最終話
「咲姫さん気になってたんですけどその右手……」
「ああ、義手よ」
「義手ッ?!」
「そうよ」
咲姫さんは黒い革製の手袋を取ると右手の指があった。
「あ、あれ? 義手ですよね??」
「まぁそれっぽくしてるからあまり目立たないけど」
よく見れば戦いで指を食いちぎられた切断面があるけどちゃんとした指に見える。
「最新技術の義手よ、神経ともちゃんと繋がっているし。 ミロクがウィルミナーティの技術者からね、ただまだ試作の段階らしいから少しぎこちなくて伝達も少し遅れ気味だけど左手は自前のがあるし何も問題はないわ」
「問題ないだと? 剣士でありながら剣戟において繊細な技術を要する指を食いちぎられるとはなんたる不覚よ、いくら最新の技術を使い形だけ戻したとはいえ技の精度が著しく落ちることは変わりない! この前の鍛錬でも何度も右手から刀を落としていただろう?!」
咲姫さんのパパが咲姫さんに対して圧を込めて言う。 それに焦った咲姫さんは右手で持っていたお茶を溢してしまう。
「ああッ、水は厳禁なのに」
水が掛かると動作不良を起こすのかわからないが咲姫さんの右手の指がおかしな動きをしてしまう。
「なんかお風呂とか大変そうですねそれ」
「それ見たことかッ! 常に集中してないからそういうことになる」
咲姫さんのパパ怖い……
「はッ! 父様、私はまだまだ未熟者ゆえ…… ですがこの右手でもかつてのように剣を振るえるよう日々精進致しますので」
「ほらほらあなた、大きくなった愛娘が居るからってはしゃがないで下さい」
キリオさんがまだ赤ちゃんの咲姫さんをあやしながら言う。
「ミロクから話は聞いたけどなんとも不思議な光景だわ、父様と母様が居てこんなに幼い私が存在してるなんて」
「ですよねぇ、しかもいきなり時代も飛んじゃってるのにみんなそれに適応してるんですもんね」
「ほら咲姫、梢さんですよ〜」
キリオさんが赤ちゃんの咲姫さんを私に抱かせてくれた。
「可愛い」
「複雑な気分だわ……」
咲姫さんを抱く私を大人の咲姫さんが見てなんとも微妙な表情をする。
「私の時代ではもう亡くなってしまったお2人に会えたのはとても嬉しいのですが」
「そんな顔しないの咲姫、例え2人居たってあなたも咲姫、私達の娘になんの変わりもないわ。 ねぇあなた」
「う、うむ。 こんなに早く成長した娘と酒が飲めるなど思ってもみなかったからな」
「父様、母様……」
こっちもじんわりしてきちゃっていたら抱いていた咲姫ちゃんが泣き出した。
「わッ、わわッ! 咲姫ちゃんが」
「ちゃん付けとかやめなさいよ」
「だ、だって! あ、ほら咲姫さんですよぉ〜」
「ちょ、ちょっと!」
咲姫さんに咲姫ちゃんを預けると咲姫さんは慌てる。 自分で自分をあやす咲姫さんを見ていておかしくなってしまって笑ってしまった。
「ふふふッ」
「笑ったわね?!」
「い、いえ、凄くいいなぁって思って」
咲姫さんの家から出るとハル君とクザンさんが待っていた。
「あれ? クザンさん居ましたっけ??」
「ああ、ちょっとハルに用があってな」
ハル?? いつもはハル君を揶揄うみたいにハル坊って呼んでたのに。 もしかしてハル君とクザンさんも……
「どうした梢?」
「ううん、なんでもない!」
そっか、そうだよね。 ハル君もパパとやっと。 私もいつか近いうちまた行ってみようかな…… 前の世界じゃ悲しかったから今度はきっと!
◇◇◇
「お、お師匠様ッ?!」
「私は弟子を取ったつもりはありませんが?」
「クロウ、どうしてお前が??」
クロウとはかつては俺の同業者でヤタガラスの一員、そしてカズハの師匠だ。 前の世界では不安定だった頃のカズハは自分でクロウを殺し本人もそのことはずっと心の中で傷となっていたに違いない。
「ミロク様の命を受け私はこちらに行けと言われておりました、それにしてもあなたも私のことを知っているように言いますが初対面ですよね?」
「あ、ああ、そうだなクロウ。 それでここに来てどうするんだお前は?」
「それが何も仰られておりません、私が察するに体よくクビなのかと…… 何かをしくじったわけでもなしに思い当たる節がありません」
「よぉクロウ! お前も俺と同じか?!」
「クザン…… こちらに来てたのは知ってはいましたがあなたは何をしでかしたのです?」
「はははッ、何もしちゃあいねぇよ。 ミロク様の粋なはからいってやつだ、おめぇもここに縁があるんだろ」
「縁などありませんが」
「これから作ればいい。 クロウ、ここに居るカズハのサポートをしてやってくれないか? 勿論報酬もミロクに雇われていた時より高く出す、それで頼めるか?」
そう言うとクロウはカズハを見て溜め息を吐く。
「この子のサポート…… ねぇ」
「お師匠様ッ! あれ? 立場が変わったからもうあたしがお師匠様??」
「これで大丈夫なのでしょうか?」
「いや、俺にもわからん……」
まさかクロウが俺たちのところに来るとは…… 当然ミロクはスザクから俺達のことを聞いていたろうがここまであの連中と関わってしまって大丈夫か?
