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『アウト・オブ・灰塵世界』【完結】  作者: 久瀬 風助@鬼叺 連
【二歩目:陰中に蠢く謀り】
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?.会議室にて

二章開幕です。なるべく週1更新を目指しますので、よろしくお願いします!



 軍内部・匿務会議室にて━━



 7名程の、両手の五指で事足りる人数しか囲んでいない筈の円卓には、呼吸は愚か目を開ける事すらも億劫になる程の物々しい空気が、部屋の隅々にまで充満していた。



 「………表層基地北部にて発生した戦闘。何とか退けたまでは良いが、我ら『要塞都市国家アカツキ』の防衛を担う鏡に、また新たなヒビが入ったようだな。キナリ中将」


 「ハハハ、いやはや…。泣きっ面に蜂を送りつけるのは勘弁して頂きたい。この戦争が始まってからヒビが入らない日は無いモノですから」



 壮厳な軍服を身に纏う、眉間にシワを寄せた初老の男性が、二回りも歳の離れているであろう若者に、細い毒を吐き付ける。


 テーブルに腰掛けながら向けるのは睨み付ける鋭い眼光ではなく、『期待する事を諦めた』事を示唆する放棄の視線。価値を生み出さない、非生産的な、使い物にならない人物の首切りを望んでいる。たった一人の若者に向けて、彼等は目線のみで諦念を投げ付けていた。



 「犠牲となった兵は9名。交戦するに当たって4つの部隊に再編成後、その内の一つが実質機能を停止。指揮官を失った兵士はクラレンスの雑兵共に呆気なく、蹂躙された。……この後始末を、我々が決めれば良いと、そう考えても構わないかな?」


 「いやいやターコイズ中将、何を仰られるか。我等が軍の規範・規律を歪めてまで『手を汚せ』とは言いません。あれはあくまでも情報共有をしなければならない、義務感によるモノですよ。既に自分のケツは拭き上げております故、ご心配なく」



 次の瞬間、『ターコイズ』と呼ばれる壮年の男性の拳は机を強く叩き付けた。座っていた椅子は後方へと吹き飛び、机に置かれたカップは音を立てて横に倒れる。



 「……抜かせ。何をいけしゃあしゃあと。9人殺しの汚名を被る役立たずを生かしておきながら、何が『ケツは拭き上げた』だ。聞けば貴様はヤツを『8(はきだめ)』送りにしたそうじゃないか。


生かして置く価値もないヤツは掃き溜めにも要らぬ。ゴミは溜めておく物ではなく、処分する物だ! 貴様の常識を軍に持ち込むのは大概にしろ!!!」


 「ターコイズ中将、冷静にお願いします。……元帥からの心情を悪くしかねます」



 しかし、付き添う部下がそれを諌める形で言葉を遮る。…毛頭、それを納得している訳もないが、彼も自分の上官である司令官の前では、『立場』は弁えているのだろう。部下の言葉によって自身の憤怒を腹の底まで溜飲した。



 「助かったよ、アサギ君」


 「……………………」



 キナリの言葉に一瞬だけ反応を見せるが、『アサギ』と呼ばれるターコイズの部下は、彼に対しては最終的に沈黙で答える。



 「……まぁ、ターコイズ中将以外にも、今回の僕の処罰に対しては不満を抱く方々はお出ででしょう。当然です。戦犯を生かしている訳ですから。失敗した者は、今後も同じ様な結果を生み出す危険性がある。ならば、矯正よりも粛正…早い話が死刑した方が有意義でしょう。


 ですが……。先程申しました通り。今は戦争中なんですよ。いつ死ぬか分からない隊員を、たった一度のミスで殺せば結局は我々にとって損失が増えるだけです。ならばいずれ、使えるタイミングで使い切る。死ぬのは誰でも出来ますから、そっちの方が有意義だとは思いませんか?」





 ━━しん、と沈黙が走る。





 「……お答えに、なられませんか。まぁそうでしょう。我が軍……『八百万の祝詞』では、師団内での決定権は指揮官に一任されていますからね。


 ウスズミ・フォルシー兵長と、ヒワダ・モルディアン軍曹には、それぞれ既に処分を加えております故、御安心をば……」



 走った沈黙の中を跳弾するかの如く飛び交っていた声が途絶え、本当の意味で沈黙が訪れる。






 「………ターコイズ中将、納得のいく回答は得られたかね」



 静かに、円卓の中心に座る老人の口が開く。





 「はっ……。私の軍人としての経験と矜持が先走ってしまった。此度の無様、どうか御許しを願いたい……」


 「……気持ちは分からないでもない。が、自身の常識よりも現状に対しての柔軟性が何よりも重要視される局面で有る事を忘れるな」



 ターコイズは深々と、自らの頭を下げる。恩赦を受け取ったが故か、それ以降は先程の感情の昂りを潜めて、円卓にて老人の話を静聴する。





 「━━本題に移る。キナリ中将、『プロトタイプ計画』は、どうなっている?」


 「はい。それに関しましては……」




 先程とは異なり、彼も静かに口を開く。

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