットはやっぱりちゃんと洗っておかないと取れないね。 ん……そもそも使い回していいのかな?」
よく考えれば大量殺人が起きたこの屋敷…… いろいろあって少し感覚がおかしくなってるけどヤバいよね。
「カーペットなどは新しい物に交換いたしますので大丈夫です、それにしても……」
「うん?」
「先程までは青い顔をされてましたのに」
「え?」
あ…… かなり掃除するところがあって大変でそれどころじゃなくなってたんだ私。 でも……
「あのね、私ここに来てから何不自由なく生活してたんだけどずっと疎外感ばっかり感じてて。 ハル君達が私が困らないようにって用意したし贅沢なことだってわかってるんだけどなんだか…… だから何か少しでも」
「…… 私には梢様に何かしてもらうなどは到底」
「メイちゃんッ!」
「は、はい?」
メイちゃんが言う前に私が遮ると少し驚かれた。
「メイちゃん、私はメイちゃんのことお仕事の人ってよりも…… 友達だと思ってる。 だからメイちゃんに何かあったりしたらイヤ」
「友達…… ですか。 私には権限がありません、ハル様やルノ様にも友達になれとは言われておりませんし」
「友達になるのに誰かの許可が必要?」
「私には出過ぎた真似など出来ないので」
出過ぎた真似って。 もしかしてメイちゃんは私と友達になるのがイヤなんじゃ? ということも頭を過ぎるけど私はメイちゃんともっと仲良くしたい。
「だったらハル君とルノさんから私の言うことはよく聞くようにって言われてるんでしょ?」
「そうですが」
「なら私とメイちゃんは友達ってことでいいんじゃない? 私が言ってることだし」
「そこまで言うなら。 かしこまりました」
「あ〜…… なんかちょっと違う気もするけどまぁいっか」
そしてメイちゃんの近くで掃除をしている私をメイちゃんは不思議そうに見ながら掃除していた。
「ふあ〜ッ、全然終わらないね! ほんと無駄に広いんだからここ」
まだ全体の3分の1すら終わってない。 だから住み込みで働く人がいっぱい居たんだろう。
「梢様はもうお休みになって下さい」
「でもそれだとメイちゃんが」
「私のことは気にしなくていいので。 梢様のお身体の方が何より大事なので」
「それを言うなら私だってメイちゃんの身体を大事にしたいよ」
「ッ! …… 私は慣れておりますので」
どうしよう、メイちゃんを困らせるつもりはなかったのに困らせてる。
「でも私は……」
「わかりました、私も今日は休むとします。 梢様はもうご入浴してきて下さい」
「え? うん、わかった!」
「それと…… 今更なので大変恐縮ですが梢様はご空腹ではないでしょうか?」
「へ?」
そういえば今日は何も食べてない。 けどこの状況を見ていて食欲なんて湧いてこなかった。
「私は…… 今日はいいや」
「わかりました、何も気を回せず申し訳ありません」
「あッ、ううん! だってこれじゃ仕方ないよ、それにメイちゃんは凄く頑張ってるし」
ん? でも私が要らないからってメイちゃんまで要らないとは限らないよね?
「メイちゃんこそお腹空いてない?」
「私もそれほど……」
と私に背を向けて言った途端メイちゃんからお腹の鳴る音が聴こえた。 後ろ姿だけど鳴った途端慌てて取り繕っているのがわかった。
「す、すみません、これはなんでもないですので」
「いやいや、なんでもなくないよ。 あ! そうだ、それじゃあ私がメイちゃんに何か作るよ」
「それはダメです、主人にそんなことをさせるわけには」
「主人の前に友達だよ私達、友達ならこれくらい当たり前だって」
「友達の前に主人です」
「私の言うこと聞くんじゃなかったの?」
「…… はぁ、わかりました。 ではお言葉に甘えさせて頂きます」
こういう風に言いたくないけどそう言わないとメイちゃん納得しないんだもん。