表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/142

118.見送り(2)




 ━━意識が明瞭になる。それは『目覚める』とは異なる、言うなれば遠く見ていた胡蝶の夢から『ふっ』と現実に引き戻された感覚だった。


 しかし、そこには幾ばくの余裕も無い、旦夕(たんせき)に迫った狭間の時間であると察した。



 「━━たぞ!!リーダーが起きた!!」


 「刺激するなスオウ!!運良く応急処置が合致していたかどうかも分からない奇跡だ…!


 班長、あまり動いてはダメだ。直ぐに適切な処置をしないと━━」



 ……やはり、僕がこうして目を覚ます事が出来たのは奇跡に等しいらしい。右腕が空を切る感覚も幻覚ではなく、本当に右腕が無くなっているのだと理解した。


 この様相で、本当に僕は戦っていたのかと。思考が巡ろうとした瞬間に、激痛とは異なった『ショック』で思考が止まる。━━この身体は言うなれば、内外共に壊れてしまったガラクタと大差が無いのだろう。かろうじて、かろうじて何とか動いているだけで、次にこの()()に負けてしまえばきっと、二度と目を覚ます事は出来ないだろう。



 「………くは……良い…。それより……ワカバを…此処に」


 「何を言って……助かるかもしれな…」


 「━━ッ分かった、連れてくる」



 目覚めの開口一番の弱さに自分も驚いた。スオウもきっと、僕と同じように『長くない』と察したのだろう。


 クロガネの言うことも分かる。折角目覚めた者を目の前で死なせる等、何れ程の善性が彼にあるとしても許さないだろう。



 ━━ふと、遠くから此方に近寄る音の軽い足音が聞こえた。姿が霞んだ視界に見えた。



 「…………トクサ・アグリース」



 彼女が…トクサが此処まで僕を導かせた。僕に役割を与えた理由だったか。神経も既にズタボロなのか、網膜に写される景色はどうにも先刻のように映らない。褐色の肌と緑の髪の毛、声でトクサだと判断が付く。


 どうやら彼女は、僕を前に膝をついているようだった。



 「……ウスズミ、ごめんなさい。ワタシは…ワタシは沢山の人を殺しました。喰らいました。…身体が覚えているんです。……ワカバも…ワタシが……っ!


 貴方の右腕も…ワタシが食べてしまったんですっ……!


 まだっっ…!その事を謝れてっ……っ…」



 


 ……その言葉に、僕は続ける。




 「……兵器は合理性の上に成り立つ。謝る事が出来る君はもう……兵器じゃない」


 「………っ……でもっ……!」


 「……食べられたのが、片腕だけで良かった」



 霞む、ノイズの走る視界。きっと声を聞く限り、彼女は自らの所業を懺悔して、泣いているのだろう。


 彼女を慰めなければならない。人となった彼女に、人として告白した彼女に答えなければならない。



 側に居るトクサの、淡く靡く薄緑の髪を、優しく撫でる。



 「こうして君を……慰める事が出来る」



 片腕を奪われた事は覚えていた。


 キナリによって、強制的な『兵器』として消費された彼女に理性があったのか。それともただ死ななかっただけの運の帳尻合わせか。どちらにせよ蹂躙の名を冠する戦獣を前に、僕は生き延びてしまった。




 トクサは泣いていた。罪悪を感じながらも、僕の左の掌の中で、抑えていたモノを取り払ったように泣いていた。

 ━━苦境に一人踞る中手を差し伸べられれば、その時に伸べられるのが追求ではなく無償の愛ならば、誰でも人はこうなるだろう。



 「━━リーダー、連れてきたよ」


 「……ありがとう」



 容態が分からないが、返答が無いという事はきっと彼も限界なのだろう。けれども足音はゆっくりと、僕の方に向いている。


 トクサと同じように、僕の側に立つ影がある。……その影に可能な限り、僕は身体を寄せた。










 「━━━━━━━━━━━━━」


 「……要請を受託する。可能な限りの体力を以て、この任務を最後に。僕は活動を停止するかもしれません。


 ━━受託。後は遂行するのみです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