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112.終局(11)





 少女の視界が霞む。


 映るのはただ、ただ白いだけの雲の壁。天井。さっきまで見ていた筈なのに、それが何処か懐かしく思えるのは気のせいだろうか。


 大切な事はちゃんと覚えている。でも、何を失ったような、欠けて台無しになった何かが取り巻いている。朦朧としない自意識の中で、少女は一人だった。


 何をしたのかも覚えている。呼吸が苦しい。本来であれば身体と心が死ぬ筈だったのだと、彼女は理解出来ていた。……けれども生きているのは、やはり何か━━ワタシの代わりに犠牲になったのだろうという事も、取り巻く感覚の違いから読み取ることが出来た。



 「……ごめんなさい、見知らぬ誰か。ごめんなさい、知ってるかも知れない誰か。


 沢山死んだ。沢山壊した。それなのに、ワタシに『生きろ』と託してくれた誰か…っ」



 曇天が霞む。揺らぐ。泣く事は許されるのだろうか。いや、許されなかった所で、これを止められる訳が無い。

 重い、重い、罪の意識。泣かなければこの『誰か』が託してくれた命を、また擲ってしまうだろうから。



 ━━ふと、独白するトクサの肩を、誰かが抱く。



 「……何やってんだよ、全くっ……!」


 「スオウ……心配掛けて、ごめん。でももう、ワタシは大丈夫だよ」



 他人(ルリ)は、英雄は自らの権能のみを頼りにした訳ではない。呑み喰らう蹂躙はあくまでも戦獣兵器の持つ戦闘能力。トクサの持つ唯一無二の権能、『自己改造』はその戦闘能力をより精鋭化させる為の機構。


 『意思のある兵器』として君臨する事が予定されていた自己改造型蹂躙戦獣(プロトタイプ)。しかしその選択権は『トクサ』側にあった事で、彼女は人として夢願う少女となった。


 ━━彼女の自己改造に、■■は英雄(ヒロイズム)の全てを相乗させたのだ。



 「全部…全部覚えてるんだ。……でも何でかな。ワタシの為に代わりに死んだ、誰かの事を思い出せない……」


 「━━ルリ・ベルトロール。たった一人の少女の為に役割を終えた、英雄の名前だ」


 「ルリ……。……どうしたら良いのかな、スオウ。ワタシ、その人の事を何も覚えていない。……ありがとうも、言えていないんだっ…!」


 「そうだな……。辛いよな…っ!」



 慰めるスオウ。今すべき最善の行動だと、強く抱き締める彼女をトクサもまた抱き締める。



 ━━ならば残った怪物に、対峙するのは誰か。










 「………クロガネ、銃を貸してくれないか」


 「は……?」



 隻腕となってもなお、彼は全うしようとする。無理矢理、力任せに千切られた痛みを薬で惑わしながら意識を保つ彼の何処に、そんな余力があるのか。クロガネは推して図る事など出来なかった。


 危機に瀕しても止まる事が無いのは、彼に課せられた役割は『導手(リーダー)』だからなのだろう。



 俯きながらも、視線の先には自失に貶められた哀れな怪物が一つ。証明の果てに失い続け、肉体は総じて憎悪の色に染められている。その末路に相応しく不届(とどかず)に、虚ろながらも振り向く視線が、ウスズミと()()()



 「クロガネ……頼む」

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