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53.先を往け、向かうべき場所へ





 『そりゃ分かんねーだろうさ。道理が通ってねぇんだから』


 「!」



 そこに居る誰もが振り向いた。茫然自失に駆られるウスズミですらも、その声には反応せざるを得なかった。


 目的を嗤う事無く、自分達を匿い、命運を握る責任を背に抱えていた男。ウスズミのくすんだ瞳にも、その姿は映った。乱された脳裏にもその名前は浮かんだ。



 「……カラスバ……ガーネット…」



 藁にすがる思いとはまさにこの事。項垂れたウスズミの口からは、弱々しくその男の名前が呟かれる。


 返されたのは『人生の終わり』を思わせる、そんな覚悟を帯びた混ざりあった微笑み。ウスズミ以上の修羅場を積み重ねてきたからこそ出来る矜持を以て、カラスバは淀みに染まったクロガネを見据えた。



 「『裏切り』、だもんなぁ。形はどうあれお互い様。そこに道理もクソもねぇ。 だがよ坊主、責務と私怨を織り交ぜちゃ説得力に欠けるってモンだ。


 坊主にとっての軍人の責務ってのは、こんな騙し討ちみてぇな方法で人の傷抉るような事か?それを正義と、繁栄と吟う事か?」



 「……そうだ。軍人は徹底的な現実主義によって運営される。騙し討ちだろうと人の傷を貪ろうと、それを繁栄へと繋げるのが僕達だ。


 アカツキも過程や方法が重要視されるような、そんな状況じゃない。そこの軍罰該当者(トレーター)によって機密が漏洩してしまったからだ。それを匿う…ウスズミに加担する真似をするのであれば、それは反乱と同義だぞ」



 カラスバの問い。クロガネの答え。相反する二つの主張がぶつかると、互いの脳天に照準を定めたかのように静けさが走る。聞こえるのは、恐らくは戦獣兵器の唸り声と、崩落のカウントダウンを知らせる瓦礫の音。



 「ウスズミ、ほれ」


 「……!」



 目は見ない。顔も見ない。けれども差し出された手は、握られた数枚の紙切れは、四つん這いのウスズミの目の前に突き出される。 未だに自失の中、ウスズミが握る択を選べずにいる事が分かると、彼の左手にカラスバは紙切れを無理矢理握り込ませた。



 「良いか、お前は俺よりも先を往け。俺ァ此所で終わりだろうからな。 ソイツは『虎の子』の秘密兵器だと思ってくれ、駅舎にいる男に見せりゃ好きなとこまで乗っけてくれる筈だ」


 「……どういう…」


 「━━カラスバ、死ぬつもり?」



 いち早くトクサはカラスバに聞き返す。聞くだけの余力が無かっただけで、ウスズミもその言葉の意味は理解出来ていただろう。 ただし、トクサはその特性上、『それ以上』の事を深堀出来てしまう。


 ━━珍しく、トクサの表情に出ていたのだ。『死ぬ』の意味合いが、普通のソレとは異なっていたから。



 「ッカラスバ…、みじかかったけど、ありがとう。


 ワタシ達をまもってくれて、ありがとう」



 カラスバの返答は、トクサの頭上に置かれた掌のみ。言葉は要らずと、再度対峙する二人に眼差しを向ける。



 「…今何か渡しましたね♪ 何を渡したのか白状してくだされば、私達も手荒な真似はしないんですけど…」


 「冗談言いなさんな、仮初めのお嬢ちゃん。俺の仲間であり家族の面々までこんな業火に巻き込みやがってよ」



 懇切丁寧でありながら敵対的なリンドウ。手に握られているのは、ウスズミのナイフよりも大きい、『軍用鉈(マチェーテ)』に類する黒い刃。

 粗雑なのにも関わらずからかい混じりに敵対心を剥き出すカラスバ。手に握られているのは、軍用鉈(マチェーテ)には遠く及ばない、台所で扱われていた包丁代わりのナイフ。



 「ウスズミィッ!! 空を目指すんだろうが!!!


 コイツ等は俺が食い止めるッ!! ━━走れぇ!!」



 ━━時間稼ぎの為、蹂躙された仲間の為の、たった一人の敵討ち。


 その咆哮を皮切りに、カラスバはリンドウの懐へと切り伏せに掛かる。

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