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50.何故



 消沈が指先から感覚を奪う。


 疲弊が爪先から精力を削ぐ。


 後悔が背中から後髪を引く。



 対峙する敵を前に、僕は二人を未だに『敵』として見れないでいる。もう弱味を見せるべき時では無いというのに、僕の甘さが。優柔不断さが。ただただトクサとスオウの足を引っ張っている。



 動け。立て。あの二人に対して臨戦態勢を取れ。武器を取って戦え。


 二人はどうあれ、軍に従う事を自らの(こころざし)で選んだ。二人は僕を捉える為、或いは殺す為に手段を講じた。『虐』の字を以てこの組織をぶち壊した。


 それ即ち、敵にしか在らず。━━ならば答えは一つだろうに。



 「ッッックソォォォ!!! 何でだ!! 何でだよッ!!」



 何故、僕は、腰に携えたナイフにすら手を出せないでいるのか。


 奥歯を軋ませながら地面に空手を突き付けた所で、二人の意志が変わる訳でもあるまいに。



 自分自身の感覚すら蒙昧に溶かされているのを良い事に。



 依然としてクロガネとリンドウを『敵視』する事を拒んでいる。



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 「……ウスズミ、こわれそう。二人がテキになって……限界、越えそう」


 「チッ。ナーバスな班長だぜ。 …仕方ねぇとはいえ、今は歯ァ食い縛る場面だろ。トクサは下がってな」



 スオウの仁王立ちの背後、自らの負の部分に侵されるウスズミの側へと頷きを返したトクサは駆け寄っていく。 改めてアカツキの軍門へと下ったリンドウとクロガネを前に、スオウの得物(カマイタチ)は遂に抜刀される。



 「この際だ、理由位は聞かせろ。……今は首を狙う間柄になったとはいえ、今までそうだった訳じゃねぇだろうが」


 「関係無い。口を慎めば、せめてお前位ならば命の保証はしてやる。スオウ・ガエボルグ」


 問い掛けは一蹴される。禅問答にすらならない、湾曲した茨のようなクロガネの言葉は、カマイタチの切っ先をリンドウに向けない為の策なのか。……が、無常にも既に五つ、時は先を刻んでいた。



 「━━━!!」


 一手。地を踏み込んだスオウの身体がクロガネへと入り込む。『位置』がズレた途端、クロガネの口からは鈍く、息が漏れる。


 次手。吹き飛んだ先を見据えたスオウは、カマイタチの『機構』を発揮する。箱状の鞘内に挿入した『空気圧の放射』は、水平に薙いだ事で文字通りの『鎌鼬』となった。


 ━━着弾点。瓦礫のみが、格子状に。その上にクロガネは、五体満足で転がっていた。




 「…随分とデカイ口を叩きやがる。遂に名前が威を帯びるようになったか? 実力(ちから)が伴ってねぇんだよ、権威に下った腑抜けが」



 無論、引火した彼女も収まりは付かない。ウスズミが裏切られた行き場の無い感情を自らに叩き込んでいるのに対し、彼女は有効活用しているに過ぎなかった。



 「んー♪流石スオウちゃんね!♪ やっぱり私達の中では一番強い。それは変わってないみたいです♪」


 「だったらどうだってんだよリンドウ。 …テメェは答えてくれんだろうな?何で『そっちについた』のか。あの馬鹿じゃ話になんねぇぜ」




 地下居住区に来る前の一幕。先刻手痛い一撃を送られたクロガネは、少なからず一心不乱にウスズミをアマテラスに見付からないように、表層のナビゲートをしていた筈だった。あれすらも演技なのであれば、あの場に居たルリにまで予防線を張らなければならなくなる。


 スオウにも良心の呵責を覚えるだけの善性はある。…こんな事にさえなってなければ、彼女が自らの『破綻者(イレギュラー)』としての力の無い少女ならば、恐らくはウスズミと同じく最後まで信じようと意志を貫くだろう。



 答えが気になる。洗い出さなければならない疑問点を目の前にしている以上、納得のいく説明が欲しくなる。自らの望む『答え』を得るべく、スオウは『剣』としての役目を出払った。



 「━━はい♪ 分かりました、お教えしますね?」



 ━━けれども。聞かなければどれ程良かった事だろうと、彼女は後悔する事となる。

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