「敵対するつもりはないって意思表示かしら?」
「どうだろうな」
まぁ何か目論んでいても俺達には関係ないさ。
「それに俺達の敵になるんだったら容赦なく潰す、ただそれだけだろ?」
「そうね」
「その節には私も手伝わせていただきますので」
「メイ、頼りにしてるわよ」
「はい、私もオーバードライブとやらを早く使えるようになってお2人のお役に立ちたいです」
「お前はそのままでも充分強いけどな」
「いえ、先の戦いでは私の力不足で梢様を泣かせてしまいました、オーバードライブというのも鍛錬しているのですがなかなか習得出来ず…… ハル様とルノ様はやはり凄いです」
俺達でも相当な年数が掛かったからな、オーバードライブを使えるようになるまで。 けれどメイならそう時間は掛からないだろう。
「ねぇ、ハルそろそろ聞かせてくれてもいいんじゃない? 私と梢ちゃんをどうするか」
「どうするかって……」
「それ私も気になってたハル君」
「うわ、聞いてたのか梢」
何まだ狼狽えてんだか俺は。
「ああ、どこか俺達の国を作ろう。 そして俺はお前と梢と一緒になりたい」
「「うん!」」
◇◇◇
「やぁ梢」
「えッ!! キリコ!」
ある日の夜寝ようとしていたら突然私の目の前にキリコが現れた。
「久し振りだね梢、いやぁ〜、僕としては梢には平穏に暮らして欲しかったけどこれもある意味で君にとっては良かったのかな」
「キリコォ〜〜ッ!!」
「うわッ」
キリコに抱きつこうとしたらスカッと通り抜ける。
「い、いひゃい、鼻ぶつけた」
「いきなりビックリするなぁ」
「だってだって! キリコの顔見たら凄く懐かしくていろいろ思い出して…… なんだか泣けてきた」
「ああ、君には辛いこといっぱいあったもんねぇ」
「そうじゃなくて嬉しいからだよ、キリコにまた会えて」
そう言うとキリコはキョトンとする。
「はははッ、相変わらずだね君は」
「あ、ねぇねぇ、ジーナって子に会ったよ」
「ああ…… あの嫌味野郎。 顔思い浮かべただけでもムカつく!」
「へぇ、ムカつく顔で悪かったね」
「あッ!! ジーナ」
キリコの隣にパッとジーナが現れた。
「はぁ、なんで君まで来るのさ?」
「キリコの気配がしたからね、梢に会いにきたのかと思ってさ。 いいのかなぁ?」
「ふん、僕はやることちゃんとやってるし」
「間違って殺しちゃうドジしたのに?」
「う、うるさいなぁ!」
「まあまあ、せっかく2人とも来てくれたんだし何か食べてく?」
「いやなんでそうなるのさ?」
「梢様?」
私の話し声が聴こえたのかドアが開くとメイちゃんが不思議そうな顔をして私を見た。
「あ、あれ? キリコ? ジーナ??」
「どうされました?」
気が付けば2人とも居ない。
「あ、ええと…… なんでもなかったみたい」
「?? よくわかりませんが何事もないみたいで」
「うん、おやすみなさいメイちゃん」
「はい、梢様もおやすみなさいませ」
メイちゃんがドアを閉めるとパッと2人がまた現れた。
「どうして消えちゃったの?」
「僕ら普段人前に易々と現れないし」
「来てるじゃん?」
「それは〜ッ!!」
「ふふッ、でもよかった。 キリコもジーナも2人とも変わりなくて」
「まぁ変わりないのは君も同じさ」
2人は私を見てニコッと笑った。
私今はとっても幸せだよキリコ。 キリコに会ってからは確かに辛いこともいっぱいあったけどこうして大好きな人と一緒に居れるし別の世界ってことだけどパパとママも生きていてちゃんと私も生きている。
「ありがとうキリコ、会いに来てくれて」




