30.迫り来る銃口(3)
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「……そうだったのね。トリオンちゃん達が…」
「……ライジュウに奇襲用の荷電粒子加速機構が組み込まれている事を失念していた。でもあの三体はまだ兵器として運用するには早過ぎる筈で、あんな都合良く僕達の為に現れる訳が……。
……僕はあまり考えたくない。兵器に心があるとでもいうのか?」
「………………。」
部屋には陰鬱とした空気が流れている。
卓を囲んでいるのは僕、クロガネ、リンドウ、ルリの四人。スオウは戦闘での諸々の『傷』を洗い流すべく、その身体を洗い流している最中である。
……そして、寝かされるトクサは、先の一件から一向に目を覚まさない。
「……兵器に同情を抱くのはナンセンスね。……悪いとは思わないけど、良しとしてしまえば私達が壊れてしまう。
損失は少なくないけど、班長もトクサちゃんも、クロガネとスオウちゃんも皆、生きて帰ってきて良かった」
「……心配を掛けた。班長として不甲斐ない……」
「良いんですよ。私、年長者なので♪」
…年長者と嘯くにしても、彼女は明らかに僕よりも一回りは年下だ。気丈に振る舞っているのか、彼女が会話の調子を崩すことは無かった。
「あっ、あのっ………!」
自信の無さげな声が再度、沈黙を呼んだ。
「ト、トクサちゃんがその……。た…『食べた』事についてスルーしてるのは……触れない方がいいからですか……?それとも……言えない何かがあるとか………」
震えた声で挙手をするルリ。事のあらましをクロガネは説明してくれたが、その現象はあまりにも逸脱し過ぎたモノだ。……僕自身も上手く言語化して説明出来る余裕はなく、ルリの提起にはその場にいる全員が、難儀な顔を浮かべていた。
「……確実性が得られない。班長や僕は確かに見た。
けれどもそれを秩序立てて説明するには…色々と不足している。憶測が憶測を呼んで、最終的には飽和する。そうして出た結論が無価値だと言うことは、歴史が証明している」
諭した口調のまま、難しい顔を崩さないクロガネ。彼なりにオブラートを包んで伝えたつもりなのだろうが、ルリは無理矢理納得しようと顔を濁らせた。
その沈黙は肌に痛い物であったが、絶え間なく噛み合う機械の歯車の音に少しだけ懐かしさを覚え、確かに僕は気持ちの落ち着きを感じ取っていた。
「………此処に戻るまで、大体何日位経っているだろうか」
「確か……四日くらいですね」
「……覚えてないのか?」
リンドウとクロガネが答えてくれる。ルリはというと少しばかり出遅れ、喉元に突っかかった言葉に顔を曇らせた。…帰って来れたという、緩やかな安堵が身体に流れていく。
「そうだね。……緊張と疲弊が隣り合わせで、事ある毎に僕を転ばせて来たもんだから。何度が気絶して時間感覚がまだ曖昧なんだ。
此処に帰ってくるまでに二回位命を狙われてたんだが…。」
『はぁー!!スッキリした!!少しだけ!!』
━━けたたましい声のする方へ、トクサ以外の全員が顔を向ける。
「へ?」
「……丁度良かったわ。スオウちゃん、ちょっと…此処に座りましょう?♪」
「リンドウ、ちょっと顔怖くねーか?…待て、無理やり座らせようとするな!服が伸びるわ!」
その時のリンドウの顔を一言で表すなら、まさしく『悪だくみ』だった。 耳に優しくも、彼女の声はスオウに要らぬ勘繰りを招いていた。彼女は座らせて来るリンドウに抵抗するように足を踏ん張らせている。
けれども、冗談だという事が分かると服のシワを指先で払いながら伸ばし、使い古された椅子に普段通り、腰を掛けた。
「(状況を理解しない辺り、二人とも肝座ってるよな……。)……班長がスオウと話したがっている。その状況でよくシャワーなんて浴びれたモノだ」
「仕方ねぇだろ。……あんま気持ちの良いモノでも無かったしさ。
…それで?アタシに話したい事って?」
僕の方へと振り向く。振る舞いは僕の知るスオウのモノと変わらなかったが、彼女が回復したという確証は何処にもない。先の惨状を思い浮かべたであろう彼女の口振りは、精神的なダメージが残っている事の顕れだろう。
…僕の質問内容が、彼女の傷を抉らない事を願いながら、重い口を開く。
「…スオウ、君は『破綻者』なのかい?」
「………!」
━━言葉の内包している意味合いは、彼女の視線を尖らせるのに十分過ぎた。
「そ……それってどういう意味で……?スオウちゃんは確かにはっちゃけてて落ち着きは無いし……でも、イレギュラーって程じゃ…」
「って、おい!どういう意味だよルリコラァ!!」
彼女は『宇涼』が庇護する程に『肯定』に関しては不器用だ。言葉の響きがマイナスなものだと予感したのか。スオウの隣に座っていたルリは再び声を震わせた。…他者を傷つける物に対しての感性は優れているが、逆に他者を守ろうとするとどうしても皮肉めいたモノになってしまう。
しかし、その後のスオウの反応は『破綻者』という、ある種『烙印』への怒りよりもルリの不器用なフォローに対して、不服そうに噛み付いた。
「人ならざる血筋を持つ者達。人々の導き出した機構や、国の在り方を『破綻させる者』。だから『破綻者』。
…スオウが此処に居る理由が、何となく分かったよ。成る程、破綻者だと考えたら納得出来る」
「そりゃ喧嘩吹っ掛けてんのか?」
……何故この二人が先の戦いで生き延びられたのか、些か疑問な積み重なる。クロガネの言葉に噛み付こうとするスオウを諌める意味合いも込め、僕は大きく拍手をする。
「ちっ……」
「話を続けるよ。……決して差別的な意図も、排他的な意味合いも含んでいないから、そこは安心してくれ。僕が此処に来るまで、一回だけ『破綻者』を名乗る人物と対峙した。
…『アニシモ』という敵国の英雄。人と対峙していた筈なのに、まるで猛獣を前にしているような感覚だった」
「…トクサに発生した現象が、もし破綻者のような先天性のモノであれば、スオウ。…君の力が必要になるだろう。
それを踏まえて、皆にはこの場で伝えておきたい事がある。…だからこうして、話し合いの場を設けた」
…自然と僕の方へと視線が集まる。
スオウは変わらず少しばかり鋭い目付きで、クロガネは冷めた眼差しで、ルリは不安げな瞳で、リンドウは眉一つ動かさない目線で。
下層で口にした『決断』を、表出させる。
「僕とトクサは━━」
━━ガチャリっ
「おー居た居た。本当に帰って来てるとはこりゃ驚き。…ま、見つかんなきゃ良かったって思うかもだけどな」
「━━━━!」
しかしその決断は、扉の音と『中将』を意味する勲章の威圧感によって、かき消された。




