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『アウト・オブ・灰塵世界』【完結】  作者: 久瀬 風助@鬼叺 連
【二歩目:陰中に蠢く謀り】
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9.困惑の中(1)

とてつもなくスランプでございます…。(2)に続きます。




 全体像を捉える事は出来る。しかし、何かがポカンと不足している。たった一つのパズルのピースが何処かに紛失した事で、完成しなくなってしまったような感覚に取り巻かれる自分がいた。


 心なしか廊下を歩く歩幅が広く、早くなる。重い軍靴の足音が固い足場に反響する。


 どうにも気持ちが落ち着いていない。自分の疑いにどうしても答えが欲しい。だからといって、『回答(それ)』に行き着く為の情報は不足している。


 このインターバルに対しての苛立ちが後押ししてか、環境音が必要以上に鮮明になる。…此処まで気持ちがあるべき場所に無い感覚は、初めてだった。


 自分は何かに疑問を抱く事のない、機械を彷彿とさせる人間味の薄い兵士だった筈だ。『宇涼(かれ)』が記憶に定着した今、自分の性格には間違いなく変化が起きている。


 それは喜ばしい事なのだろうが、同時に『知らない方が幸せだったのではないか?』とも思う。



 ……と、気がつけば自分は事務作業室に辿り着いていた。



 「……誰もいないな。いくらなんでも自由過ぎやしないか…?」



 部屋の中、自身に仕事を振ったスオウの姿が見当たらない。クロガネとリンドウは恐らく別室で書類の制作などを行っているだろうから、この場に居なくても疑問は無い。


 が、スオウは別だ。自分に原因があるとはいえ、仕事を振り分けてきたのは彼女であった。彼女に充てられた仕事もあるのだろうか?


 考えられるとしたらどのような仕事だろうか。彼女に関して分かっている事はスサノオの遊撃部隊から編属された事と、自分を突き飛ばした際に発生した彼女の異様な『力』に関してのみ。自分の提案に対して、さして疑問も抱かなかった所を鑑みて、思考に関しては比較的短絡的と見ても良いだろう。であるならば、情報の処理を任せられる仕事ではない筈だが……。



 「…何一人で突っ立ってんの?」



 気がつけば、黒髪の少年が怪訝な目で自分を見つめていた。 ”クロガネ・ホーマ”。片手には古めかしいマグカップを手にしていた。湯気が立っている事から、何か飲み物を入れた後なのだろう。



 「………っと、すまない。僕の悪い癖なんだ」



 彼は自己紹介でも同じようなローテンションだった。まともにコミュニケーションを取るのは初めてになる。一先ず、気持ちを落ち着かせる意味合いも含めて、彼と交流を試みる事にする。話題のベクトルを別の方向に向け、冷静だけは保ちたい。…でなければ、再び嫌な自分を晒す事になりかねない。



 「名前は…クロガネ・ホーマで良かったかな」


 「…そうだけど。忙しいから、話す暇があるのなら手伝ってほしいんだけど」


 「別に構わないが…何をすれば良い?」


 「曲がりなりにも上官だから、書類のチェックをして欲しい。…別にリンドウだけでも見てくれれば問題は無いと思うけど、目を多く通して悪い事はないだろう?」


 「うむ…分かった。見てほしい書類は何処にあるのかな?」



 自分と目を合わせず、マグカップを持つ手で方角を示すクロガネ。



 「あっち」



 その後は、彼の持ち場であろうカーテンの奥へと入り、自分の目の前から姿を消す。


……自分の精神的な部分の脆さなのか、それともハッキリとした意図があったのか。彼の口から告げられる言葉の節々には、突き刺さるような角が立っていた。拒絶、不信、侮蔑、受け取り様はいくらでもある分、先の自分の態度が脳裏をチラ付き、両肩と頭を重くした。



 「(第一印象が最悪過ぎたようだ…。あの位置なら恐らくスオウにやられた事が耳に届く筈だし…)」


 「…今度は頭抱えてどうしたの?やるなら早くやってくれないかな」


 「わっっ!?!?」


 「…驚かれても困るんだけど」



 数分経たずに、クロガネは再度目の前に現れる。


どうやら飲み物は持ち場に置いてきたようで、両手には何も持っていない。しかし、手を保護する為の黒ずんだ軍手が、彼の両手を覆っている。



 「…彼女に皆の装備の点検を頼まれた。書類に目を通しながらで構わないから、こっちも手伝ってほしい」


 「あ、あぁ。分かった。…その、気分を害したのならすまない。さっきの僕は考えが纏まってなくて…」


 「………何の話?」


 「その…君の言葉が少し尖りすぎているから、何処かで気分を害したのかな、って」


 「別に普通でしょ。変に気負いしないで、面倒臭いから。…何で君みたいな人が上官なのかは理解に苦しむ」



 ……どうにも、彼の言葉のトゲは彼本来の『素』のようだ。他者を鼻にかけて見下す訳ではないが、恐らく他人に対して気を遣う事にリソースを割かずに、効率や関係性を重視する性格なのだろう。


 最後の一言は胸に強く突き刺さったが、自分がクロガネにそう見えているのだと、心苦しい部分もあるが、溜飲する。


 ゴウン、ゴウンと、規則的な機械の駆動音が鳴りやむ事は無い。常に鉄と油の入り混じったような臭いが鼻を掠める部屋の中、自分は書類を幾らか両手に取り、クロガネは班員全員に支給された拳銃型の兵器を六つテーブルに並べ、一つ一つ点検を開始した。




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