115.終局(14)
悉くが不発に終わる。如何なる手を、方法を駆使しても、『不可侵』だと言わんばかりに、それらはウスズミに届く寸前で露と消える。
奏功なんてモノには程遠く、状況は一定して変わらない。満身創痍のウスズミと、黒々としたキナリの双方が、白日の元に晒されている。
「………くそぅ…」
面白くない。脳内を埋める劣等はキナリを索漠とさせ、よりその背中を煽る。
彼にも一つ策があった。だがその索には勿論の事、落とし穴がある。いくら狂態を晒していようとも、彼はそれを常に念頭に置いていた。
震える。震える身体。声。
「……これからもっと、面白い事になるんだ…。要塞に等しいアカツキは矛を得る。それは決して繁栄を崩すことは無いと言い切れる…なんせ『僕』がその矛なんだから…!
そうなれば……大戦の勝利は確実…。もっと潤うんだよ……!!」
━━しかし、彼は断行した。
「破綻させるな……お前達の下らない絵空事でッ!! これから先の繁栄を妨げるなァァァァァ!!!!!」
その策はまさしく『必殺』。相対する敵の敗北を確実の物とする、単純なルーティン。
『雷速で敵へと接近し、零距離から『塵化』を行使する』。如何なる分厚い装甲も、素早い身のこなしだろうと、それを越える速度と威力さえあれば対抗する事すら出来ない。
……しかし、接近するのは互いに言える事だ。一瞬をウスズミは逃さないだろうとキナリは躊躇していたが、今の彼は磐石からは程遠い様相をしている。 ━━今ならやれると、血眼を見開かせた彼の身体は白雷を迸らせ、消える。
「…ライジュウの『荷電移動』…それすら使えるようにッ……!!」
彼の提供したデータの中に恒常の兵器である『ライジュウ』は無かった筈だった。何処で着服したのかをクロガネが知る由は無い。例え『毒』という一手を与えても、それが間に合わなければ意味は生まれない。『裏切ってなお意味が無かった』と、彼の視界は反転して黒く染まっていく。
「……裏切って、此処までやったんなら最後まで信じろ」
「……!!」
━━が、膝を付く事はない。ついてしまえばそれが一つの区切りとなってしまう。負けた事を認めてしまう。 激励であり受けるべき責だと、彼を正すようにスオウはクロガネの肩を強く掴む。
隣にはトクサも居る。彼女もまた、目線をクロガネに向けて、言葉を続ける。
「━━信じる事は怖いかもしれない。クロガネにとっては…人が傷付く事よりも。
でも大丈夫。ウスズミは此処まで諦めなかったんだ。だから私は信じるよ」
━━聞こえる声に、自然と耳が傾く。不安と羨望、その中に混じる『安否』。けれども視線を向ける事は出来ない。僕は今、雷速の敵に命を狙われている。
目を逸らせば何らかの形で死ぬ。今は痛みを抑えられているが、身体が致命傷に耐える様になる訳ではない。幾度かの服用で耐性も出来始めているのか、『生き長らえるのはもう限界だ』と痛みが噴出し始めている。
……ふと、思った。僕は果たして正しい選択の上で此処にいるのか?英雄になりたい訳ではないが、たった一人の女の子の為に此処まで我が身を切り裂いた選択は━━━
「━━いや」
……そんな事はどうでも良い。此処までに築いた屍に目を送る事は、彼等への愚弄だと心得ろ。此処で僕が弱さを見せればそこが行き止まりだ。たった一度のミスで、最悪は幾つも想定される。
正しかったか否か?━━脳裏を掠めた御託を振り切る。
もしも彼が故郷にとって正しかったとしても。
この世界にとって都合の良い存在だったとしても。
僕は、その秩序に。曇天に。灰塵に対して睥睨する。
「全弾を……くれてやるッ━━!!」
満身創痍ながらも冷静に、口から出た言葉はかつての対峙を彷彿とさせた。僕の引き金は何度も、何度も、何度となく引かれた。
麻酔薬の全弾発射。反動リコイルもあったが、僕の放った弾丸の全てが、白い輝きと共に現れた『彼』の身体を穿ったのを見た。
「━━っんでだよォッ━━……!!!!」
聞こえたのは、キナリの声だった。