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116.終局(15)

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 しじまに弾声が木霊する。それは幾重にも重なって、独りでに曇天へと消えていった。


 何が起きたのか。それはアニシモとアサギの目にも映されている。反動によって腰を落とすウスズミと、対照的に地面へと倒れ込むキナリ。『破壊特化型蹂躙戦獣(タイプ・ブロークン)』と銘を打たれた怪物が弾丸に敗れた瞬間だった。



 「━━アサギ…だったかしら?悪いけど……」


 「…大丈夫だ。既に処置は施されている。戦況の確認を頼む」





 ━━━━━━━━━━━━━━



 「はぁっ……!!はぁっ……ぐっ…」



 刻まれた弾痕は『修復』によって徐々に、元の形へと戻っていく。けれども彼の表情に取りついた苦悶が消えることは無い。


 彼の視界は歪んでいた。唯一の欠点(どく)による断続的な消耗に加え、先程全身に隈無く撃ち込まれた悪足掻きとも言える『麻酔弾』。今にも引き剥がされそうな意識の中、回らない思考で彼は必死となる。


 決断が尚早過ぎたのか、それとも彼も破綻者(イレギュラー)としての力を保有していたのか。引き金はキナリ自身の手に握られていた筈だったのに、ウスズミは土壇場であるにも関わらず、キナリの上を行った。


 零距離の攻撃。転ずれば、それは自ら『回避』の選択肢を捨てる事を意味する。


 既に断崖に在るウスズミを、後は突き落とすだった。何故なら片腕も無く、摩耗し切っているからだ。抵抗出来る訳が無い。どれだけ低い確率だろうと、彼は現に。残り一手で状況を逆しまに変えてしまう。





 ━━そんな事が許されて良い筈がない。


 キナリは焦る。そうなってしまえば残る選択肢は『自らが間違っている』事を認めることになるのだから。




 「……僕は…まだ失敗していない……っ!!」




 ━━その言葉を最後に、ローライトに君臨した怪物の姿は、電光を伴って姿を消した。それが遁走だと言うことは、例え限界を迎えたウスズミであっても分かりかった事だった。



 「…………はぁ………」



 座ったまま曇天を見る。気が付けば白んだ空は次第に暗く、見えない何かが沈んでいるのだろうと理解出来た。



 ━━しかし、それはすぐに記憶から消える。



 「━━━ウスズミ!」



 思い出せる事が少なくなっているウスズミ。まるでそれは、秒刻みのカウントダウンが始まってしまったかのようだった。


 駆けつけたアニシモの名前すらも思い出すのにも、数秒を要していた。


 

 「………アニシモ…だっけか。すまないが、トクサとスオウのところに連れていってくれないか」


 「……分かったわ。肩を貸してちょうだい」



 担ぐアニシモは、触れた冷たさと『重さ』に、一瞬だけ目を張った。……力の入っていない筋肉は、しばらくすればきっと軽くなってしまう。


 限界を迎え、後は下るのみ。……今の彼は既に、手の届かない領域、施せない領域にあると理解した。邂逅した敵だった筈なのに、共同戦線を張る数奇な道筋の果て。彼女はウスズミの『最後』に立ち会うかもしれないと、彼の身体をトクサ達の元へと運んでいく。



 「…ゆっくりとね。きっと貴方、まだ彼女達の為にやることがあるんでしょう?」


 「………そんなに分かりやすかったかな…はは…。


 運んだ後は、ラヴの所に?」


 「……えぇ。私が英雄ならば彼は戦士。ビウスと一緒に、弔う事位はしなくちゃ」

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